奥津マリリがマグ万平さんとディープにサウナ談義【2021年9月 フィロソフィーのダンス連載「偏愛記」】

4人組ガールズユニット・フィロソフィーのダンスのメンバーが偏愛するものについて語る連載「フィロソフィーのダンス 偏愛記」。メンバーの尊敬する偏愛ジャンルのエキスパートにお話を伺いにいきます! サウナを愛するフィロソフィーのダンスの奥津マリリがお会いしたかったお相手は、サウナの伝道師として活躍するお笑い芸人のマグ万平さん。お会いする前にマグ万平さんの出演する記事を予習するほど気合を入れて臨んだサウナ対談。万平さんが持参してくれた「神田ポートビル」オフィシャル館内着をお借りして、テンション爆上がりのマリリさんでした。

 

取材&文/吉田可奈 撮影/米玉利朋子

●憧れのマグ万平さんとお話しできるということで予習もバッチリです!(マリリ)

 

奥津マリリ(以下 奥津) 私、ずっとマグ万平さんにお会いしたかったんです!

 

マグ万平(以下 万平) いやいや、おかしいですよね。もっといっぱい会いたい人いるはずですから!

 

奥津 あはは。全国のサウナ―はみんな会いたがっていると思いますよ。ちなみに私は、“サウナ界の神”と呼ばせてもらっています!

 

万平 僕はただサウナに入っているだけなんですけどね、そんな風に言っていただいて申し訳ないです…。

 

奥津 今日はたくさんお聞きしたいことがあるんです。私、万平さんの出ていらっしゃる記事、たくさん読んで予習してきました。

 

万平 奥津さん、アイドルなんだから、もっとやらなきゃいけないこといっぱいあるでしょう(笑)。

 

奥津 予習の結果、笹塚のマルシンスパで働いていたっていう情報は掴んでますよ(笑)。サウナとの出会いからお聞きしたいです。

 

万平 僕は7~8年前に“地球”というコンビを組んでいたんです。その相方の一平ちゃんが、かの有名な『テラスハウス』(フジテレビ系)という番組に出演しまして、わかりやすくコンビ格差が生まれたんですよ。当時、道を歩いているときに「写真を撮ってください」と声をかけられるんですが、それはすべて一平ちゃんに向けたものだったんです。僕はマネージャーと勘違いされて、スマホを渡されることが日常茶飯事でした。

 

奥津 『テラスハウス』はすごい人気でしたもんね。

 

万平 そうなんです。それもあって、僕だけ暇な時間が多くなったので、癒しをもとめて サウナに入ったのがざっくりとしたきっかけだったんです。人生ではじめて“ととのった”日のことをいまだに覚えているんですよ。

 

奥津 すごい興味があります! どんなタイミングだったんですか?

 

万平 僕達には新ネタライブという、必ず新しいネタを披露しなくてはならないライブがあったんです。そこでお客さんの反応を見て、ボケを修正したり、ネタを直していくんですが、直すどころか、12個用意したボケが12個スベったんですよ。そのときの客席は真夜中の海くらい静かで…!

 

奥津 飲み込まれちゃいそうですね…。

 

万平 本当に飲み込まれるかと思いました(笑)。そういうときの帰り道は、反省会と称した飲み会があるんですが、僕はお酒も飲めないので、ストレスがうまく発散できていなかったんです。奥津さんも経験があると思うんですが、舞台に立った後って神経が立っているというか。なので、ゆっくりしようと思ってもうまく出来ないですし、バラエティ番組も楽しめないんです。それもあって、一度隣の駅にある銭湯に入ってみようかなと思いついて。

 

奥津 サウナの入り方は知っていたんですか?

 

万平 『サ道』を描かれている漫画家のタナカカツキ先生が大好きだったので、その本にある知識だけは頭に入っていたんです。

●ネタ見せで落ち込んだ帰り道、初めて入ったサウナでととのいました!(マグ万平)

 

――それまではサウナに入ってみようとは思わなかったんですか?

 

万平 僕は福岡県出身なんですが、九州って温泉大国なので、サウナを見るたびに、“なんでサウナと水風呂を潰してお風呂を拡張しないんだろう”くらいに思っていたんです。どちらかと言えば、アンチサウナだったんですよ。でも、浴室に必ずサウナがあるということは、絶対的なニーズがあるということだろうから、どこかで気になっていたんですよね。そんなときに、『サ道』を読んで、“こういう世界があるのか”と。

 

奥津 ちなみに、サウナに行った初回からととのったんですか?

 

万平 初回の2セット目でサウナへの誤解が解けました。最初にサウナに入ったときは、めちゃくちゃ暑いし、室内も乾燥しているから鼻が痛くて。しかも汗だくのおじさんたちが無言でしかも真顔でバラエティ番組を見ているから、異様な雰囲気だなって思ったんです。その後に水風呂に入ったらむちゃくちゃ冷たいし、心臓止まるかもと思って。この時点では、やはりサウナにハマっている人はどこかおかしいって、信じられない気持ちでいました(笑)。でも、2セット目でサウナに入ったときに、なぜか全然暑くなくて! 1セット目は3分も入っていられなかったのに、2セット目は気づいたら5分も経っていて、さらに心地よくなったんですよ。血流が良くなったから、鼻が痛くなくなっていましたし、すごく快適で。その流れで水風呂に入ったら、これがめちゃくちゃ気持ちよくて。1セット目はただ冷たいだけだったのに、2セット目は腕に薄い膜ができ始めて、これがカツキ先生が言っていた“熱の羽衣”かと感動したんです!

 

奥津 すご~い!

 

万平 しかも、整ったときって五感に作用するらしく、僕は聴覚が研ぎ澄まされたみたいで。女性浴室の方から、桶を置く“カラン”って音が聞こえたんです! 近くにいるおじさんのシャワーの音や、水風呂のバイブラの音が聞こえるはずなのに、遠い女性浴室の音がはっきりと聴こえて、“あれ?”って。その後、出たときにぐわっとめまいが起きてコケちゃったんですが、それがまたすごく心地よかったんですよね。駅までの帰り道もスッキリして爽快で、身体は疲れているんだけど、脳はものすごく活性化しているんです。そのおかげで“ネタはああいう感じにすればよかったな”とか、“あの順番はこうしよう”とか、ポジティブに反省会ができている自分に気づいたんです。それにただ歩いているだけでもすごく気持ちよくて、駅まで5分くらいの道のりを、10分くらいかけて歩いて帰りました。その道中は、風が吹いただけで気持ちよくて立ち止まったりもしていましたね。

 

――森羅万象に感謝、みたいな(笑)。

 

万平 もうね、そのくらい衝撃だったんですよ。そこから一気にのめり込みました。今までアンチだったからこそ、反動でそのことしか考えられなくなってしまって(笑)。それからは、とにかく調べまくっていろんなサウナに行くようになったんです。そしたら、サウナ室の温度も違えば、水風呂の温度も違うし、外気浴のベンチの意味がわかったりするうちにどんどんハマってしまって。仕事で行く現場の近くのサウナを探すだけでなく、当時は今ほどサウナの情報がなかったので、かたっぱしから銭湯に電話をかけて“サウナ室はありますか?”“ちなみに何度ですか?”と聞いて調べていました(笑)。

 

奥津 わかります、温度管理って本当に大事ですよね。

 

万平 たまに、詳しく尋ねすぎて“業者さんですか?”と聞かれることもありました(笑)。水風呂がないところもあるので、そこでガッカリしないように“自分で行きたいサウナノート”を作っていました。行けばレポートを書き、ごはんが美味しいところなどもメモしていて。

 

奥津 でも、サウナって結構お金がかかりますよね。

 

万平 そうなんです。ハマった途端にお金が無くなってしまって、バイトを探したんですけど、バイト6時間している間、サウナに入れないのは辛いなって思ってしまって…。

 

奥津 わかります。この6時間があったら、何セット行けるんだろうって思いますよね。

 

●サウナ施設で働けば従業員は無料で入れることを知りすぐにバイトを始めました(マグ万平)

 

万平 思っちゃいますよね。そこで、温浴施設でバイトをしたらサウナに入れるんじゃないかと思って検索をかけたら、笹塚のマルシンスパが募集していたんです。注意事項を読んでいたら、最後に赤字で“従業員はサウナ無料”って書いてあったので、すぐに電話しました。

 

 

奥津 そこでマルシンスパが出てくるんですね!

 

万平 無料でサウナに入れることがあまりにもうれしすぎて、開口一番に「ありがとうございます」って言いましたから(笑)。

 

奥津 なるほど~。いままで万平さんの記事はたくさん読んできましたが、きっかけのエピソードは知らなかったので、大作マンガの第1巻を読んだ感覚です!

 

万平 ちなみに奥津さんは何がきっかけでハマったんですか?

 

奥津 フィロソフィーのダンスの音響をやってくださるスタッフさんがサウナ好きで、その方は現場にサウナに入ってから来ることが多いんです。いつも肌が本当ツルッツルで、顔がシャキッとしているので、「なんか今日違いますね、どうしたんですか?」と聞いたら、「ととのってきたんです」と言われて(笑)。もう目で見てわかるくらいシャキッとしているから、私もライブ前に行けばああいう風になれるのではと思って興味を持ちました。でも、当時は“サウナ―”という言葉が流行り始めていて、ちょっと意識が高い人が行くイメージがあったんですよ。そこで軽率に足を踏み入れてしまうのは怖いなって思ったんです。

 

――たしかに、ルールとかも難しそうだし、尻込みしてしまう気持ちもよくわかります。

 

奥津 私、映画や舞台などを観て感想を言い合うときに、“そういう感想はおかしいでしょ”と相手の意見を下げるような風潮がすごく苦手なんです。どう感じるのかはその人次第なのに、“こう思うのはおかしい”“こうあるべき”と強制されることに違和感があって。サウナにもルールがあるから、間違ったことをしてしまったり、“ととのい”についてあれこれ言われたらどうしようみたいな感じで、“行きたいけど怖い”という思いと戦っていたんです。そこで下調べをしていくうちにマグ万平さんを知り、入り方やサウナ室でやっちゃいけないことなどを知り、ついに決意して行くことにしたんです。

●みんなそれぞれの”ととのい”を持っていてお互いの”ととのい”を尊重し合う空気感に救われてます(マリリ)

 

万平 どうでしたか⁉

 

奥津 実は私もサウナに対して、どちらかというとアンチだったんです。暑いし、汗をかくのは嫌いだったんですが、最初に行った日の1セット目から整っていたのではと思う域に達したんですよ。“なにこれ~⁉”と思いました。

 

万平 最初からととのったんですね!

 

奥津 でも、最初からすごく気持ちよかったから、“まさかこれがととのうってことではないよな”と思って。ネットの情報だと3セット目から来る、と書いてあったので…。

 

万平 どこの情報だ、それ(笑)。

 

奥津 その記事には“目安として3セット続けてください”とあったので、3セットを続けたんですが、やっぱり同じように気持ちがよかったんです。でも、みんながあれだけ言うんだから、こんなものではないはずと調べたときに、“激ととのい(げきととのい)”という言葉を見つけたんです。それからはその言葉の意味を知りたいと思って、さらにたくさん行くようになりました。

 

万平 “激ととのい”はありましたか?

 

奥津 ありましたね…。超ハイパーととのったことがあったんです!

 

万平 すごい! それは何回目だったんですか?

 

奥津 2回目が不発だったんですよ。なので、その翌日にすぐに行って、もう一度試してみたんです。その3回目で、すごく気持ちよくてこれが“激ととのい”かって思ったんです。そこは大黒湯というところだったんですが、目に見えるものがすべて芸術作品のように輝いて見えたんですよ!

 

万平 サビさえもアートに!

 

奥津 そう! だんだんアートに見えて、これは特別な空間なんじゃないかって思ったんです。

 

万平 奥津さん。

 

奥津 はい。

 

万平 それは、“激ととのい”です!

 

奥津 やった~! それは冬だったんですが、帰り道に風が服をすり抜けていく感覚なんですよ。

 

万平 わかります、わかります!

 

奥津 思わずポエムを書きたくなるような、言葉が湧き出てくるような感覚だったんです。それからはもうトリコです!

 

万平 やりましたね…!

 

 

奥津 サウナの何が好きって、こういう風に気持ちよかったと誰かが話すことを否定しないじゃないですか。みんなそれぞれの”ととのい”を持ってるから、それを尊重しあう感じで。私って、他の人とだいたい話が合わないんですよ。映画を観ても、“なんでそこがよかったの?”と言われたり…。アイドルになる前の話ですけど、推しの芸能人さんが出来ても、周りに“なんであの人?”と言われたりすることも多かったんです。そんな風に感性を否定される人生を歩んできたから、サウナの、それぞれの感覚がみんな違って、そのすべてが尊重されているのがすごく素敵だと思ったんです。

 

――思いがけずサウナ談義から、奥津さんの人生を総括するような壮大なエピソードが飛び出てきてしまいました。

 

奥津 あはは。すみません。でも本当にサ活のそういうところに救われているんです。

 

万平 でも、僕も今の話を聞いて、ものすごくサウナに行きたくなりました。サウナって、最初に気持ちいいと思った日はみんな覚えているんですよね。僕はそのサウナ記念日を“産湯”と呼んでいるんです。僕にとっての産湯は、下高井戸にある月見湯です。

 

奥津 私は“ととのいメモリアル”と呼んでいます。

 

万平 それいいな~! 僕もいつか使っていいですかね⁉

 

奥津 もちろんです。忘れられないあの瞬間!

 

万平 初恋と同じ感覚ですよね。あの衝撃は!

 

奥津 そうですね、恋愛と同じくらい素敵ですね!

 

 

 

マグ万平●福岡県出身。プロダクション人力舎所属のお笑い芸人。無類のサウナ好きとして知られる。毎週火曜20:00〜放送中の「マグ万平ののちほどサウナで」(MROラジオ)が放送中。フィンランドサウナアンバサダー、サウナ・スパ健康アドバイザー。

 

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