『アニメ人、オレの映画3本』の連載も今回で3回目。トップバッターの梅津泰臣さんの3本目、最終回をお届けします。監督&アニメーターとしてマルチに活躍する梅津さんが選んだのは、20年の映画賞レースで大きな注目を浴びた『ジョジョ・ラビット』(2019年)。監督・脚色を務めたニュージーランド出身のタイカ・ワイティティはアカデミー脚色賞を受賞し、ハリウッドで注目の才人になった。
果たして梅津さんは本作をどう観たのか、語っていただきましょう! 毎回のお手製イラストも必見です!
取材・文/渡辺麻紀
https://tvbros.jp/regular/2021/07/04/4123/
<プロフィール>
梅津泰臣(うめつ・やすおみ)●1960年福島県生まれ。数多くのアニメ作品で原画・脚本、演出などを務める。主な監督作品に『A KITE』(1998年)、『MEZZO FORTE』(2000年)、『ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル』(2014年)など。
少なくとも『ジョジョ・ラビット』のような奥ゆかしさは昨今のアニメにはあまりない
――梅津さんは、『母なる証明』(2009年)、『レミーのおいしいレストラン』(2007年)に続く3本目として『ジョジョ・ラビット』を選ばれました。
タイカ・ワイティティという監督の作品は『~ラビット』が初めてだったんです。『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)を撮っているそうだけど、観てなかったので。
ほかの映画を観に行ったとき、もう1本はしごしようと思い、ポスターに惹かれた本作を選んだ。大正解でした。とても面白いだけでなく、昨今の日本のアニメ業界に対する僕の想いを代弁してくれているような作品だったんです。
――それは聞き捨てならない言葉ですね。
この映画は“ジョジョ”とあだ名される10歳のドイツ人少年が主人公で、彼の眼を通して世界を見つめている。その世界というのは第二次世界大戦中のドイツ。つまり、ナチスの支配下に置かれた世界が舞台になる。
子供が主人公だとはいえ、彼らにおもねるところもないし、もちろん子供っぽさもない。子供の視点を活かした映画を、ちゃんと知的かつ大人向けに作っていた。
ジョジョのイマジナリーフレンドが、彼の憧れるヒトラーというファンタジーな部分、笑える部分はあるとはいえ、あくまで現実を見つめた映画。そういう少年の成長ドラマとして、大変素晴らしいと思ったんです。
――子供が主人公であり、ファンタジー的な部分もあるにもかかわらず、とても大人っぽくクレバー。しかもちゃんと現実を直視している、ということですね。
僕としてはそこがひとつのツボだった。というのも、アニメーションでも子供を主人公にした作品はたくさんあるんだけど、現実を臨場感たっぷりに切実に見つめた作品はとても少ない。こういう映画を観ると、実写には出来て、アニメにはなぜ出来ないんだろうと思ってしまうわけですよ。
――なるほど。
それに抑制が効いているでしょ? ジョジョのお母さんが反ナチだったので絞首刑にされて街で遺体が晒されるわけだけれど、その死をお母さんの揺れる足先だけで表現している。あのシーンは上手いなーと思いましたね。
――絞首刑にされたお母さんの垂れてぶらぶらしている足にジョジョがしがみつく。母親の死の表現が間接的だけど、とても印象的でしたね。
ああいう死別の表現がアニメではあまり見られない。
その足を印象付けるための演出もしているし、靴に関しては、ジョジョがまだ靴紐が結べないという前振りがあり、母親がいなくなり、悲しみを乗り越えた最後に、やっとひとりで結べるようになる。成長を靴紐でも表しているんです。
――そこまでやるって、ちょっとしたジョークのつもりなのでは?
いや、真面目にやっていると思いますよ。
――そうなんだ……そういうのって、演出家が観客を信用してないからなんですかね。つまり、それぐらいしつこく表現しないと観客は分からないと思っている。
あるいは、伝わらないのではという不安が制作側にあるのか? 僕にも理由は分かんないですけどね。少なくとも『~ラビット』のような奥ゆかしさは昨今のアニメにはあまりない。
――あの大ヒットした『鬼滅の刃 無限列車』(2019年)も、キャラクターが考えていること等、すべてセリフにして伝えていると聞きましたが、そうやって説明過多なのが最近のアニメ界の風潮なんですか?
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