“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造を持った作品のこと。そんな裏切り映画を語り尽くす本連載。今月は『ファイト・クラブ』と『ユージュアル・サスペクツ』2本立ての後編です。さあ、語っていただきましょう。
取材・文/渡辺麻紀 撮影/ツダヒロキ
※この記事は『TV Bros.』本誌12月号(発売中)でも読むことができます。
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【前編では】
『ファイト・クラブ』と『ユージュアル・サスぺクツ』は、「語り手を疑う人間はどこにもいない」という刷り込みを利用した“同じ種類の映画”だと語る押井監督。
そして、最後のネタが割れても楽しめるのはブラッド・ピットとエドワード・ノートンというキャスティングの強さが映画を支えた『~クラブ』に軍配が上がり、『~サスぺクツ』は、スぺイシーの語りを再現ドラマ化しただけでいまいち魅力が薄く……というお話の続きです。
※【2024年12月号 押井守連載 #11『ファイト・クラブ』と『ユージュアル・サスぺクツ』前編】はこちらから

『ユージュアル・サスペクツ』はFPS
『ファイト・クラブ』はTPS
――だから『ユージュアル・サスぺクツ』の二度目の鑑賞はつまんないんですね。
押井 そうです。違う言い方をすると、妄想をカタチにしちゃったのが『~サスペクツ』、ノーンを三人称で描き切ったのが『~クラブ』。ゲームの世界でいうとわかりやすいかもしれない。『~サスペクツ』はFPS(ファースト・パーソン・シューター/主観で遊ぶシューティングゲーム)、『~クラブ』はTPS(サード・パーソン・シューター/三人称で遊ぶゲーム)。ちなみに私はFPS が大嫌い。ゲームのなかに自分の分身がいることが好きなのでTPS。世界を主観的に体験したいと思ってないから。
――な、なるほど。
押井 だから、話を戻すと『~サスペクツ』は一見するとよく出来ていて、主観の世界で完結しているのである意味、とても見やすい。最後に全部がウソだってわかるんだし。でも『~クラブ』はもっとわかりにくい。視線が引いている分そうなる。麻紀さんが『~サスペクツ』の二度目の鑑賞がつまらなかったのはそういうわけなんですよ。
――私の場合、一度目からさほど驚かなかったんです。というのも、いかついおっさんが出てくるのに「コバヤシ」という苗字でしょ? これはヘンだなって。種明かしでボードに貼っている書類等から名前を頂いていたことがわかるけれど、それについても「その距離で見える?」って。
押井 麻紀さん、そういう見方をしたというのは、映画に入り込んでないからですよ。伏線の張り方が『~サスペクツ』は即物的なので、わかりやすいんだけどネタバレするともう面白くない。でも『~クラブ』は伏線が役者の芝居のなかに練り込まれているせいで見えにくい。わかりやすさと演出の深さや濃さというのは比例しないんです。むしろ反比例するくらい。
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