chelmicoのニューアルバム「maze」。自身たちでも「ゴチャ混ぜ」と語るように、その読みは「メイズ」ではなく「マゼ」。四方八方に意識が振り回されるようなヴァリエーション豊かな作品でありつつ、その中心にはラップスキル、メロディセンスの高まったchelmicoの2人がしっかりと存在する、chelmico印のポップさで彩られた超充実作です!
取材&文/高木”JET”晋一郎 撮影/横山マサト
目次
自分たちが子供の頃にchelmicoにいて欲しかった
――chelmico待望のニューアルバム「maze」が発売されました。
Mamiko:作ったね~。
Rachel:作ったよ~。
Mamiko:どうだった?
――スゴいアルバムを作りましたね、ホント。
Mamiko:わーい!
Rachel:どうスゴかった? ねえねえ?
――感想圧が……(笑)。ポップな曲も、ディスコも、エレクトロっぽい音響も、もちろんヒップホップもと、色んな要素が絡まりあって、ジャンル分けをして聴くことが出来ないアルバムだし、リリックのテーマ的にもとにかく幅が広い作品だから、聴く人によって捉え方は全然違うんだろうなって。でも、そこにchelmicoっていう芯が通ってるから、バラバラな作品には聴こえないし、とにかく楽曲もラップもクオリティが高くて感動しました。
Mamiko:ウチらとしてもゴチャ混ぜだなって思ったからタイトルを「maze」にしたんだよね。
Rachel:いろいろ混ざりすぎて、何から話していいのかウチらもわかんない(笑)。
Mamiko:最初に予想してた着地点ともちょっと違うしね。でもそれで結果、最高傑作になったって感じ。
――アルバムのテーマは立てていましたか?
Mamiko:一番最初に立てたテーマのひとつが「トラウマ」だったの。例えば「クレヨンしんちゃん」の「ダメダメのうた」とか、ちょっと怖いCMみたいな、曖昧な記憶の中にあるんだけど、香りとか景色とかでふっと思い出すような不思議な記憶、みたいなものをひとつのテーマにしようって。
Rachel:基本的にはマミちゃんのアイディアだよね。
Mamiko:「トラウマや! 今回のテーマ、ワシはトラウマやと思うんや!」って何故か関西弁で(笑)。Rachelは優しいからそこに付き合ってくれたの。「Easy Breezy」も実はそういう側面があって、主題歌を担当した「映像研には手を出すな!」の影響で、4~5歳の子とかがchelmicoを聴くようになってくれたりしたんだけど、そういう子が大人になったときに「なんか変な曲あったの覚えてるな」「女性2人組がラップしてて、2人が伸びたり縮んだりするMV観たな」「でも格好良かった!」とか、そういう風に思い出して欲しいなって。そういう意味でのトラウマを与えたかった(笑)。
――子どもにトラウマ……まさかのナマハゲ気分で(笑)。
Rachel:私は「無垢な気持ちに届くもの」っていう気持ちがあったかな。それがトラウマっていう方向でもいいし、私達が子どもの頃にRIP SLYMEを聴いて「なんだか分からないけどかっこいい!」って思った気持ちでもいいし、プリミティヴな状態の感情に届くような作品にしたかった。だから「自分たちが子どもだったときに、私たちがいて欲しかった」って思えるような作品を作りたかった。
ナマハゲくらいの意気込みでトラウマを与えたかった罠ゾーン!
――トラウマという意味では「maze」「Limit」「いるよ」「ごはんだよ」の中盤4曲は、子どもにトラウマを与えそうな流れですね。
Rachel:「Easy Breezy」で楽しんでた子供たちが一気に「ビクッ!」とするゾーン(笑)。
Mamiko:罠ゾーン(笑)。
Rachel:この流れで「Limit」がじつは超変な曲だっていうのがバレたよね。
――「Limit」のMVも真顔と笑顔の対比というのが、ちょっと神経症感ありますね、じつは。その意味でも、非常に個人的な感触なのですが、「ちょっとおかしいゾーン」は、自分が小学校の頃に聴いた、たまの「しおしお」というアルバムを思い出しました。掴みどころのないモヤモヤした不安がじわっと襲ってくる作品で、いまでもその胸のザワザワを覚えているんですが、もしかしたら「maze」を聴いた子どものなかには、そういう感情をずっと持ち続ける子もいるかもなって。
Mamiko:このアルバムの軸になっているのがこういう不思議な曲たちっていう部分でも、「このアルバムが今までとはちょっと違うな」って分かってもらえると思う。だから「ちょっとおかしいゾーンに入りますよ」っていう区切りとして、ライヴでもDJをやってもらってる%C(TOSHIKI HAYASHI)にインストの「maze」を作ってもらって。
――Aalko aka Akiko Kiyamaさんがトラックを手掛けた「いるよ」は普通に怖い曲ですね。
Mamiko:ホラー映画を作るみたいな気持ちで作ってたから。
Rachel:「いるよ……」
Mamiko:「きゃー! 怖い!」
Rachel:そういう感じ(笑)。でも作り手が爆笑しながら撮ってるのが想像できるホラー映画みたいな感じかな。
――「死霊のはらわた」もサム・ライミが爆笑しながら作ってたといいますね。
Rachel:「ここでいきなりお化けが出てきたら絶対ビビるでしょ!」みたいな。だから怖いものを作るのって楽しいって思ったし、やられたら嫌だってことを形にした道徳違反の曲(笑)。マミちゃんと一緒にNetflixの「呪怨:呪いの家」も観たしね。一緒じゃないと無理だったけど。
Mamiko:人のことは怖がらせたいけど、じつはめっちゃビビりだから、私たち(笑)。 映画でいうと、映画「リング」の曲(HIIH「feels like “HEAVEN”」のイメージ。普通に良い曲だし、曲としては怖がらせるような内容じゃないんだけど、あの曲が掛かると絶対にみんな貞子を思い出すでしょ。そういう感じの曲が作りたいなって。 その部分はAalkoさんのビートに導かれた部分があるかな。Aalko節が炸裂してたから、ちょっと怖かったり、不安になるような方向に導かれたっていう。
――アブストラクトだったり、ダークミニマルな印象のあるAalkoさんのトラックから引き出されたと。ちなみに「リング」の曲って、もともとYo-C* + Tomo* Featuring Rie「Heaven」という形で97年にリリースされてて、ハードハウスやハッピーハウス系のイベントで掛かるような曲だったんですよね。それをマイナーコード化して、「リング」の主題歌になったという。
Rachel:なるほどね~。
――思い出話で恐縮ですが。
Mamiko:そうなんだね。あと「ねないこだれだ」って絵本があるじゃない?
――寝ないとお化けに連れ去られてしまうという、数多くの子どもにトラウマを与えている、せなけいこさんのベストセラーですね。
Mamiko:そういう絵本みたいな不思議な怖さを形にしたいなって。でも、この曲だと「お化けはいるから」って余計にビビらすことになっちゃうけど(笑)。
――「ごはんだよ」は、韻の踏み方や言葉の切り方も含め、ラップスキルがとにかく高まってますね。
Rachel:「ごはんだよ」は32小節ずつラップしてて。昔は絶対嫌だったと思うし、「8小節ずつで」って甘えてたと思う(笑)。でもいまは32小節ひたすらラップしても聴かせれるようになったのかなって。
Mamiko:内容的にも、自分の中のモヤモヤした気持ち悪さみたいなものは、32小節ないと書き切れなかった。
――曲の内容にあるような、自分の中のトラウマを引き出すのは辛い作業だと思うんですが。
Rachel:結構辛かった。
Mamiko:嫌だったね~。
Rachel:でも長谷川白紙さんのトラックからスルッと引き出された感じもあるよね。ビートによって勝手に喋らされちゃったっていうか。
――「ごはんだよ」という言葉は、幼少期や、無力だった自分と支配を象徴するような言葉でもあるから、そのワードチョイスはスゴく面白いなと。
Mamiko:そうそう。「『ごはんだよ』ってけっこう怖い言葉だよね」って2人で話して。
Rachel:でも「自分を守ってくれる言葉」でもあるし、大人になったらもう守ってくれるものはないんだっていう意味もあって。 だから懐かしい気持ちにもなって欲しい。
――ただ、このゾーンが終わると「Premium・夏mansion」という非常にアッパーな曲に展開するので、子どもも安心だと思います(笑)。この曲は2人も影響を受けているRIPSLYME的なマナーも感じるのですが。
Rachel:そこはそんなに意識してないかな。夏っぽい、バカっぽい曲を作ろうっていうのがキッカケで。
――そうなんですね。マミちゃんのリリックに「楽園」という言葉が出てくるのは、「楽園ベイベー」へのオマージュかなとも思って。
Mamiko:そう言われればたしかに。でも完全に無意識だったな。
Rachel:「熱帯夜」ってリリックもあるけどそこも無意識だよね。
Mamiko:たぶん DNA に刻み込まれてるからなんだと思う(笑)。あとエロくしようっていうイメージはあったよね。
Rachel:うちら的には相当エロい曲だから(笑)。聴く人によっては淫らな感じがあるかも知れないけど、明るくパーティーな感じにもしたくて、そのバランスもリップっぽいかも。
Mamiko:夏フェスに出られたらこの曲で水鉄砲を打ちたかったよね~。
Rachel:やりたかった~。