【2020年7月号】劇画狼の「獣次元!新刊マンガガイド」【無料記事】

第弐回
無駄に戦闘力の高いキャラが説明なく紛れ込んでいる
マンガは最高!

 ロッテン ピッテン サッテン! 今日もマンガの細かいところを一切読み取れず、伏線にも気付けず、その他「書評で稼ぐ」ということに対しての成長を完全に放棄した生活を送っておりますが、逆に「重要なところが特に説明されない作品」に関しては任せろ! ということで、そういったマンガを今回もアレしていきます。

 改めて、マンガの面白さのひとつに「説明不足」というのがありますね。例を挙げ始めればキリがないんですが、最後まで読み終えたときに「結局何だったんだあれは……?」と思わされる時が一番「マンガ読みとしての生」が輝くというのは皆さんご存じかと思います。

 たとえば最近面白かったもので「説明がない」のがいい方向に作用していた作品といえば、楠本哲先生の『レイナ』。

 基本的にはストーカーホラーの話なんだけれど、主人公を執拗に追いかけるレイナの戦闘能力が異常に高いことに対しての説明が無いままテンポよく話だけが進んでいく怪作。気配を消して背後に回る能力、動けない人間を躊躇なく轢き殺す能力、拷問の知識などを高次元で併せ持った、特殊部隊みたいな一般OLストーカー活劇は、説明不足好きにとっては最高のご馳走な上、レイナの口臭が酷くて終始マスクをしているという設定も最後まで深く説明されることがなく、最終的に主人公が〇〇にされるというバカさと怖さのバランスが高次元でバランスした顛末は一読の価値ありです。いやー、楽しいですね。 無駄に戦闘力の高いキャラが説明なく紛れ込んでいるマンガは! 

 特に説明がなかったといえば、『メイコの遊び場』もよかった。昭和48年の大阪を舞台に、「精神世界を自由に支配して、昭和の子供の遊びをモチーフにした精神攻撃で対象を破壊しまくる少女の話」もいよいよ最終巻。基本、精神攻撃で知性を奪われた人間がヨダレ垂らしながらアーアー言ってる描写があるだけで100点という大前提の上ではありますが、普通こういうマンガで必ず挿入される「主人公・メイコがこういった能力を経て、なぜ仕事人稼業をすることになったのか」という「過去編での掘り下げ」が無いのがすごくいい。めちゃくちゃ話は逸れるけど、過去編といえば『男塾外伝 大豪院邪鬼』(原案/宮下あきら 作画/柳田東一郎)で、男塾本編の数年前を舞台にした戦いで独眼鉄が死んだの最高でしたね。いつも言ってますけど。『樹海少年ZOO1』(原作/ピエール瀧 作画/漫$画太郎)の過去編で世界が崩壊したのと併せて、マンガ界での二大時空分裂です。

 明るい意味での説明不足として『りもで・りんぐ』も面白かった。天才女子高生が家電を再利用して時空や人間の精神に干渉する道具を山ほど発明するのでこちらも是非。

 今年下半期こそ、マンガの伏線に気付いたりできる人間になりたいなー! 
 
 第一話で江夏が事故って死にかけるのは宇野球一が登場する伏線!

楠本哲『レイナ』(少年画報社)※1巻完結

 

岡田索雲『メイコの遊び場』(双葉社)※3巻完結

 

ふくたいさお『りもで・りんぐ』(GOT)
※コミックサイト「COMIC MeDu」で連載中

 

劇画狼(げきが・うるふ)●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。大阪で7/19まで「長尾謙一郎クロニクル」開催中です。7/26から8/16までは相原コージ「ムジナ展」。8/15サイン会あるよ!詳細は以下で。
画廊モモモグラ公式HP

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TV Bros.編集部
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