5月、6月と2回刑務所に行った話。【大根仁 2021年6月号 連載】

おおね・ひとし● 映像ディレクター。監督を務めたV6「僕らは まだ」のMVがYouTubeで公開中。

知り合いが刑務所に収容されてから半年が経ち、友人2人と共に「そろそろ面会に行こうか」という話になった。「じゃあオレ、LINEしとくわ」「見れないでしょ!」みたいなベタ&お約束ギャグはともかく、3人とも刑務所に行くのは初めてなので、段取りがわからない。

スマホでヤツが収容されている某刑務所のホームページを見ると、【面会について】という項目に、【土日祝日・年末年始を除く平日の以下の時間受け付けています。①午前8時30分から午前11時45分まで②午後0時45分から午後4時00分まで】とある。
「え?じゃあいきなり行っても大丈夫ってこと?」
「いくらなんでもユル過ぎじゃね?」
「なんかもう少し規則とかありそうだけどなあ」
散歩がてら隣町に住む友人に会いに行くわけではないのだし、わざわざ数時間かけて行って「会えません」ではシャレにならん。このテのホームページが説明不足なのはよくあることだ。きっと何らか細かいルールがあるに違いない。

翌日、友人の一人(以下A、もう一人はYとする)が刑務所に直接電話をかけて聞いてみると「なんか結構めんどくさいすわー」とのこと。
「まず面会リストに名前が無いとダメみたいです」
「面会リスト?」
「それはアイツが刑務所の中で提出するんですけど、名前と住所が必要なんですって」
「ん? 名前はともかく住所は知らないよな?」
「だから手紙を出す必要があります」
つまり、まずは手紙を出す。それで手紙に記された名前と住所を書いて「この人が来たら面会に応じます」という面会リストとして、刑務官に提出する。刑務所側は、その人物が被収容者にとって、出所した後に社会復帰の手助けになりそうな職業や関係であると判断した場合、面会者として認める……ということらしい。めんどくさっ!! ちなみにオレは、半年前にヤツが収容されてすぐに手紙を出しているのだが、アイツが面会リストに入れているかどうかはわからない。

「じゃあとりあえず、この日に行くから面会リストに入れておいて。って手紙を出すか」
「そうすね、じゃあ俺が出しておきます」
数日後、塀の向こうから手紙が届いた。
「3人共面会リストに入れておきました! 大根さんは前に手紙をもらった時に速攻で面会リストに入れてます! お会いできるのを楽しみにしています!!」
おおっ、なんだか元気そうじゃないか。

「ん?ちょっと待てよ……」
ふと気づいた。果たしてAとYは刑務所サイドから【出所後の社会復帰に役立ちそうな職業や関係】だろうか? アイツとAは親友とも言って良い関係ではあるが、Aは現在無職だ。本人は小説家を目指していると言うが、作品はおろか文章を書いている姿すら見たことがない。たまに知り合いのバーを手伝っているようだが、ハイボールひとつまともに作れないボンクラ野郎だ。Yは一応、舞台役者をやっているが、こいつもここ数年役者仕事どころか舞台にすら立っておらず、交通誘導員のバイトで生計を立てている。オレが刑務官だったら絶対に社会復帰に役立つとは思わない。
「そんなこと言ったら、大根さんだって不安定な職業じゃないすか!」
「バカ言ってんじゃないよ。これでも一応は映画監督だよ。テレビドラマだって、CMだって撮ってるんだ。お前らと一緒にするんじゃないよ。この前なんて大山勝美賞を獲ったんだぞ」
「何すか?それ」
大山勝美賞とは、NHK・民放・プロダクションなどの枠を超えて、放送メディアおよび放送文化に強い関心をもつ人々が、個人として参加している団体「放送人の会」が、毎年テレビドラマの優秀なクリエイターの功績を讃えて……って、こいつらにわかるわけねえか。

「とにかく3人で行って、オレしか会えないって可能性あるからな。覚悟しておけよ」
2週間後の昼過ぎ、某地方都市の駅前にオレたちはいた。この街には何年か前に、深夜ドラマのモデルになった人物の取材で一度だけ訪れたことがある。「なんかその時に薦められた蕎麦屋のラーメンとカレーライスがめちゃくちゃ美味かったんだよなあ」と、微かな記憶を辿って駅前をフラついていると、その店はすぐに見つかった。店構えは汚いが、ラーメンとカレーの味は記憶通りだった。

先輩として3人分の勘定を済ませて「さて腹も膨れたし、行こうか」と、駅前からタクシーに乗った。10分も走ると車窓に牧歌的な風景が広がる。五月晴れの陽光が遠くの山々の緑をより深く照らし、窓を開けると爽やかな風が吹き込んだ。暑くもなく、寒くもなく、湿気もない。一年中この陽気ではないだろうが、冬でも平均気温が高いこの土地の気風は、刑務所と聞いて連想するドンヨリ感とは無縁に思える。さらに到着した刑務所の外観は、地方都市の役場のようで、威圧感など微塵もない。周囲を囲むのは高く頑丈な壁ではなく、誰でも乗り越えられるほどの高さのフェンス。

「え? ここ?」
「なんかイメージと違うな」
「鉄の門とかじゃないんすね」
「見張り台とか無いんすね、ライフル持った刑務官もいないしw」
「簡単に脱獄できそうっすねw」
笑い合っていると、入り口にある小さな建物から、制服職員が声を掛けてきた。
「面会ですか?」
「はい」
「じゃあこのバッヂを付けて、あそこの面会場で受付をしてください」と、プラスチックのバッヂを手渡して、建物の端を指差した。行くと、そこは小さな病院の待合室ほどの大きさで、透明板の向こうにいる職員から、面会希望の書類に名前・住所・職業・被収容者との関係を書くよう指示された。

ふと隣のAを見ると、職業欄にいけしゃあしゃあと「小説家」と書いている。
「お前、いつ小説家になったんだよ?」
「小説家じゃないすか。まだ出版してないだけで」
「小説家っていうのは、作品が出版されて世に流通して、読者が読んで、それで初めて小説家なんだよ。お前は椎名桜子か? 職業小説家、ただ今処女作執筆中か?」
「は?なんすかそれ?」
今こいつに、かつてマガジンハウスが大ハッタリをかまして売り出そうとしたものの、大スベリをして赤っ恥をかいた1980年代カルチャーの徒花・椎名桜子の説明をしている暇はない。隣のYは「役者」と書いていたが、食えていないとはいえ偽りではないだけまだマシだ。

書類を提出し、椅子に座って待っていると、入り口から別の面会希望者が入ってきた。ふと見ると、2メートル以上ある格闘家のような黒人と、全身タトゥーで髪をピンクに染めたガリガリの白人女性!! オレたち3人は同時に吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。さらに続いて入ってきたのは作業着姿の男3人で、親方らしきオッさんと東南アジア系の若者2人。母国語で話す2人に「マスクしろ馬鹿野郎!!」と親方が怒鳴りつけ、狭い待合室はあっという間に人種の坩堝となった。

以前、この刑務所のことを調べたのだが、ここには殺人などの凶悪犯はおらず、窃盗や薬物などの比較的刑期の短い受刑者が収容されるらしい。とはいえ、犯罪者に面会に来る人たちって……濃いわあ。もしこの状況を映画やドラマで撮ることがあったとしても、この設定は思いつかないわ。っていうかエキストラの主張強過ぎるわ! なんてことを考えていると、金属探知機ゲート……おそらくこの奥が面会室だと思うのだが、ゲートの向こうから刑務官がやって来て、オレたちのバッヂの番号を読み上げた。
「荷物や携帯電話はロッカーに入れてますね? 中に入ってください」
さあ、いよいよ面会だ。オレは当然として、小説を書いたことのない小説家も舞台に立っていない舞台役者も、どうやら面会が許可されたようだ。

 

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