猫のつまらない話 第5回【2020年11月号 能町みね子 連載】

文&題字イラスト/能町みね子 写真/サムソン高橋

 

 猫飼いたい気持ちはずーっとうっすらあった私ですが、逆に言えば、うっすらしかなかったのです。あまり現実味がなかった。

 まず私は長いこと一人暮らしだったうえに、家にいることがとにかく嫌いで、仕事だって絶対に喫茶店でやる。会社勤めしているわけでもないのに、朝ごはんも食べずに家を出て、夜中まで帰りません。日によっちゃあ喫茶店を四軒くらいハシゴして仕事をして、晩ご飯まで食べてから夜中に帰宅します。誰も片づけてくれない、汚くなるばかりの自分の家なんて、極力いたくないのだ。家は単なる荷物置き場+寝床である。それに、すぐに旅に出て、一週間くらい家を空ける。

 そんなぬくもりのない部屋に猫ちゃんを呼べるわけがありません。いまどきの猫は室内飼いがふつうだってことは私だって知ってますからね。外と中を行き来する自由な飼い方はちょっと怖いから、飼い主が長期不在になることが多い時点でゲームオーバーなんです。

 ところが、なんだかんだで私は二人暮らしになったのである。夫(仮)なる同居人は、旅こそ私以上に好きだけれども、日常的にはかなり長いこと家にいるタイプです。この時点でかなりハードルが下がりました。

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