「ガストロンジャー」と、ガタイの良い男【大根仁 2020年10月号 連載】

いつもと違う夏は、エレファントカシマシの日比谷野音ライブで終わった。

毎年恒例のエレカシ野音だが、入場時の検温、マスク着用、客席は半分と、やはりいつもとは様子が違った。
17時、この季節の野音の空はまだ明るいが、周囲からは虫の声が聞こえる。
夏の残り香と秋風が混ざった空気の中、メンバーが登場すると、いつもなら「宮本!!」とあちこちから飛び交う声が、今年は無い。

1500人の拍手に包まれ、始まった1曲目はエレカシ野音でおなじみの「『序曲』夢のちまた」。過去、何度この曲をエレカシのライブで聴いたかわからないが、今日はやけに透き通って聴こえる。

♪〜春の一日が通り過ぎていく ああ今日も夢か幻か 夢のちまた

曲が終わると、やはり歓声や掛け声は無く、静かな拍手が鳴り響く。
思い返せば、この曲が収録されている3rdアルバム『浮世の夢』をリリースした頃のエレカシのライブは、いつも静かだった。
「宮本!」と声を掛ければ「うるせえ!!」と怒鳴り返され、席を立つことも許されず、客はただ黙って曲を聴き、終われば拍手。その繰り返しだった。
野音のエレカシは、その頃=初期の曲を演ることが多いが、今回のライブは「地元のダンナ」「何も無き一夜」「無事なる男」「晩秋の一夜」など、滅多にやらない曲が多く、オレのような初期〜低迷期のエレカシ好きをニヤリとさせる。

♪〜ディンドン ボクはひとりで連日連夜いろんなものと戦ってゐる。
  世界や日本の歴史や 世間の常識や歯がゆさと。
  ボクはひとりで連日連夜いろんなものと戦ってゐる。
  文明やあらゆる偉人や友情や恋のかけひきと。
  ヘヘイヘイ なんてな 。
  いつでも高みをのぞんでは 敗れていくのが ボクのクセらしい。
                      (「地元のダンナ」)

メジャーブレイク以降のエレカシも、もちろん好きだし、ありがちな鬱陶しい初期ファンのようなこと言いたくないが、あの頃、宮本と一緒に鬱屈していたオレと、会場を埋め尽くすほとんどの客とは、曲の響き方が違う。
まあ、こんな曲が売れるわけがないんだが。

前半は、そんな通好みの曲に、初期の代表曲「珍奇男」「デーデ」「星の砂」などを織り交ぜて進んだ。

空が暗くなり、周囲の高層オフィスビルの、いくつかの窓の灯りが浮き上がる。
日曜夜に働いている人がいるのか……野音のライブに来るといつも思うことだが、あの窓の中まで、この音は聴こえるのだろうか?

野音の良いところはたくさんあるが、会場後方の売店で酒が買えるのもその一つだ。
「ガストロンジャー」のイントロに合わせて、缶ビールを開けて飲む。
美味い。実に美味い。

♪〜お前正直な話率直に言って日本の現状をどう思う?
  俺はこれは憂うべき状況とは全然考えないけれども
  かと言って素晴らしいとは絶対思わねえな俺は。

エレカシには己を鑑みながら政治的メッセージを歌う曲がいくつかあるが、中でもこの「ガストロンジャー」は逸品。この曲を国会議事堂のすぐ側で演ることに意味があるのかどうかわからないし、ましてや国会議員に響くとは思えな……あれ?
20メートルほど離れた席にスーツ姿のガタイの良い男がいることに気づいた。

 

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