押井守のサブぃカルチャー70年「YouTubeの巻 その17」 【2022年10月号 押井守 連載第52回】

今回も押井さんがよく見ているというVチューバーチャンネル「あおぎり高校」について。ごくごく自然にメタしちゃったところが面白い「あおぎり高校」のお話にはじまり、「メタ」をテーマに、『新世紀エヴァンゲリオン』~『うる星やつら』へと、お話は広がっていき……。

取材・構成/渡辺麻紀

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加筆&楽しい挿絵をプラスして待望の書籍化!
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当連載がついに書籍化しました。昭和の白黒テレビから令和のYouTubeまで、押井守がエンタメ人生70年を語りつくす1冊。カバーイラスト・挿絵は『A KITE』(1998年)などを手掛けた梅津泰臣さんが担当し、巻末では押井×梅津対談も収録。ぜひお手に取ってみてください。

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押井守/著
『押井守のサブぃカルチャー70年』
発売中
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社
カバーイラスト・挿絵:梅津泰臣
文・構成:渡辺麻紀

『うる星やつら』というシリーズに対する自己言及が『ビューティフル・ドリーマー』だよ。

――Vチューバ―についての3回目です。前回、押井さんの推しチャンネルとして「あおぎり高校」をあげて頂きました。そのメンバーのなかでも大代真白がイチオシ。彼女がやっているメタなノリが素晴らしいとおっしゃっています。

学校形式なので、新入生もいれば転校生もいて、卒業だってある。チャンネル自体は存続して、イベントや生徒を変えることが出来る。しかも、生徒を複数抱えることで競争意識も芽生えるから刺激にもなる。そういうところも上手いなと思ったんだよね。

――確かに新鮮さを保つことが出来そうな構成ですね。

見ているうちに、大代真白の中身に興味がわいてきて、そうか、こうやってみんなキャラにハマっていくんだなあと実感したんですよ。編集した映像だと、どこまでがホントでどこまでがウソか判らない。スプーンに一瞬、素顔が映っているように見えることもあるけど、それがホントだという保証はどこにもない。だから、そのキャラに興味をもった人はライブを見る。ライブのときにもいろいろとやらかすのでギリギリ感があって面白いし、大代の中身を垣間見たような気持ちになれるからですよ。

――そういうメタなチャンネルってほかにはないんですか?

どうなんだろう? あるのかもしれないけど、私は知らないなあ。ゲーム系のVチューバーは結構いても、明らかに演じているのが判ってしまうし。ここまでやっているのは、やはり珍しいんじゃない?

この大代が面白いのは、メタを狙ってるふうじゃないところ。やっているうちにそうなってしまったという感じ。やってみたらそっちのほうがウケたので、じゃあそうしようかってノリですよ。これ見よがしにメタ構造にしているわけじゃなく、ごくごく自然な流れのなかでキャラクターから中身の人に変わってみせる。なぜそう思うかというと、そういうのって計画的には出来ないだろうから。つまり、それくらい自然なわけですよ。

「あおぎり高校」は、いまのVチューバーの究極の在り方だと思う。これ以上は考えにくい。ただ、そうやってスレスレでやっているところが刺激的で面白いんで、身バレ、顔バレした段階で終わっちゃうだろうけどね。

――それって押井さん、私が腐女子漫画や小説で、ふたりが寝ちゃったら興味が失せるというのと同じですかね?

(笑)まあ、似たようなもんじゃない。虚実のドキドキ感を楽しんでいるからそうなるんですよ。もしかしたら、それがエンタメの本質かもしれない。

私は昔から、自己言及的な構造をもった小説や映画が大好きだったけど、それはそれ以上に興味をそそるものがなかったからなんだよ。あとはお話が面白いかどうか、あるいはキャラクターが魅力的かどうか。やはり私は、映画と小説という形式がもっている面白さはメタフィクションにつきると思っている。ただ、残念なことに、お客さんはそうは思ってないみたいでさ。

――虚構と現実の境界線があやふやなのが、押井流に言うとメタフィクション?

そうです。私と同じことをやっても『エヴァ』だったらウケるわけだ。『エヴァ』(『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』〈1997年〉)はそういう額縁を壊してしまった。突然、セルを裏返したりした。線撮になっているシーンで、間に合わなかったのかなと思わせておいて、その延長線上で突然、セルを裏返し「これはセルだぞ」と宣言した。もうメタどころか脱構築。すげえことやっているなって思ったよね。

同じことをやって私の場合は怒られるのに、『エヴァ』は客がつめかける。これはなぜなんだって考えてしまった。

――でも押井さん、観客は理解しているんですか?

映画をあまり観たことのないような若い子たちは、よく判んないと思うよ。「ヘンなことやってるな。まあ、庵野だから仕方ないか」くらいなんじゃないの? 

じゃあ、そういう彼らが何で劇場に行くのか? 綾波(レイ)に会いたい、アスカ(惣流・アスカ・ラングレー)を見たいと思うからですよ。私にはその部分がない。そういうワケの判らないことがあったとしても、観たい何かがあるか? 綾波がいてアスカがいて、かっこいいアクションがあってということですよ。そういうシーンを楽しむために、よく判らない部分は我慢するんです。

――我慢するんですか?

我慢です。だって、判らないんだから。

――それって、ちょっと(クリストファー・)ノーランの映画っぽいですね。わけわかんないけど観たいと思う。『TENET テネット』(2020年)とか、判った人いるのかなあって。

ノーランの映画は映画的な魅力があるから。アクションもあればキャラクターの魅力があり、かっこいいおねえさんが出てくるし、突然、ボンド映画のようなアクションシーンになったりする。快感原則を満たしてくれる要素が満載なんです。前も言ったけど、それが(ドゥニ・)ヴィルヌーヴとの差。そういう快感は大作ならでは。ノーランの作品には大作じゃないとダメな理由がちゃんとあるんです。ノーランが力業でいつまで好きな映画を撮っていられるか、見ものだよね。

で、本題に戻すと、「あおぎり高校」の面白さはごくごく自然にメタしちゃったところ。それは偶然だけではなく、YouTubeという形式に素地があったんだと思う。とりあえず頻繁に配信しないといけない。そうじゃないとあっという間に忘れ去られてしまう。だから、あらゆる可能性を試す。何でもいいから面白いことを考えようって。一番怖いのはネタ切れだからね。私はそういう気持ちもよく判る。

――そういう経験があるんですか?

『うる星やつら』(1981年~1984年 フジテレビ系)をやっているとき、まさにそういう状態だったからですよ。2年目くらいまでは原作があったから、まあまあ普通にやっていたけど、最後の半年間はその原作もとっくに終わり、ネタがなくなってしまった。

そこで演出家と私の4人でミーティングを開き、もうワンクール続けるためにそれぞれが3話、オリジナルで脚本を書こうということになった。そうすれば12本になる。そういう切羽詰まった状態だったから、シャワーからトロロが出てきて、それが暴れ回るというシュールでナンセンスな物語が生まれてしまったんだよ。まあ、そのころ観たしょーもない映画、何だっけ。シャワーからミミズが出てくるの?

――もしかして『スウォーム』(1978年)ですか?

それそれ。そのネタをパクったんですよ(笑)。あとは面堂(終太郎)と(諸星)あたるが大金庫に閉じ込められ、どうやって脱出するか? これも登場人物がふたりだけなのでアフレコがラクという理由なんだけどさ(笑)。ネタがつきたら誰だってめちゃくちゃやり始めるもんなんです。しかも、そうなったら思いのほか、面白いものが生まれたりする。

――そう言われれば、長く続いたTVシリーズ等にそういう展開ありましたね。ご贔屓だった『こちらブルームーン探偵社』(1985年~1989年)も、ふたりが一線を越えた途端、先の読めない展開になって、毎週ワクワクしてました。

そういうのもTVシリーズのよさなんだよ。自己崩壊現象というか、やけくそ現象が起きて、最後はどうしてもテーブルをひっくり返したくなる。全部ウソなんですよと叫びたくなるんですよ。私の場合、それが『ビューティフル・ドリーマー』(『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』〈1984年〉)なんだけどね。

――おお、それはなるほどですね!

『うる星やつら』というシリーズに対する自己言及が『ビューティフル・ドリーマー』だよ。あれも開き直ってメタにしたの。そういうホンがそのまま通るとは思わなかったので、いろいろ作戦を練ってどうにか辿り着いた結果ですよ。前の『オンリー・ユー』(『うる星やつら オンリー・ユー』〈1983年〉)のような作品だけは作りたくなかったから。そもそも、作っている最中から、「なんでこんな行儀のいい作品を作ってんだ?」って思ってたくらいだし。

だから『~ドリーマー』公開後は、もしかしたらそれなりの騒ぎになるかもしれない。そうなったらしばらくは監督出来ないかも、なんて考えていたんだけど、意外なことにみんなが楽しんでくれた。まあ、その成功に気をよくして、次に『天たま』(『天使のたまご』〈1985年〉)を作っちゃって、結局は3年間干されちゃったんだけどさ(笑)。そのあと『パト』(『機動警察パトレイバー』シリーズ)に出会わなければ、どうなっていたか判らないからね。

――そうでしたね(笑)。

だから、クリエーターにはそういうリスクがつきものなんですよ。大代真白だって、これからどうなるか判らない。そこを当人たちもネタにしてるから面白いんです。「そもそもこの事務所、いつ夜逃げするかわかんないじゃん」と言っているし。

そういうリスクを常に感じながら、あらゆることに挑戦して、恐いものナシという感じ。唯一怖いのはアカバンだけ! そういうような勢いを感じる。まさに潔し! ですよ。

――ということは、Vチューバ―は「あおぎり高校」だけでいいんですね?

だってこれ以上のチャンネルはないから、もういいんじゃない?

※次回第53回は11月13日(日)配信予定です。

<プロフィール>
押井守(おしい・まもる)●1951年東京都生まれ。映画監督。大学在学中より自主映画を制作。1977年、竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)入社。スタジオぴえろ(現・ぴえろ)を経てフリーに。主な監督作品に『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)、『イノセンス』(2004年)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年)など。また、近著に『押井守のサブぃカルチャー70年』『押井守のニッポン人って誰だ!?』『誰も語らなかったジブリを語ろう』、『誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版』、『シネマの神は細部に宿る』、『押井守の人生のツボ』(すべて東京ニュース通信社刊)など。構成/脚本を務めたアニメ『火狩りの王』(WOWOW)が来年1月より放送・配信予定。 

 

投稿者プロフィール

押井守(おしい・まもる)
押井守(おしい・まもる)
1951年東京都生まれ。映画監督。大学在学中より自主映画を制作。1977年、竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)入社。スタジオぴえろ(現・ぴえろ)を経てフリーに。主な監督作品に『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)、『イノセンス』(2004年)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年)など。また、近著に『押井守のサブぃカルチャー70年』『押井守のニッポン人って誰だ!?』『誰も語らなかったジブリを語ろう』、『誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版』、『シネマの神は細部に宿る』、『押井守の人生のツボ』(すべて東京ニュース通信社刊)など。
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