次作で引退するタランティーノ監督を芸能界イチ愛するトム・ブラウン みちおが語る『パルプ・フィクション』

 デビュー監督作『レザボアドックス』が話題となり、2作目の『パルプ・フィクション』では第47回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、その名を広く知らしめて以来、唯一無二の作品を発表し続けてきた映画監督、クエンティン・タランティーノ。かねてから長編映画を10本撮って映画監督を引退することを公言しており、最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が9作目として2019年に公開されたので、公言通りであれば次作で引退することとなる。日本の芸能界にもタランティーノファンは多いが、『M-1グランプリ2018』の決勝で、唯一無二の漫才スタイルでお茶の間に衝撃を与えたお笑い芸人・トム・ブラウンのボケ担当・みちおは大の映画マニアで、中でもタランティーノ作品をこよなく愛しているのは有名な話だ。芸能界イチのタランティーノ・マニアのみちおに、作品への想い、次作での引退についてファンとして思うことなど、語ってもらった。

 

撮影協力/カラオケパブ凱旋門 
撮影/横山マサト  取材・文/編集部

 

タランティーノとの出会い


 

 

 

──タランティーノ監督は母親が大の映画マニアだったことから、幼少期からマニアックな映画を見ていたらしいのですが、みちおさんが映画を見始めたきっかけはどんなものでしたか?

みちお:僕が映画を見始めたきっかけは、親父の影響が強いですね。親父とは、親子というより友達に近い関係で、『おい、遊び行くぞ!』と言って、よく僕を遊びに連れてってくれたんです。大体、夜ご飯を食べ終わったら、ゲームセンターに行くか、ラーメン屋に行くか、ビデオ屋に行くかっていう3つのお決まりルートがあって。ビデオ屋に行くと2・3本ビデオを借りてきて、返しに行くときもまた2・3本借りて…っていうのが定番だったので、子どものころから映画はよく観ていました。 

──素敵な関係ですね。その頃はどんなジャンルの映画をご覧になっていましたか?

みちお:映画を見始めた頃はシンプルな激しいアクション映画が好きで、5歳から7歳までは、シュワちゃん(アーノルド・シュワルツネッガー)の『コマンドー』が大好きで、見まくってました。あとは、ジャッキー・チェンの作品も好きで、特にユン・ピョウが好きでした。

──アクション映画から始まり、いつ頃からタランティーノ作品を見始めたのでしょうか?

みちお:タランティーノ作品に出会ったのは小学5年生の時で、最初に見たのは『パルプ・フィクション』ですね。

 

──小学生が見る作品としては、グロテスクなシーンも多いのでショッキングな体験でしたよね。

みちお:いや、『コマンドー』にも斧で手を切ったりするシーンもあったので、グロさには慣れていましたね。

 ──小学生にして、耐性があったんですね。では『パルプ・フィクション』でヴィンセント(演:ジョン・トラボルタ)が車内で銃を誤射したせいで、後部座席が血まみれになるシーンや『レザボアドッグス』で拷問で耳を削ぐシーンを見てもあまり気持ち悪く感じなかったんですか? 

みちお:いや、あのシーンは流石に「うわっ!」って驚きました。それは、子どもの頃に見ていた『コマンドー』とかと違ってリアリティーがあったから。『レザボアドックス』の耳が削がれた跡の真っ赤な部分が映し出されるシーンは、自分が削がれることを想像しちゃいました。

──そこで気持ち悪く感じていながら、タランティーノにハマったのはどういった経緯があったんでしょう?

みちお:最初に『パルプ・フィクション』を観た小学5年生のころは、ストーリーがあまり分からなかったんです。面白そうな雰囲気の映画であることは感じていましたが、例えば「ダイヤモンドを盗み出す」とか「攫われた娘を救い出す」みたいな分かりやすい大まかなストーリーが『パルプ・フィクション』にはなくて、子どものころの僕にはイマイチ掴みきれませんでした。でも高校生の頃に、デビット・フィンチャー監督の『セブン』やブラッド・ピットの『ファイトクラブ』で、映画により一層のめり込むようになって。そういう作品を好きになってから、より作品を頭で理解しながら集中して見るようになったんです。タランティーノ作品って一瞬でも目を離したら、物語に追いつけない作品が多いから、子どもの頃はあまりハマらなかったんだと思います。19〜20歳ぐらいの頃に周りの人から「もう一回『パルプ・フィクション』見てみたら?」とすすめられて、久しぶりに見てみたらものすごく面白くて。そこ以来、『パルプ・フィクション』は僕の中で殿堂入りの作品になりましたね。

──19〜20歳の頃に見返した時は、『パルプ・フィクション』のどういったところに惹かれたのでしょうか? 

みちお:子どもの頃は、ブルース・ウィルスが演じるプロボクサー・ブッチの回想シーンで、幼い頃のブッチに戦死した父親の戦友・クーンツ大尉(演:クリストファー・ウォーケン)が父親の形見の金時計を敵に見つからないように尻の穴に隠して届けにきてくれた、というシーンの意味が分からなかったんです。でも、改めて見返した時はそのシーンがすごくおもしろくて、同時にすごく感動しました。気持ち悪いのに感動できるってすごいことだなと思いましたね。しかも、その時計をわざわざ命がけで取りに行くというのもすごく良くて。子どもの頃は、単に家に置いてきた時計を取りに行くだけとしか思ってなかったんですけど、自分の命を狙う殺し屋のヴィンセントとジュールスがそこにいると分かってるのに取りに戻るなんて、それほど大切な時計なんだ、と亡くなった父親を想う気持ちに感動しました。

サミュエル・L・ジャクソン演じる殺し屋・ジュールスは銃の引き金を引く前に旧約聖書のエゼキエル書25章17節を暗唱するが、実際のエゼキエルの文章は一部分だけで、実際はタランティーノが敬愛する千葉真一主演映画『ボディガード牙』の冒頭に唱えられるセリフを引用している。

──ブッチが父親の形見の時計を取り戻すために殺し屋がいる家に戻るシーンですが、ラストシーンではヴィンセントはレストラン強盗から逃れたにも関わらず、その中盤のシーンではトイレから出てきた後にブッチと鉢合わせて、銃で撃たれてしまいますよね。時系列を整理して思い返すと、レストランで強盗から逃れても、その後に銃で射殺されてしまう最期を迎えるわけで、少し切なく感じます。 

みちお:悲しいですよね(笑)。ただ、「死ぬところが終わりではない」というのが『パルプ・フィクション』のメッセージだと僕は勝手に思っていて。死ぬまでにその人がどんな行動をして生きてきたのか、ということが人間にとって大事なんだと教えてくれている気がするんです。ラストシーンに、中盤に殺されたジョントラボルタが生きていた頃のシーンが画面に映し出されて、その生き様を見ることができるのは、すごくいいんです。

──深いですね。既にたくさんお話ししていただきましたが『パルプ・フィクション』で特に好きなシーンはありますか? 

みちお:全部好きなので、難しいですけど、考えると…。う〜ん、やはりブッチが拷問されているマーセルス(演:ヴィング・レイムス)を助けるために日本刀を持って地下に行くシーンですかね。

──自分の命を狙うマフィアのボス・マーセルスを助けに行くシーンですね。『レザボアドックス』でも最後に潜入捜査官ミスター・オレンジ(演:ティム・ロス)が最後まで自分を庇ってくれたマフィアに自分が刑事だと打ち明けてしまいますが、タランティーノ作品のキャラクターは命が懸かった危機的状況でも自分が損する行動をあえて取ってしまうキャラクターがいて、不思議ですよね。 

みちお:そうですね。でも俺はそういうシーンを見ると「そうだ!そう、そう!そうあるべきなんだ!」とグッとくるんですよね。タランティーノ作品は観ていて全く予期していない、良い意味での裏切りがあるのが魅力の一つなんです。自分に得がなくても、痛めつけられている敵を見捨てられず助けに駆けつけたり、自分を信じてくれた人に自分が裏切り者だと告白してしまう。それって損得なしの「人情」ってことですよね。

──深作欣二監督の「義理人情」を重んじたヤクザ映画に影響を受けているタランティーノならではのエッセンスですよね。『パルプ・フィクション』以外でタランティーノ作品で好きな作品はなんですか? 

みちお:全作品好きなんですけど、僕の中では1位・2位が圧倒的で。1位が『パルプフィクション』なら、2位が『イングロリアス・バスターズ』です。ナチス親衛隊(以下:SS)のランダ大佐(演:クリストフ・ヴァルツ)がユダヤ人を迫害するために主人公でユダヤ人の女の子・ショシャナ(演:メラニー・ロラン)を匿う酪農家のもとを訪れる冒頭のシーンでは、はじめはフランス語で喋っていたのにショシャナたちが床下に隠れていることに勘づくと、会話がバレないように英語で話し始めて、床下に隠れていることをショシャナたちに気づかれないように酪農家に自白させる。そのやりとり一つ一つにものすごく痺れて、序盤から「とんでもない映画だ」と心を鷲掴みにされました。しかも物語が進むにつれて、どんどん面白くなっていくんです。ラストシーンのアルド・レイン中尉(演:ブラッドピット)のセリフもすごく好きで。交換条件としてアメリカへの亡命を約束したランダ大佐に「お前はアメリカに亡命したら、そのかっこいいSSの軍服は脱ぐんだろ? それだとお前がこんな残虐なことをしてきたって誰にも知られなくなるわけだ。俺、それ許せないんだよ。だから脱げない印を今からお前につけてやるよ」と言って、ランダ大佐の額にナイフでハーケンクロイツを刻み込む。物語のあちこちに散りばめられた細かなセリフや伏線が繋がっていくのが痺れます。

次作の引退宣言について思うこと


──タランティーノ監督は10作目を最後に映画監督を引退すると公言していて、次がラストの作品ということになりますが、ファンとしてはどのようなお気持ちですか? (※『キル・ビル』はvol.1&vol.2で1つの作品としてカウントされる)

みちお:とにかく悲しいです。10本と言わず、20本撮って欲しいと思っているので…。最新作の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が9作目だから、もうあと1本ですもんね…。すごく悲しいです。

──タランティーノ監督の意図としては、引き際を間違えたくないという思いがあるみたいです。

みちお:その気持ちはすごく分かるし、しょうがないから受け入れようという気持ちもあるんですけど…。ダサくなってもいいからタランティーノ監督の作品はずっと見ていたいというのが正直な気持ちです。でもそれは、タランティーノ監督の気持ちだから僕は尊重したいです。でもやっぱり、ずっと見ていたいですよね(笑)。

みちお

【プロフィール】
みちお
●1984年生まれ。北海道出身。お笑いコンビ トム・ブラウンのボケ担当。

 

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
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