次作で引退するタランティーノ監督を芸能界イチ愛するトム・ブラウン みちおが語る『パルプ・フィクション』

デビュー監督作『レザボアドックス』が話題となり、2作目の『パルプ・フィクション』では第47回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、その名を広く知らしめて以来、唯一無二の作品を発表し続けてきた映画監督、クエンティン・タランティーノ。かねてから長編映画を10本撮って映画監督を引退することを公言しており、最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が9作目として2019年に公開されたので、公言通りであれば次作で引退することとなる。

日本の芸能界にもタランティーノファンは多いが、『M-1グランプリ2018』の決勝で、唯一無二の漫才スタイルでお茶の間に衝撃を与えたお笑い芸人・トム・ブラウンのボケ担当・みちおは大の映画マニアで、中でもタランティーノ作品をこよなく愛しているのは有名な話。芸能界イチのタランティーノ・マニアのみちおに、作品への想い、次作での引退についてファンとして思うことなど、語ってもらった。

撮影協力/カラオケパブ凱旋門 
撮影/横山マサト  取材・文/編集部

                                   

【Profile】
みちお
●1984年12月29日生まれ、北海道札幌市出身。お笑いコンビ・トム・ブラウンのボケ担当。

                                                   

タランティーノとの出会い


──タランティーノ監督は母親が大の映画マニアだったことから、幼少期からマニアックな映画を見ていたらしいのですが、みちおさんが映画を見始めたきっかけはどんなものでしたか?

みちお:僕が映画を見始めたきっかけは、親父の影響が強いですね。親父とは、親子というより友達に近い関係で、『おい、遊び行くぞ!』と言って、よく僕を遊びに連れてってくれたんです。大体、夜ご飯を食べ終わったら、ゲームセンターに行くか、ラーメン屋に行くか、ビデオ屋に行くかっていう3つのお決まりルートがあって。ビデオ屋に行くと2・3本ビデオを借りてきて、返しに行くときもまた2・3本借りて…っていうのが定番だったので、子どものころから映画はよく観ていました。 

──素敵な関係ですね。その頃はどんなジャンルの映画をご覧になっていましたか?

みちお:映画を見始めた頃はシンプルな激しいアクション映画が好きで、5歳から7歳までは、シュワちゃん(アーノルド・シュワルツネッガー)の『コマンドー』が大好きで、見まくってました。あとは、ジャッキー・チェンの作品も好きで、特にユン・ピョウが好きでした。

──アクション映画から始まり、いつ頃からタランティーノ作品を見始めたのでしょうか?

みちお:タランティーノ作品に出会ったのは小学5年生の時で、最初に見たのは『パルプ・フィクション』ですね。

 

──小学生が見る作品としては、グロテスクなシーンも多いのでショッキングな体験でしたよね。

みちお:いや、『コマンドー』にも斧で手を切ったりするシーンもあったので、グロさには慣れていましたね。

 ──小学生にして、耐性があったんですね。では『パルプ・フィクション』でヴィンセント(演:ジョン・トラボルタ)が車内で銃を誤射したせいで、後部座席が血まみれになるシーンや『レザボアドッグス』で拷問で耳を削ぐシーンを見てもあまり気持ち悪く感じなかったんですか? 

みちお:いや、あのシーンは流石に「うわっ!」って驚きました。それは、子どもの頃に見ていた『コマンドー』とかと違ってリアリティーがあったから。『レザボアドックス』の耳が削がれた跡の真っ赤な部分が映し出されるシーンは、自分が削がれることを想像しちゃいました。


 

──そこで気持ち悪く感じていながら、タランティーノにハマったのはどういった経緯があったんでしょう?

みちお:最初に『パルプ・フィクション』を観た小学5年生のころは、ストーリーがあまり分からなかったんです。面白そうな雰囲気の映画であることは感じていましたが、例えば「ダイヤモンドを盗み出す」とか「攫われた娘を救い出す」みたいな分かりやすい大まかなストーリーが『パルプ・フィクション』にはなくて、子どものころの僕にはイマイチ掴みきれませんでした。でも高校生の頃に、デビット・フィンチャー監督の『セブン』やブラッド・ピットの『ファイトクラブ』で、映画により一層のめり込むようになって。そういう作品を好きになってから、より作品を頭で理解しながら集中して見るようになったんです。タランティーノ作品って一瞬でも目を離したら、物語に追いつけない作品が多いから、子どもの頃はあまりハマらなかったんだと思います。19〜20歳ぐらいの頃に周りの人から「もう一回『パルプ・フィクション』見てみたら?」とすすめられて、久しぶりに見てみたらものすごく面白くて。そこ以来、『パルプ・フィクション』は僕の中で殿堂入りの作品になりましたね。

──19〜20歳の頃に見返した時は、『パルプ・フィクション』のどういったところに惹かれたのでしょうか? 

みちお:子どもの頃は、ブルース・ウィルスが演じるプロボクサー・ブッチの回想シーンで、幼い頃のブッチに戦死した父親の戦友・クーンツ大尉(演:クリストファー・ウォーケン)が父親の形見の金時計を敵に見つからないように尻の穴に隠して届けにきてくれた、というシーンの意味が分からなかったんです。でも、改めて見返した時はそのシーンがすごくおもしろくて、同時にすごく感動しました。気持ち悪いのに感動できるってすごいことだなと思いましたね。しかも、その時計をわざわざ命がけで取りに行くというのもすごく良くて。子どもの頃は、単に家に置いてきた時計を取りに行くだけとしか思ってなかったんですけど、自分の命を狙う殺し屋のヴィンセントとジュールスがそこにいると分かってるのに取りに戻るなんて、それほど大切な時計なんだ、と亡くなった父親を想う気持ちに感動しました。

サミュエル・L・ジャクソン演じる殺し屋・ジュールスは銃の引き金を引く前に旧約聖書のエゼキエル書25章17節を暗唱するが、実際のエゼキエルの文章は一部分だけで、実際はタランティーノが敬愛する千葉真一主演映画『ボディガード牙』の冒頭に唱えられるセリフを引用している。

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