メジャーとは一線を画し、全国のライヴハウスやカフェ、バー、飲み屋などをツアーして回る“ツアー・ミュージシャン”たちにスポットを当てる「旅と酒とブルーズと」。先週の吾妻光良に続いて登場していただくのは、吾妻光良の大先輩(師匠?)にあたるベテラン・ブルーズマン、永井“ホトケ”隆だ。
70年代前半からウエスト・ロード・ブルース・バンドのヴォーカリストとして活躍。70年代半ばに巻き起こったブルーズ・ブームの中心的存在として輝きを放ち、現在のバンドであるblues.the-butcher-590213まで一貫してブルーズを歌い続けてきたホトケさんに、ブルーズという音楽についてじっくり語っていただいた。インタビューを行なったのは、盟友・近藤房之助のバースデイ・ライヴの翌日。房之助さんへの愛ある苦言から話は始まった。
取材・文/染野芳輝
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バンドって、ああせい、こうせいって指示してやってもダメなんです。相手を受け入れ、待つことも必要。B.B.キングは凄いですよ。
ーー昨日はお疲れ様でした。
実は演奏を始める前に少ししゃべるつもりだったんですよ。悪態ついてやろうってね(笑)。だけど、アイツ(近藤房之助)がすぐにギター弾き始めちゃったんで、歌わなしゃあないな、と。
ーー房之助さんも「ホーさんはきっと憎まれ口叩くよ」って言ってましたから、危機回避したんですかね。ホトケさんは、昨日は久しぶりにギターを弾かず、ハンドマイクでしたけど。
ギター弾くつもりだったんですけど、西(慎嗣)さんもいるし房之助もいるから、ギター3本は要らんやろと思ってね。曲も2曲と言われてたんだけど、俺の出番の時点で30分ほど押してたから、1曲でいいよ、と。
ーーそうだったんですか。でも、熱のこもったソウル・バラードで、グッときました。
「Nothing Takes The Place of You」、お前の代わりになるものなどないという曲。つまり、近藤房之助の代わりになるシンガーなどいない。そんな話をしてからこの曲を歌うつもりだったのに、あいつが勝手に先走って始めちゃうもんだから、何も言えなかった。まったく、もう。そんな感じですよ。
ーー悪態はついても本心では房之助さんを深くリスペクトしている、ということですね。
それはもう。あんなシンガーは他にいない。だから余計に歯がゆいというか、もったいないなと思うんですよ。アイツ、もう8年ぐらいアルバム出してないでしょ?
ーー房之助さんにもインタビューしたんですけど、アルバム3枚出す!って言ってましたよ。昨日のライヴでも最後のMCで“出します!”って宣言してたし。
やるやる、とは前から言ってるんですけどね(笑)。いよいよ、やらなしゃあない状況になってきたのかもしれんね。やってほしいよ。
ーーほんとそう思います。アルバム出してほしい。
そもそも、自分のバンドがないというのが良くないよね。バンドみたいなものを作っては壊し、作っては壊しで、1年ももたんのと違うかな。でも、バンドというのは最低でも5年はやらないと、なんともならんと僕は思うんですよ。そこがね、アイツは堪え性がないというか。確かにバンドをやるのって面倒臭いんですよ。自分とは違う人間が3人とか4人とかいて一緒にやるわけですから、思ようにならないこともあります。ただ主張するんじゃなく、相手を受け入れたうえで自分を出さなきゃならない。かなり我慢も必要です。たとえばシャッフルのリズムひとつとっても、すぐにドラマーが叩けるかと言ったら、そんなことはないんです。ブルーズのドラムはそんなに簡単じゃない。だから、僕は待ちますよ。できるようになるまで。
ーーブルーズはシンプルなだけに難しい、ということですか?
そう。ウチのバンド(blues.the-butcher-590213)の沼澤君(ドラマーの沼澤尚)は全然ブルーズの人ではなかったんだけど、一緒にやることになった時、誰のどのアルバムを聴けばいいか、会うたびに聞いてくるんですよ。レコード屋から“これはどうですか?”なんてメールしてきたりもする。
ーー研究熱心なんですね。
そう。ブルーズ・ドラマーの演奏を熱心に研究するんですよ、彼は。アール・パーマーはこう、サム・レイはこう、フレッド・ビロウはこう、ってね。だから、逆に俺が教えられることも多い。そうやってアイディアや音源を提供して導くことはするけど、あとはその人のセンスですからね。お互いが提示し合って、だんだん同じ方向に向くようになり、音楽を共有できるようになる。バンドってそういうもんやと思うんですよ。ああせい、こうせいって指示してやってもダメなんです。ミュージシャンになるようなヤツはみんな自我が強いから、そうなりがちなんだけど、相手を受け入れ、待つことも必要。B.B.キングは凄いですよ。レコーディング・セッションの音源があるんですけど、10何テイク重ねたところでまた誰かがNGを出すとするでしょ? 当然、プロデューサーとかがガーガー言うんだけど、B.B.はそれをさえぎるように“よし、もう一回みんなで頑張ろう!”って言うんですよ。素晴らしい人間性ですよね。
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