ダイナミックにスウィングするジャンプ/ジャイヴ・サウンド、ユーモアとペーソスあふれる楽曲で40数年にわたって音楽ファンを楽しませてきた吾妻光良&The Swinging Boppers。生業を持ちながらブルーズ・シーンの第一線を走ってきた彼らも、ぼちぼち定年退職→プロ入りの時を迎え、新たな展開が? と思ったのだが、どうやらマイペースは変わらない様子。そのへんは1日目のインタビューでお分かりいただけたかと思う。そして2日目は、バッパーズ最大の魅力である歌詞、曲作りについての話から。さぁ、行ってみよ~!
取材・文/染野芳輝
吾妻光良 PART1はこちら
近藤房之助 PART1はこちら
6日連続!愛すべきツアー・ミュージシャンたちを紹介する不定期連載「旅と酒とブルーズと」がスタート!
木村充揮 PART1はこちら
木村充揮 PART2はこちら
思うような日本語の歌詞で歌えれば、オリジナルでもカヴァーでも、どっちでもいいんですよ。
ーーどうやらプロ入りしても活動のスタンスは変わらないみたいですね。アルバム発表のペースも、焦らずゆっくりと。でも、もう少しだけ間隔を詰めてアルバムを発表してくれると嬉しいんですけどね。
そうかなぁ。わりとちゃんと出してるほうだと思うんだけどな。1stアルバム(83年リリースの『Swing Back With The Swinging Boppers』)から39年で8枚ですから、5年に1枚。たいしたもんだよ。
ーーどんなきっかけでアルバムを作るんでしょうか。最新アルバムは2019年にリリースした通算8作目『Scheduled by the Budget』ですが。
いつもそうですけど、『Scheduled by the Budget』はソニーさんが作りましょう、と言ってくれたから。じゃなきゃ作んないよ(笑)。
ーーバッパーズの場合、ライヴで演奏してからレコーディングというパターンが多いんですよね?
そうですね。だから、アルバムに入れる曲で悩みまくるということは今までなかったんだけど、今回は若干、困ったかな。というのも、絶対入れようと思ってた訳詞曲「Big Bug Boogie」の許諾がなかなか下りなくて、間に合わなかったのね。後日、許諾が下りたんで、シングルにして出しちゃいましたけど。あと、カリプソの「Roosevelt in Trinidad」という曲を「安倍さんトリニダッドに行く」っていう訳詞ものにして入れたかったんだけど、レコード会社の担当のM君が”それだけは勘弁してください”って泣きついてきて(笑)。
ーーそれは残念。ライヴで演奏したのを何度か聴きましたけど、「安倍さんトリニダッドに行く」は風刺が効いたタイムリーな曲で、拍手喝采でしたけどねぇ。
ねぇ。でも、入れられなかった。なので、曲が足りない、どうしようっていう事態になったんだけど、エゴのよっちゃん(EGO-WRAPPIN’の中納良恵)や人見元基(元VOW WOW)のゲスト曲を入れられたんで結果オーライだったね。あと、1988年に帯広にバッパーズで呼ばれた時の打ち上げで、芝生の上でバーベキューした時に4小節だけ作った「焼肉アンダー・ザ・ムーンライト」が31年ぶりに陽の目を見た、っていうのが感慨深いかなぁ。その間に時代は平成から令和に変わっちゃったしねぇ(笑)。
ーーでは、楽曲のことを聞かせてください。吾妻さんがお作りになる楽曲の最大の魅力は、ユーモアとペーソスあふれる歌詞だと思うんですけど。
うん、歌詞、日本語の歌詞へのこだわりはありますね。オリジナルへのこだわりはないけど。思うような日本語の歌詞で歌えれば、オリジナルでもカヴァーでも、どっちでもいいんですよ。ただ、カヴァーの場合、訳詞を付けると許諾がなかなか下りないんで大変なんだけど、まだまだいい曲がたくさんありますからねぇ。汲めど尽きせぬってやつ。そういう曲を見つけるとね、幸せですねぇ。
ーー最近見つけた曲はありますか?
あるある。昔から知ってる曲だけど、ミルス・ブラザーズの歌ってる「Till Then」っていう曲があって、まぁブルーズというよりポップ・ソングなんだろうけど、「その時が来るまで」ってどの時かっていうと、戦争が終わる時のことなんですよ。曲も歌詞の内容も知ってたけど、コロナで、しかもウクライナでっていう今、改めて心に沁み入るっていうか、共感できる曲だからかな。なんか、わりとすんなり日本語に訳せちゃって。“悲しい、悲しい”っていうだけじゃないし、逆に変な励ましソングでもない。淡々としていながらもどこか希望があるような、昔の人たちの歌詞は凄いですよね。そこまで上手くは訳せてないかもしれないけど、これは歌っていきたいと思うし、そういう曲作りはこれからもやっていきたいですね。
ーー吾妻さんの歌詞は、訳詞というより意訳だと思いますけど、歌詞を書く際の発想は、どんなところから得るんですか? やっぱり生活の中から?
もちろん、生活の中からというのもありますけど、たまたま出会ったことなのに強く印象に残ってしまうことってあるでしょ? そこから発想することも多いな。「PHOTO爺ィ」なんて曲は、高校の、それこそ130人ぐらいが出席した同窓会で、さぁ記念撮影って段になったら、カメラのOってヤツがアングルに悩み始めて全然終わらない(笑)。それがそのまま歌になったし。あとはね、2018年の年末に仕事仲間とガンガンに飲んでて、3軒目に中野のブルーズ喫茶に行ったら、知り合いが大勢飲んでるところに遭遇しちゃって。で、こっちがあまりに凄い酔い方してたもんだから、その中の一人が翌年の年賀状に「吾妻さん、大人はワイン2本までっ!」と書いていて、これだ!ってすぐに曲(「大人はワイン2本まで」)にしました(笑)。そういえば、ヤツと歌詞印税を折半にしてるから、もう300円ぐらいは印税が行ってるはずだな(笑)。酒の歌だから当然、エイモス・ミルバーン先生(BSの人気番組「吉田類の酒場放浪記」のエンディングテーマ「Bad Bad Whiskey」でおなじみのブギウギ・ピアニスト/シンガー)にはご登場いただいて。まぁ、あの人も酒の歌をいっぱい書いてるけど、よくあれだけいろんなことを書けるなぁって感心しちゃいますね。
バッパーズを聴いていただけたんなら、すぐにそこからさかのぼって聴いてもらいたいなぁ。
ーー昔の歌の歌詞って、よくできてたんですかねぇ。
そう思うね。ほんと、よく考えてるなと思いますよ。ウチのカミサンがよく言うんだけど、今と違って昔は楽しみが少なかったからだと思うんだよね。テレビもインターネットもゲームもなかったわけでしょ? 当然、数少ない楽しみにどんどんエネルギーを注ぎ込んだはずでね、だからいい歌詞が書けた、と。本当にいい曲がいっぱいあるんですよ。そうした先達の皆さんが演ったことを日本語に置き換えて歌いたいんだよね。それはすごく考えていることですね。あとね、それとは別に、ブルーズマンとか昔の人たちのマネをしたいっていう強烈な欲求から曲を作ることもあります。
ーーほほぉ。それはコピーとは違うんですよね?
ちょっと違う。「ご機嫌目盛」っていう曲は、タイトルこそアルフレッド・ベスターっていう人のSF短編なんだけど、それはさておき、アルトのコーゾーと2人で歌う「最後まで楽しもう」の二番煎じを作りたくて仕方なかったんだよね。ブルーズやR&Bの人たちって、ちょっとでもヒットしたら絶対に二番煎じの曲を書くじゃないですか。単にそれをやりたかったの(笑)。だから、ソロの回し方とかラップを入れることとか、「最後まで楽しもう」とほとんど同じ構成にしたんだけど、唯一困るのはライヴでどっちの曲を演ってるんだか判んなくなっちゃうこと(笑)。あと、「でっすよねー」は、ブレイクにキメ台詞のあるノベルティ・ソングをやりたかったというのと、イントロで意味もなく転調する、30年代の人たちの曲にありがちなパターンをマネしたくてね、やりました。当時はまだ働いてたから、通勤途上にずっとイントロの転調するところを口ずさみながら歩いていて、ちょっといいのを思いついたら立ち止まって譜面に書いてっていうのを毎日。はたから見たら変な老人だよね(笑)。
ーーそういう意味でも、バッパーズの音楽は、昔のブルーズを知らなくても楽しめると思いますけど。
それはいけない! バッパーズを聴いていただけたんなら、すぐにそこからさかのぼって聴いてもらいたいなぁ。オススメのリストを配りたいぐらいですよ。クアトロさんとか今年1月、2月、4月のビルボードさんでも、場内のBGMは俺が選曲した昔のR&BとかのCDを持ち込んで流してもらったんだけど、ライヴに来る人にはその辺りも楽しんでもらいたいですね。って、曲名を知るのが大変か。でも、最近はスマホとかですぐにわかるんでしょ?
この記事の続きは有料会員限定です。有料会員登録いただけますと続きをお読みいただけます。今なら、初回登録1ヶ月無料もしくは、初回登録30日間は無料キャンペーン実施中!会員登録はコチラ