推し問答!【1人目:ジャニーズオタク松本美香さん後編】「あの頃の未来にオタクは立っているのかな」

様々な人に「推し」について語ってもらう「推し問答!〜あなたにとって推し活ってなんですか?」、第1回のゲストはお笑い芸人・ラジオパーソナリティの松本美香さんです。なお、この記事は後編になります。

前編はこちらです。

https://tvbros.jp/oshimondou/2023/02/23/62881/

 

シブがき隊からはじまり紆余曲折を経て「推しは酸素」の境地に至った松本さんのオタク道。オシャレの代名詞だった外資系レコード店も推し活グッズを販売するようになり、世間様からすると日陰者だったオタクの勝利? いや、そもそも誰も勝負をしかけていたわけではないのですが……。

そして、お笑い芸人として活動する傍ら、個人サイトでアイドルへの愛やオタクとしての日々を綴っていた松本さん。それがたまたま編集者の目にとまり、雑誌にコラムを寄稿することになります。それがきっかけでエッセイ『ジャニヲタ 女のケモノ道』(双葉社)を出すことに。インターネットのおかげで、オタク同士の交流も増え、オタクが可視化されるようになったことも、市民権獲得の理由のひとつかもしれません。

一方で、誰でもSNSで推しへの愛や推し活の様子を発信できるようになったからこそ、生まれてしまう摩擦もあるものです。我々の戦いは終わらないのか……? いや、そもそも誰も戦ってなどはいないはずのですが……。ねえ?

 

取材&文/藤谷千明  題字イラスト/えるたま

 

今から20年前に、個人サイトで推し語りをしていた松本氏

 

藤谷 お笑い芸人として活躍されている中で、07年にジャニーズのファンであるご自身をテーマにしたエッセイ『ジャニヲタ 女のケモノ道』を上梓されました。それ以前から個人サイトでアイドルやオタクの話をされていたそうですね。

 

松本 もともとテレビドラマや芸能人を見て、なんやかんや言う、ちょっとツッコミをいれることが好きだったんですよね。ピン芸人でネタをやっていたときもそういうことをやっていたんです。私には妹がいるんですけど、妹に個人サイトを作ってもらったんです。今から20年くらい前のことですね。

 

藤谷 今となっては「オタク視点の語り」商業メディアでされることも珍しくなくなったと思うのですが、あの本に書いてあることが当時はすごく新鮮に感じたんです。「先駆者」というか。

 

松本 そんな! おこがましくて、そんなことは言えないです。個人サイトを見た人から感想をもろたり、BBSに書き込んでもろたりしていたので、共感してくれる人はいると感じていました。でもそういうのって、ずっと前から色んな人がやってきたことですし。先駆者とかはないですね。サイトを作ったのも「芸人として一旗あげたろ」とかではなく、好きなことを好きなだけ書ける場所が欲しかっただけというか。だから「モツマ」というハンドルネームだったんです。

 

藤谷「これまでにないことを」的な意識はなく、ただ楽しく日常を書いていた結果なんですね。

 

松本 そうです。それで、サイトを見た編集部の方から声をかけていただいて、雑誌『ユリイカ』(青土社/05年「ユリイカ・特集:文化系女子カタログ」)に寄稿したことがきっかけで、本を出版することになったんです。そうそう、実はあれは闇営業だったんですよ。

 

藤谷 えっ、どういうことでしょう?

 

松本 『ユリイカ』は事務所を通さずに受けた仕事だったので、今でいう闇営業ですね(笑)。その後、出版の企画が来たことで事務所にバレて叱られました。

 

藤谷 『ユリイカ』は反社会組織じゃないから、叱られるだけですんでよかったです。

 

松本 出版イベントをさせてもらったり、そこでもお客さんから色々な感想をいただいて、そんなに珍しいことをやっている気はしていませんでした。むしろ、そんなに珍しい感じだったんですか?

 

藤谷 もしかしたら他の人はそうじゃなかったかもしれないけど、少なくとも私はとても新鮮に感じたんです。それこそ、当時は「負け犬」(酒井順子さんのエッセイ『負け犬の遠吠え』から生まれた流行語。30歳過ぎて独身の女性を指す)みたいな言葉も流行っていたじゃないですか。「こんなに楽しくあっけからんとオタクの話をしていてもいいんだ!」と勇気をもらったというか。それが今や猫も杓子も推しの話を……。

 

松本 その結果、しんどそうな人も見かけません? 今ってSNSで他の人の様子も見ることができるじゃないですか。良い席でライブを見ている人、ツアーを全部通っている人、そういう「強いオタク」=「いわゆるガッツ※」がかっこいいと思ったり、憧れたりするのはいいと思うんです。でもそこでしんどくなってしまう人もいるな……と。
(※編集部注:ここでいうガッツとはおもにジャニーズファンの間で使われる「ガッツのある応援をするファン」を指します)

 

SNSで可視化されたことにより、他の人と比べてしまい苦しむオタクが増えている?

 

藤谷 比べてしまうと。それはもう昔からあることだとはいえ、昔は目に見える範囲の人間関係での比較だったのが、今はSNSがあるから比較対象が下手したら100倍くらいに増えているわけで。

 

松本 そう、簡単に比べることができる土壌があるんですよね。昔よりもしんどいのではと。ジャニーズの人気コンサートは毎回チケットが当たる人ばかりではないでしょうし、でもSNSを見るとこんなに全国ツアー回れて、チケットを取れてる人がいるのに、私はどこにも行けないとかを簡単に比べることができてしまうから、それでストレスになってしまう人もいるんちゃうかな。

 

藤谷 大人だと多少は自制が効きますけど(効かない人もいますが……)、多感な時期の若い人は大変かもしれないですね。それこそバブル時代に「クリスマスまでに彼氏を作らなきゃ周りにバカにされる」と、無理して恋愛しようとしていた人の話を聞いたことがあります。オタクが市民権を得ると、今度は「無理して推し活する人」が出てきてしまうのかも……。これはもうオタク関係なく現代社会の問題かもしれませんが。

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