tofubeatsがNEW EP「NOBODY」をデジタルリリース。アルバム「REFLECTION」から約2年ぶりとなる本作は、全曲のボーカルをAI歌声合成ソフトで制作したという。コロナ禍を経て、ふたたびダンスフロアの熱を感じさせる本作について聞いた。
取材&文/南波一海 撮影/佐野円香
――今回の『NOBODY』は、『TBEP』(2020年)以来となるフロアライクな作品ということですが、『TBEP』はリリースタイミングがコロナ禍と重なりましたよね。せっかくのダンストラック集なのに、それを人のいるフロアで鳴らすのが難しくなってしまった。その時の心残りのようなものが『NOBODY』の制作に向かわせたのかなと思っていて。
いやもう、完全におっしゃる通りで(笑)。あの時の思いが点線みたいにまだ漂っていて。『REFLECTION』(2022年)を作った後、次はどうなるのかなと思っていたら、去年あたりからDJ活動もできるようになってきて、「このレールに戻せるんや」となったんです。だからそれをやってみたというのと、そこにトレンドみたいなのも乗っかってきてこれができた感じなので、もうインタビューが要らないくらい正しいです(笑)。さっきまでそれをずっと何回も言ってましたから。
――取材日ですもんね。初手でその説明を省けてよかったです(笑)。
(『TBEP』を)仕上げるぐらいの段階でダイヤモンド・プリンセス号の件があって。だからもう予感みたいなのもありました。PV撮ってる時にはもう完全に自粛期間は突入してたのかな。
―― 「クラブ」の映像はあの時にしか撮れない映像でした。
たしか、急遽内容が変わってあれになったはずなんですよ。その時の後悔というか……これはよく言うんですけど、最後は運が大事で。どれだけ頑張って曲を作っても、タイミングが合わなかったらどうにもこうにもならん、ということは後輩にも言うんですけど、まさしく自分がそれにカチ当たってしまった。だからもう一度セッティングしようみたいな気持ちは今回、多分にありました。
――そうして制作された『NOBODY』は、ゲストシンガーなしで、全曲の歌を歌声合成ソフトが担っていることに驚きました。
でも実質、全曲フィーチャリングでもある、という感じですね。ただ、これより前に出していたタイアップの曲も入れる予定で進めていたんですけど、入れない方が収まりもよさそうですし、ぶっちゃけ今回は配信なので、同じ曲が2回リリースされる意味もあまりないなと。だったらコンセプチュアルにまとめたほうが作品として綺麗じゃないかなということをA&Rの方に伝えたら、「それで大丈夫です」ってふたつ返事で返ってきたんです(笑)。
――実際に聴いてみると、AIの歌声の精度がかなり高いことにも驚きました。
「I CAN FEEL IT」はもともと人に歌わせる予定で作っていて。歌詞がちょっと熱すぎるから、歌う人が見つからなくて寝かせていた曲なんです。そこにSynthesizer V(歌声合成ソフトウェア)があって、歌を入れたら「これでいいや」ってなったんですよ。これだったらほぼ人の声だし、なんならちょっと小っ恥ずかしい歌詞がそう聞こえないな、このフラットな感じがいいなと思ったんです。それと、曲を聴いていると、これを歌っている人みたいなものをイメージするじゃないですか。それも面白いなと思って。
――どんな歌手なのか想像してしまいますよね。
『NOBODY』というタイトルがそうなんですけど、「待ってたよ」とか歌ってるのに実際は誰も待ってないわけですよね(笑)。ちょっと前に生成AIでできた曲を聴いて、僕、普通に人の曲やと思ったんです。「Smith N Hackみたいでええ曲や」と思って調べたらめちゃくちゃAIの曲やったんですよ。その時になんとも言えない不安感というか……音楽は人が作っているものであってほしいという思いを打ち砕かれたのが意外とショックだったんです。AIにワクワクしているサイドの人間だという自覚を持っていたにも関わらず、その曲が人の作ったものじゃなかったことがシンプルにショックだし、「あの曲いいじゃん!」って本人に言えないわけですよ。それは結構イヤかもと思って、それを皆様にも体験していただこうじゃないけど(笑)、そういう気持ちについて考えるきっかけにしたいなという感じで作ったところもあるんです。
――すごい話ですね。ルールを学習すればできてしまう音楽に対して、人は何で勝負するのだろうと考えてしまいます。
DJだって機械でできるけど、人がやることでコミュニケーションツールになる、みたいな話ですよね。一方で、技術がこうして民主化される時にプロとはなんなんだ、と考えていることのうちのひとつが「EVERYONE CAN BE A DJ」という曲になっていたりします。だから今回は、Synthesizer Vが歌ったってそれなりの感情を提供してくれることに対してどう思いますか、みたいな感じの作品なんですよね。実際に人がいると思って歌詞を書く時とはマインドが違うし、できてくるものも変わるんですよ。例えば「この人はこんな歌は歌わなそうだな」という感情は生まれないわけじゃないですか。シンプルに自分が歌わせたい言葉だし、でも自分で歌うのとも違う、新たな第3の発想ルートみたいなのが生まれたのもすごく楽しかったですね。生成AIのいいところのひとつとして、初音ミクみたいなキャラクターがないんですよ。一応いるにはいるんですけど、まだ浸透してなくて、こっちとしてもプレーンな気持ちで臨めるのが大きなポイントです。今回は何人かのボイスを使ってるんですけど、声だけで判断して、先入観なくできるのは面白かったです。
――もうひとつうかがってみたかったのが、ダンスミュージックとしてDJツール的なトラックものにどこまで寄せるのか、どのあたりまでポップスの要素を入れるのかというバランスの取りかたです。
仰る通り、ポップネスみたいなことはめっちゃ意識してます。今回のもうひとつのテーマとして、“J-CLUB”というのがありまして。有限会社申し訳が有限会社J-CLUBに改名したのご存知ですか? tofubeatsはJ-CLUB最後の残党だという、僕とマネージャーとミッツィーさん(ミッツィー申し訳 aka DJ JAL-ANA)の3人の身内だけで言ってるギャグがありまして(笑)。メジャーでこういうのを出している人が自分以外いなくなったと冗談で言ってたんですけど、あながち間違いじゃなくて、これマジなんじゃないかと。
――J-CLUB最後の砦としての本作!
それと、「I CAN FEEL IT」を作った理由のひとつでもあるんですけど、前の担当A&Rが「tofu君はボーカルハウスを作って、乙女ハウスを流行らせてくれるだろう」という言葉を残して辞めていったんです(笑)。それでボーカルハウスを作りたいなと思っていて、『TBEP』はその布石でもあったんですよね。そこが一度途切れたんですけど、やっぱりボーカルハウスは絶対に出したいし、やりきりたいというリストのうちのひとつだったんです。乙女ハウス、J-CLUB、生成AIというのが合致してできあがったのが『NOBODY』なんです(笑)。
――乙女ハウスという言葉も久々に聞きました(笑)。歌詞は物語というより、短くて強靭なフレーズが多いのが印象的でした。シカゴハウスとかでもワンフレーズだけ繰り返すような曲があったりしますが、それと並べて聴いても違和感がないですよね。
声ネタっぽくシンセサイザーVを使うというのは技術的なテーマとしてありました。「YOU-N-ME」とかもそうですけど、シンセサイザーVが歌ったのをチョップしてサンプラーに入れて鳴らすということもやりたかったことなので、その指摘は嬉しいです。同じフレーズが何回かリフレインするポップスとクラブミュージックの中間みたいなものが日本語だとなさすぎるので、この10年間、折に触れてやってきたんですよね。『NOBODY』はそんな曲ばかりが入った作品になっていると思います。
――興味深い話をありがとうございました。こういう作品が聴けるのは個人的にも嬉しかったです。
ありがとうございます。『NOBODY』は、普通につるっと聴けるものでもあるとも思っていて。リスニングアルバムみたいな感じにもなっているので、会社帰りとかにでも聴いてほしいですね。
tofubeats ●兵庫県生まれ。音楽プロデューサー / DJ。学生時代から様々なアーティストのプロデュースや楽曲提供、楽曲のリミックスを行う。2013年にデビュー。その後も精力的にリリースを重ね、様々なアーティストとの共演やプロデュース、サウンドトラックの制作などと多岐にわたり活躍。2022年5月には初の書籍「トーフビーツの難聴日記」を発表、11月にアルバム「REFLECTION」をリリース。
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