甲田まひる「同世代と音楽を作れる機会が増えたことがすごくうれしい」

ジャズピアニストとして16歳で「PLANKTON」をリリースした甲田まひるが、22歳の誕生日にシンガーソングライターとして初のフルアルバム『22』をリリースした。本作には、彼女のルーツであるジャズはもちろん、ファッションへのこだわり、そしてヒップホップへの強烈な憧憬が込められている。そんな甲田まひるは、1st Full Album『22』収録曲にGottz、SANTAWORLDVIEW、YINYOという実力派ラッパーを客演に迎えた、『22 Deluxe Edition』が発売されたばかり。
今回はヒップホップの話題を中心に甲田まひるの現在地点を話してもらった。

取材&文/宮崎敬太 撮影/シオヤミク スタイリング、ヘアメイク/甲田まひる(衣装はすべて本人私物)

 

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Deluxe Editionはヒップホップのジャケっぽいデザイン

 

ーー『22』はジャケットも素敵でしたが、発売したばかりのDeluxe Editionのアートワークも素晴らしいですね。

通常盤と同じ森健人さんというフォトグラファーに撮っていただいてます。数年前にファッションの仕事でご一緒した時ものすごく波長が合った気がして。上がってきた写真もすごく好みでした。あとヒップホップがお好きだったから、またいつか撮っていただきたいと思っていたんです。

ーーだからこそ、記念すべき1stフルアルバムのタイミングでジャケット写真を撮っていただいた。

はい。自然光とか、ロケとか、私の中に色々アイデアがあったので、森さんが打ち合わせに持ってきてくれた写真集や海外の雑誌の切り抜きを一緒に見ながら、作りたいヴィジョンを一緒に固めていきました。

ーーポイントは?

私が着ている服と風景の対比ですね。洋服も自分でスタイリングしました。テーマはバックパッカーの少女。抜け感あるスタイルが好きだからビーサンを履いて。衣装も4パターンくらい持っていきました。

ーー水森亜土の絵を彷彿とさせるメイクもかわいいですね。

水森亜土さんからの影響はもちろん、私のロールモデルは外国の女の子たちなので、そばかすを書いたり、カラコンを入れたりはここ数年よくやってますね。

写真は『22』と同じ日に撮った別カットです。そこに私が描いた絵や、JUN INAGAWAに描いてもらったタイポグラフィを乗せてヒップホップのジャケっぽい感じをイメージして自分でデザインしました。

次のアルバムはミックスまで自分でやってみたい

 

ーー1曲目の「Ignition」は“かわいい”、“ジャズピアニスト”、“ヘッズ”などのキーワードが一体になった甲田さんらしい曲ですね。

ありがとうございます。冒頭のビートが入ってないところは2年くらい前にゴスペルをイメージして作ってたけど、使いどころがなく放置していたんです。最初に歌ってる「Key station 88 MK3」は私がいつも使ってるMIDI鍵盤の名前。「私はずっとこの鍵盤で曲を作ってきたぞ」って歌ってるんですね。今回アルバムを作るにあたって、これがオープニングになったらかっこいいかもと思って、後ろにラップパートを付け足しました。デモはDTMだったんですけど、生演奏にしたかったので、大好きなミュージシャンにお願いして、私はローズピアノを弾きました。

ーー僕はアウトロが好きなので、最後のドラムの展開が熱かったです。

あのパートは最初なかったんです。でも何か付け足したくて、前日にアイディアを考えていきました。

ーーこの曲は編曲まで甲田さんが手掛けていますが、他はアレンジャーが参加していますね。

基本的にみなさん私のデモをベースに、音を足してくれたり、ブラッシュアップしてくれた感じかな。「Snowdome」に関しては、Sunny Boyさんが会話しながらその場で一緒にどんどん作っていくタイプなので、私はアイデアだけ持ってスタジオにいきました。今回フルアルバムを制作してみて、次はミックスまで自分1人で完結してみたいなって。ヴォーカル録りも自宅でやりたい。そういうスタイルの創作が好きなんです。

ーーヴォーカル録りは自宅とスタジオだと違うものですか?

全然違いますね。スタジオだと頑張りすぎちゃう(笑)。家でできたことができなかったり。向き不向きがあるんですよね。スタジオのほうが集中できる方もいると思うし。私には家でリラックスしてやるほうがあってるかも。そういう意味でも、いろんなプロデューサーの方たちと一緒にアルバムを制作したことはすごく貴重な経験になりました。これからもっと研究したいですね。

Mappyはもっとラップしたほうがいい

 

ーー個人的には「One More Time」も大好きです。

ありがとうございます! この曲は最初から最後までラップした初めての曲。友達が「Mappyはラップがカッコいいからもっとラップしなよ」って背中を押してくれたのがきっかけで書き始めて、2年前に作りました。収録されたバージョンもほぼデモのまんまです。

ーー初期衝動を感じました。prodigyとhavocをオマージュした「Ima feel like havoc where’s my prodigy at?」というラインとか。

やっぱり私は90年代のNYヒップホップが大好きなんですよね。それこそこの曲を作るにあたって、Q-tipやLauryn Hillのアルバムを聴き直しました。実はあの人たちって、ヴァースの数とかけっこうラフにやっていて。でもそれがカッコいい。

ーー言語化できないヒップホップのバイブスってやつですよね。適当にやった結果のラフさじゃなくて、アウトプットにおける最適なラフさというか。うまくプレイすることだけが正解じゃないという。

そう、これって一朝一夕ではどうにもならないんです。それはジャズにハマった時にも身に沁みてて。私が初めて耳コピしたバド・パウエルは早弾きで有名なピアニストなんですね。早すぎて聴き取れないからスロー再生したんです。よーく聴いたら、ただ早いだけじゃなくて音が跳ねてて。普通に弾いてもあのグルーヴは出ない。だから何度も聴いて、ひたすら練習してました。10歳だったけど、楽しんでやってました。そういう研究が大好きなんです。この曲も、好きなブーンバップに近づけるために18パターンくらい作りました。流石に自分でも途中から何が良いのかわかんなくなっちゃって、最終的に2パターンまで絞ってスタッフさんと相談して決めましたけど(笑)。ちなみに「One More Time」にはもう一個好きなラッパーにオマージュしたリリックがあるんです。

ーー気づけませんでした……。

「アーユルヴェーダシロダーラ」ってラインですね。KREVAさんの「イッサイガッサイ」から引用しました。あまり詳しくないけど、アーユルヴェーダもシロダーラもインドのオイルマッサージの名前なんです。ふたつを一緒に言っちゃうのかっこいいなと思ったのと、すごく頭に残る引っかかる言葉なんですよね。自分のリリックを書いていた時、なんでこのラインが出てきたのかわからないけど、自然と「アーユルヴェーダシロダーラ」が入ってた感じです(笑)。

ーー甲田さんにとってKREVAさんはどんな存在?

完璧な人。パフォーマンス、風貌、性格、オーラみたいなかっこよさを示す項目が全部満点(笑)。「イッサイガッサイ」がリリースされた当時の雰囲気とかを体験してみたかったです。そういえばこの前OZROSAURUSの曲にKREVAさんが参加したじゃないですか? 馴れ合いじゃない2人のヒリヒリしたラップが最高でしたよね。私、ロックでは甲本ヒロトさんに憧れてるんですけど、ヒップホップだったらKREVAさんですね。私にとってKREVAさんはそういう存在です。

ーーそんな思い入れのある曲にGottzさんのラップが入るのはかなりヤバいですね。

そうなんですよ! Gottz & MUD名義の「Cook Good」がヤバすぎて。ラップはもちろんトラックも好き。サンプルの切り方とかループの仕方とか。MUDさんも超好きです。レゲエのEP『Burning Sugar』も聴きまくってます。そもそも私はKANDYTOWNが大好きなんですよ。

ーー好きなものを語る時の勢いがすごい(笑)!

止まらなくなっちゃう(笑)。話を戻すと、Gottzさんはリリックも好きなんですよね。すごく詩的じゃないですか。今制作していただいてるので、どういうラップが入ってくるのかすごく楽しみにしてます。

ーーお話を伺ってて思ったんですが、もしかして甲田さんはISSUGIさんもお好きだったりしますか?

大好きです! 1人でライブへ行ったりしてます(笑)。

同世代とヤバい音楽を作っていきたい

 

ーー「M」にはSANTAWORLDVIEWさんが参加されています。

サンタくんと初めて会ったのはKID CUDIの来日公演です。しかも、サンタくんから声をかけてきてくれたんです。前から知ってます!って。彼は本当に音楽が大好きで、ジャズも普段から聴くみたい。「いつか一緒に曲を作りましょう」とも言ってくれて。それで今回、お声がけさせてもらいました。

ーーどうでしたか?

ある日「今週録ります!」って連絡があったから、曲のテーマと、こういう感じでラップして欲しいというリクエストを送っておいたんです。で、その日に私も現場に行って、一緒に掛け合いを作りました。サンタくんってすっごい明るいんですよ。そのテンションのままレコーディングするんです。繋ぎとかじゃなく一気に3パターンくらい録って。「ああ、ラッパーだな」って思いましたね。

ーーフリースタイルができる方は集中して一気にレコーディングする、みたいな話は聞いたことあります。

まさにそんな感じです。しかもサンタくんは「こことここはリヴァーブかけてほしい」みたいな音楽的なビジョンもしっかりあるんです。もちろん私のお願いもしっかり汲んで書いてくれて。意思疎通できる感じがとても楽しかった。男女のストーリーものになっているので、楽しみにしていてほしいです。

ーー「Ame Ame Za Za」にYINYOさんが参加したのはどんな経緯ですか?

YINYOくんは、2年くらい前にオカモトレイジくんとかヒップホップ仲間のなかで、カッコいい子がいると話題になってたんです。それで誰かが直接連絡とって会いに行くというので、私もついていって一緒にご飯を食べたのをきっかけに友達になりました。さっきも話題に出た、私のラップを褒めてくれたのが、まさにYINYOくんです。私は10代前半から活動を始めて、周りが全員年上という環境が当たり前だったのですが、いまYINYOくんを始め、同世代と音楽をできる機会が増えたこともすごくうれしいです。

ーー甲田さんはかなり若い頃に世に出ましたもんね。

特にジャズをやってた時はセッションに行っても周りはみんな大人で。それはそれで貴重な経験ばかりなんですけど、やっぱり同世代のほうが気楽じゃないですか。あの頃は本当に(同世代が)少なかったんですよ。でも、私も周りも年齢が上がってきて、いろんな人たちもちょっとずつ上京してきたりして、やっと出会えるようになってきました。ただ、もっとたくさんの人と出会いたいなと思ってます。きっともう何年か後には、同じような感覚のミュージシャンが増えてくるはずなので楽しみにしてます。

ーー1人で作るのも良いけど、クルーって魅力がありますよね。

はい。やっぱり先輩の(石若)駿さんやKing Gnuのみんなは、仲間同士で作ってるクリエイティブだと思うんです。あのメンバーじゃないと意味ないというか。同世代で仲良いっていうのがベースにあるというのかな。本音で話せる関係性から生まれてくるものづくりにすごく憧れてますね。

ーー最後に、最近ハマってるラッパーがいたら教えてください。

Watsonさんです! 唯一無二なところが大好きです。それこそさっきの「言語化できないヒップホップのバイブス」の塊じゃないですか。そういえば「Ame Ame Za Za」の編曲をしていただいたHomunculu$さんはWatsonさんや7さんにビート提供されてるんです。私もいっぱい研究してヤバい音楽を作っていきたいです。

甲田まひる(こうだ・まひる)●ジャズ・ヒップホップをバックボーンとして、ジャンルに束縛されていない自由なサウンドを 放つシンガーソングライターで、全楽曲の作曲・作詞を自ら手がけている。俳優、タレント、ファッションアイコンとして多岐にわたる活動を行っている。甲田まひるHP

 

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TV Bros.編集部
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