​​世界に届く音とモヤッとした違和感の言語化。 valkneeが探し求める共通言語とは

Zoomgalsでの活動で知られるvalkneeが最新EP『vs.』を発表した。本作はインディーミュージックのオピニオンメディアとして名高いPitchforkのプレイリスト「Pitchfork Selects」のトップソングを飾った「BET ME!」ほか、先行シングル「DEVIL IN MY HEAD」などを収録している。現在進行形で躍進を続ける彼女に『vs.』の制作を中心にさまざまな話を聞いた。

取材&文/宮崎敬太 撮影/佐野円香

 

Pitchforkにピックアップされたのはめちゃくちゃ気持ちよかった

 

ーー「BET ME!」が「Pitchfork Selects」(2022年6月6日更新分)のトップソングを飾りましたね。

めちゃくちゃ嬉しかったです。リスナーの人が先に気づいてくれたんですよ。サウンドは全然違うけど「BET ME!」はEPの中では一番ヒップホップ然としてて。ずーっとボースティングしている曲がPitchforkにピックアップされたのは気持ちよかったです。

ーーしかも日本ではなく世界のメディアというのも皮肉ですよね。

そんなに活動期間が長いわけではないけど、これまで1回もレーベルから声をかけてもらったことがないんですよ。規模の大小は関係なく。私としては「こんな良いのにどこからも声がかからないなんて信じられない!」って気持ちがあって、それをリリックに入れ込んだのが「BET ME!」なんです。

ーー余計に痛快ですね。

しかも私はいまもインディペンデントのままっていう(笑)。シンプルに音楽で評価された。そこがすごく嬉しい。コツコツやってりゃいいことはあるなって思いましたね。

ーー「BET ME!」はどのように制作したんですか?

この曲は最初タイプビートで書いてたんです。もっとBPMが遅くて、ポップスみたいな感じ。サウンドはイケてなかったけどコード進行は気に入っていて。「どうしようかな?」と考えてたとき、ピアノ男さんが良いかもしれないと思いつきました。じつはピアノ男さんってフワちゃんの公式音MADを作ったりもしているんですよ。ポップさもあって、いま私が求めるニコ動のMAD感とハイパーポップの感じをうまいことミックスできるんじゃないかと思って。

ーーなるほど。ニコ動のMAD感はいま世界が日本に求めてる感覚だと思います。

ピアノ男さんにはタイプビートで録ったデータを送って、このビートのここは好きだけど、それ以外は全体的に好きじゃないのでカッコよくしてほしいとお願いしたら、現在の「BET ME!」とほぼ変わらない状態で送られてきました。完全に違う曲に生まれ変わりました。ピアノ男さんはすごいです。煽りとかも入れてほしかったので、声ネタをいっぱい録って送ったんですね。そしたらそれも刻んでめちゃくちゃ良い感じに反映してくれて。私からお願いしたのは「冒頭の間抜けなシンセを増やしてほしい」とかその程度ですね。

ーー「BET ME!」はvalkneeさんのキャラクターにすごく合った曲だと思いました。

本当ですか!? 嬉しいな。EPがある程度できた段階で友達や周りの人に聴いてもらったら、結構「BET ME!」に反応してくれる人が多くて。「新しい風吹いてるね」って言ってくれたり。ヒップホップが好きとか、めちゃめちゃ音楽詳しいわけじゃない人たちにそういう反応をもらったので、イケるかもって手応えはありましたね。

 

いろんなトラックメイカーさんたちと“valkneeっぽい音”を作ってる段階

 

ーー曲によって作り方は異なるとは思いますが、valkneeさんはどのように制作を進めていくんですか?

「BET ME!」みたいにネットに落ちている適当なビートでまずラップだけ録って、トラックメイカーに「このラップに合うトラックを作ってほしいです」とお願いするパターンもありますし、あとは私が3曲くらいリファレンスを選んで、それぞれ「この曲のこういう部分が好き」「こっちはここが良い」みたく説明して、それを落とし込んで作ってもらったりって感じかな。そこからさらに直したり、展開を作ったり、尺を変えたり、一緒に微調整していく。一概には言えないんですけどね。

ーートラックメイカーとは密にコミュニケーションをとるんですね。

そうですね。例えば、「KILLING ME!」をプロデュースしてくれたBenxniくんにリファレンスで2008年くらいのニコ動のMADを送ったり。Benxniくんは面白くて、世代じゃなくてもm.o.v.eを引用している曲があったり、beatmaniaの音楽に影響を受けていたりするんですよ。彼はいい意味で感性が全然違うんです。ミックスを聴いて思いました。空間の作り方、ハモりや声の処理も今っぽくて。新しいものになったかなと思います。

ーートラックメイカーが送ってくれた大量のストックの中から好きなものを選んで制作するラッパーもいますよね。

その作り方は私に合わなかったです。というか、私にはまだ“valkneeっぽい音”がないと思ってて。いま、それをいろんなトラックメイカーさんたちと作ってる段階というか。だからできるだけ私も音作りにも関わって私らしいビートを一緒に作りたいんですよね。何枚か前はタイプビートで作ってみたんですけど探すのにめちゃくちゃ時間がかかっちゃって。そもそもタイプビートって手っ取り早く好みのビートを見つけて、クイックにラップを乗せるためのものじゃないですか。本末転倒だなと思って、いまはサンクラで好みのトラックメイカーを探して、一緒に制作するスタイルでやってます。

ーー今回のEPには「LIP LACQUER」に引き続きhirihiriさんが「DEVIL IN MY HEAD」、「DESTROY!」 が参加してます。

hirihiriさんのことは2020年に出たMaltine Recordsのコンピで知りました。かっこよかったのですぐメッセージしたら、即「やりましょ!」って。ノリの良い子なんです。それで作ったのがその3曲なんです。

ーーちょっとEPから脱線してしまいますが、先日配信されたvalkneeさんの運営するコンテンツ「ラジオ屋さんごっこ」の「#148 30歳からの美容」がかなり衝撃的でした。社会が女性に課している美醜の枷の重さの一端を知ったというか。あの回を聞いて「LIP LACQUER」で言わんとしてることも理解できました。

私自身、美容が好きは好きなんですよ。自分のためにいろいろやるけど、結局人の目が気になっちゃう。だから全部やめたいっていうのは「LIP LACQUER」で言ってることで。「ラジご」の美容回は2年前にもやってるんですね。でもその間、私たちの美容に対する価値観がめちゃくちゃ変わったから、同世代の子たちから「わかる!」って共感してもらえました。

ーーvalkneeさんは毎回トピックの選び方が絶妙ですよね。

確かにかぶる人はあまりいないかもしれないですね。

「鍵垢にシュ」を言うには何を言えばいいか

 

ーー「ラジご」でもよく鍵垢の話題が出てくるけど、僕は鍵垢をやる意味がよくわかんなかったんですけど、「DEVIL IN MY HEAD」でようやく理解できました。

えっ、鍵垢ないんですか?

ーーないですね。世代的なものあると思うんですけど。

ああー、そうなんだ……。インスタのクローズフレンドに向けたストーリーズに近いですよ。

ーーあ、それならわかりますね。

ツイッターの鍵垢もああいう感じ。へろへろで帰ってきて早く寝たいけど、布団にはいって目を瞑るといろんな感情が襲ってくる。それが処理できる唯一の場所っていうか。行き場ない人の瀕死状態の歌です(笑)。「BeReal」ってアプリご存知ですか?

ーー知らないです……。

一日1回、ランダムで通知が来たタイミングで投稿しなきゃいけなくて。で、通知と同時にスマホのフロントカメラと背面カメラが両方起動するんです。いまいる場所と自撮りが同時に投稿される。あとフィルターがないから盛れない。そこで投稿しないと他の人の投稿も見られない。自分の投稿はアーカイブされるけど、他人のは24時間で消えちゃう。盛らない状態すらシェアできちゃうのがかっこいいという考え方。

ーーインスタのカウンター的な。

ですです。私は超仲良い8人くらいで、コソコソと鍵垢でやってますけど(笑)。

ーーでもそれ面白いですね。僕は「DEVIL IN MY HEAD」を聴いて、孤独の感じ方が自分の若い頃とは変わったなと思いました。

この曲は社会のマッドネス性にくらって瀕死状態になったミニvalkneeに「何もしないならお前はどけい!」と歌ってるんです。怠惰さややる気のない自分を鼓舞するというか。

ーー鼓舞のスイッチを「鍵垢にシュ」で表現するのがすごくポップでかつ風刺が利いてると思いました。

ありがとうございます! 実はここを中心にこの曲を作った部分があります。「鍵垢にシュ」を言うには何を言えばいいかって逆算的に考えていく。私はメッセージになるヴァースやブリッジの最後を先に作って、あとから全体を組み立てていくパターンが多いかも。

カルチャーショックを受けた『森、道、市場 2022』

 

ーー「KILLING ME!」の歌詞も好きでした。

この曲のテーマはファスト社会です。Qoo10がメガ割してると買いたくないのに買っちゃう。時間ないのにサイト見ちゃう(笑)。そういう「情報に殺される!」って。こういう「資本主義と消費」みたいなテーマをストレートに批判するのって簡単なんですよ。でも聴かれない。お説教は浸透しない。だから私が消費する側になって、その気持ちを歌えば、実際に消費しちゃってる人が聞いてくれるかもしれない。私の考え方も伝えられるし、私のコンテンツに触れてもらえる機会も増えるかなって。

ーーそういうメタ視点の使い方にめちゃくちゃRHYMESTERからの影響を感じます。

私のことを何も知らない人が聴いたら「こいつ消費してんなー」って思うかなって(笑)。

ーーEPタイトル『vs.』はどのように決めたんですか?

まさにいま言ったように生活の中で感じられる問題をトピックにして考え方を伝えたかったんです。『vs.』というのは、vs. 社会であり、vs. 自分であり、vs.人生でもある。いままではルッキズムやエイジズムに対してストレートな言葉を使ってたけど、今回は理解されることを意識して作りました。

ーー今年は『森、道、市場 2022』に参加されたほか、『りんご音楽祭』にも出演されます。

『りんご音楽祭』はすごく楽しみです。本当に音楽を好きな方が運営されてる感じがしてて、そこにブッキングしていただいけたのは嬉しいですね。『森、道、市場』は、んoonの客演だったんですけど、かなりカルチャーショックを受けました。

ーーどういうことですか?

私が普段遊びに行くのって、下北とかの小箱なんです。そういうとこに来る人ってみんなグランジみたいな感じで。でも『森、道、市場』にいた人たちは全然服装や髪型の雰囲気が違うんですよ。休日の昼に活動する人と言いますか。こういう人たちがこういう場所でこういう音楽を聴くんだなって。

ーー(笑)。それまでvalkneeさんにとって音楽を好きな人は下北の小箱に来るような雰囲気の人だけだったということですか?

ですです。もしくは私にDMくれるファンの子とか。私、メッセージをくれた人のアカウントを結構見に行くんです。そうするとみんなだいたい彩度低めのくぐもったフィルターを使ってて、あまり自分の顔も出さない。あとサンリオが好き(笑)。これまではそういう人に向けて曲を書いてたんです。でも『森、道、市場』に出て、まったく違う層の顔を直接見ることができた。これはものすごく大きな経験でした。

ーーいい意味で曲作りに影響が出そうですね。

はい。『森、道、市場』は衝撃的すぎて、すぐ(chelmicoの)Rachelに言ったんですよ。そしたら「いまごろ気づいたの?」って言われました(笑)。でもいままで表現してきたvalkneeらしさは変わらないと思います。これからは『森、道、市場』に来てた人たちとっても共通言語になる言葉を見つけていきたいと思います。

valknee●ラッパー。東京を拠点に活動中。2012年より音楽制作を開始。ソロでの制作に加え、Zoomgalsとしての活動や、Base Ball Bear、んoonへの客演参加、和田彩花、lyrical schoolといったアイドルへの作詞提供など活動の幅を広げる。最新作は7月6日にリリースされたEP『vs.』。Podcast&YouTube番組「ラジオ屋さんごっこ」を隔週更新中。8月26日(金)WWWにて、春ねむりとのツーマンライブが開催決定! 詳細はこちら→https://www-shibuya.jp/schedule/014692.php

 

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