去年何聴いた?今年何聴く?/松永良平【2022MUSIC特集】

2021年、どんな音楽を聴きましたか? 音楽ライターの皆様に、昨年よく聴いた楽曲と、今年注目している楽曲やアーティストについて執筆いただきました。あなたの生活に寄り添い、心に機微や彩りを与えてくれる音楽との出会いが今年も訪れますように。全5回の連続企画でお届け!

文/松永良平

毎年年末になるとサブスクリプション・サーヴィスで「あなたが今年いちばん聴いたのはこれですよ」と親切にも教えてくれることが、奇妙な恒例行事になった。

純粋に再生回数を突きつけてくるので、「なるほどね」と思う曲もあれば、「え? そうだっけ?」と驚く曲もある。2020年から月に一度ラジオの選曲もしているので、そのために自分がどういう曲を探したのかという過程が、数値という記録によってまざまざと浮かび上がったりもする。「これかも、いや、これじゃないな」と再生を繰り返した曲は、自然と順位が高くなる。

以前は「今年はこの曲をよく聴いたなー」という感覚は、もっとずっと曖昧なものだった。もしかしたらその曲は衝撃を受けた短期間に数回しか聴いてなかったかもしれない。暑い夏の日に、どうしようもなく聴きたくなって再生を重ねただけかもしれない。ちょっとぼやけたくらいの記憶のほうが「あのとき好きだった」という意識はむしろ鮮明に浮かび上がったりする。

今回、せっかくこういう機会(2021年によく聴いた曲を挙げる)をいただいたので、年末によく聴いた曲、サブスクにあらがった未配信作品を記憶から引っ張り出してみた。

KIRINJI / first call (アルバム『crepuscular』)

 2021年から、堀込高樹の単独ユニットとなったKIRINJI。最初に配信リリースされたシングル「再会」も、ダンスミュージックに託されたコロナ禍のありふれた(しかし切実な夢)が素晴らしいものだった。そして、12月。待望の新体制での最初のアルバム『crepuscular』で、今度はこの曲につかまった。

音楽業界では“first call(ファースト・コール)”とは「最初にお呼びがかかるスタジオ・ミュージシャン」を指す。つまり腕利きということ。新体制のKIRINJIでの高樹さんは、「この曲はこの人に頼みたい」と思えるミュージシャンに“first call”してゆくわけだ。だが、歌詞を読むとこの曲のテーマはむしろそこではなく、コロナ禍で分断され孤立した人たちに「とりあえず電話入れて大丈夫かって言おうよ」って意味だとわかる。その義侠心が、実はKIRINJIの核だ。

アルバム『crepuscular』の全体にもコロナ禍という大きなテーマが横たわる。今を生きる時代と人間たちを真っ直ぐ見つめて歌うフォーク・シンガーみたいな気質を、堀込高樹は実は誰よりもちゃんと持っているのだ。

https://music.apple.com/jp/album/first-call/1592688588?i=1592688591

阿佐ヶ谷姉妹 / Neighborhood Story

NHKで11月から放映されたドラマ『阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし』(11月8日~12月20日)のサウンドトラックを、王舟とceroの髙城晶平が担当するというニュースが出た頃、知り合いの編集者に「阿佐ヶ谷姉妹と王舟、髙城くんの対談とかやってみたいなあ」とさりげなく提案してみたら、「いや、それ、(テーマが音楽だと)4人が会話に困るだけじゃないですか?」とあっさり却下された。

しかし、それはきっと杞憂だったのだ。ドラマが始まり、王舟、髙城コンビが阿佐ヶ谷姉妹に提供したエンディングテーマ「Neighborhood Story」のメロウなR&B歌謡っぷりに驚愕した。彼女たちのコミカルなイメージをくつがえしつつ、ほのぼの=ダウンテンポ+チルな解釈をしたこんな最高の曲が用意されていたのなら、対談きっと全然OKだったでしょ!

ドラマは好評だったようなので、いつか続編実現の折には『TV Bros.』でぜひ。

https://music.apple.com/jp/album/neighborhood-story/1601593253?i=1601593556

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