映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』 エドアルド・デ・アンジェリス監督インタビュー

イタリアにも海の男がいた! というわけで今回ご紹介するのは第二次大戦中の大西洋を舞台にした異色の実話潜水艦映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』。

タイトルのコマンダンテとはイタリア海軍の潜水艦、コマンダンテ・カッペリーニのこと。イタリア→ドイツ→日本を渡り歩いたことでも知られている。本作はそんな艦の指揮を執った実在の艦長、サルヴァトーレ・トーダロに焦点を当てた男のドラマ。彼は「敵船は容赦なく沈めるが、人間は助ける」というポリシーに則り、敵のクルーたちを救い出し自分の艦に乗せたという頼もしすぎる海の男っぷり。

そんなトーダロに惚れ込んでメガホンを取ったのが今回ご紹介するイタリア人監督、エドアルド・デ・アンジェリスだ。

取材・文/渡辺麻紀
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■人間が中心にいれば、感動できる映画が撮れると信じている

エドアルド・デ・アンジェリス監督

  ――トーダロに惚れ込んだそうですね。

そうなんだ。彼を知ったのは2018年の湾岸警備のイベントだった。当時、港は難民が来ないように閉じられていたんだけれど、ある人物がそれを批判する意図でトーダロの話をしたんだ。彼が第二次大戦中、ファシズム時代にどういうふるまいをしたのかを語ってくれて、それを聴いた私は大変感銘を受け、彼に光を当てるべきだと思い、映画化に向けて動き出したんだよ。

学校でもファシズムに関することを学ぶが、とても暗く独裁的な時代だったと教えられる。しかし、誰もが正しい行いをしていなかったわけではなく、トーダロのように人間らしさを失わない軍人もいた。それをみんなに知ってほしかった。

――トーダロについてリサーチしたと思いますが、印象的だったのは?

映画のなかでは、敵に加担していたベルギーの商船のクルーを助けるだけだが、実はイギリスの戦艦のクルーを救助したこともある。それは何を意味しているかというと、彼がたとえ戦争中であっても人間であることを意識していたということ。それでいて彼は平和主義者ではなく、あくまで軍人であったというから、とても面白い人物像だと思ったんだ。

本作のなかで、乗船するまえ、クルーのひとりの病気を予知して下船させるけれど、あのエピソードも実際に起きたこと。トーダロはとても勘が働いて、これから何が起きるかを予見できる能力をもっていた。それは別に神がかり的なことではなく、人間としてのセンシビリティが高かったからだと言われているんだよ。

ピエルフランチェスコ・ファヴィーノが、艦長サルヴァトーレ・トーダロを演じた

――助けてもらったベルギーの船員がトーダロに「なぜ助けた?」と尋ねると、彼は「イタリア人だから」と答えます。これはどういう意味なんでしょう?

そのセリフは実際にトーダロが口にした言葉なんだ。どういう意味かというと「ドイツ人ではなくイタリア人だから」だよ。当時の大西洋はナチスの潜水艦隊司令長官カール・デーニッツによって把握されていて、トーダロが敵兵を救助したことも知られていた。この言葉はそんなデーニッツに「なぜ助けた? ドイツ人だったら決してそんなことはしなかった」と言われたときに返した言葉なんだ。「私たちイタリア人はドイツ人とはちがう。われわれには2000年の歴史がある」と言ったと伝えられているんだよ。

――潜水艦を題材にした映画は名作が多いですが、そういう作品を参考にしましたか?

そういうのは戦争映画だよね? 私が撮ろうとしたのは戦争映画ではなくトーダロという人間だ。私は、人間が中心にいれば、どんなジャンルであろうと感動できる映画が撮れると信じている。私はそのドラマのほうが重要だったので、潜水艦映画で観たのは数本くらい。そういうなかでもっとも素晴らしかったのは『U・ボート』(ウォルフガング・ペーターゼン監督)だよ。戦争と人間、どちらもしっかりと描かれていたから。

――ところで、潜水艦映画はイタリアでは珍しいのでは? あまり聞いたことがないと思うんですが。

そうだな……この作品のまえに作られたのは70年前だと聞いているよ。ということは70年に1本、かなり珍しいと言えるだろうね(笑)。ちなみに、今回は撮影のためコマンダンテ号のフルスケールのモデルを作ったんだ。もちろん、そういう前例はイタリアではなかったので、周囲からは懐疑的な目を向けられたけれど、作って正解だったと思っている。潜水艦の内部まで作り込んだから、ただでさえ狭いのに、ベルギー人クルーが乗艦してより狭くなり、まるで人間で埋め尽くされているような雰囲気が生まれたんだ。映画作りと言うのは複雑な面もあるけれど、シンプルな動機から生まれるものでもある。私がトーダロに惚れたという動機のようにね!

 


profile
監督・脚本・原案:エドアルド・デ・アンジェリス
1978年、ナポリ生まれ。『Mozzarella Stories』(11)で長編映画デビュー。2作目の『Perez.』(14)は2014年ヴェネツィア国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に招待される。4作目の『切り離せないふたり』(16)は2016年ヴェネツィア国際映画祭ヴェニス・デイズに出品、イタリアアカデミー賞のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞ではほぼすべての部門でノミネートされ、自身は脚本賞を受賞。5作目の『堕ちた希望』(18)は2018年東京国際映画祭にて監督賞を受賞した。

 


■作品紹介

『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』

1940年10月。イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、イギリス軍への物資供給を断つため地中海からジブラルタル海峡を抜けて大西洋へと向かっていた。その途中、遭遇した船籍不明の船を撃沈するが、それは中立国であるはずのベルギー船籍の自衛武装を備えた貨物船カバロ号だった。サルバトーレ・トーダロ艦長はカバロ号の乗組員たちを救助し、自らと部下たちを危険にさらすのを覚悟の上で、彼を最寄りの安全な港まで運んでいく決断を下す。

監督:エドアルド・デ・アンジェリス 脚本:サンドロ・ヴェロネージ、エドアルド・デ・アンジェリス 出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、マッシミリアーノ・ロッシ、ヨハン・ヘルデンベルグ、パオロ・ボナチェリ、シルヴィア・ダミーコほか  (2023/イタリア・ベルギー/121分)

© 2023 INDIGO FILM-O’GROOVE-TRAMP LTD-VGROOVE-WISE PICTURES

TOHOシネマズ日比谷ほか 全国公開中

 

 

 

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
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