「加藤さんの作品を観ると、自分とは違う他人の人生をちょっと追いかけられる」藤原季節&加藤拓也インタビュー【映画『わたし達はおとな』特集】

新鋭・加藤拓也のオリジナル脚本による長編監督デビュー作。タイトルは、『わたし達はおとな』。タッグを組むのは、盟友・藤原季節だ。20代前半の頃から共に何度も演劇作品をつくってきた2つの才能が、映画という新しいフィールドで交差した。

取材&文/横川良明 撮影/玉井美世子

直哉を見て、自分を省みる人も多いみたいです

――もう何年も前ですけど、藤原さんのブログに加藤さんとのツーショットが載っていて。あれ、好きです。

藤原 僕も気に入ってます。あれ、響く人には響くんですよ。妙にいい写真ですよね。

加藤 渋谷のセンター街のところで。

藤原 ドン・キホーテの近くですよね。

――今もよく遊びに行くんですか。

藤原 加藤さんが遊びたいタイミングになったら加藤さんから連絡が来るんです。ホン(脚本)を書いてるときかもしれないから、あんまり僕から誘うことはなくて。加藤さんから「今日何してる?」って来たら、スタンバイゴーです(笑)。

――今回、藤原さんが演じた直哉という青年。シンプルに感想を言うと、嫌なヤツでした(笑)。

加藤 同性から見ても普通に嫌悪するヤツではあるなと思います。

藤原 嫌われれば嫌われるほどうれしいですね。観た人の感想を聞いても、その辺に居そうと言ってくれる人が結構多くて。

加藤 特にモデルがいるというわけではないんですけど、こういう人嫌だなと思うところを誇張しながら書いたところはあります。

――何かあったら論破してきそうな感じとかザワッとしました。

藤原 そういう直哉を見て自分のことを省みちゃったという人も多かったです。なので、ぜひ思い当たるところのある人は、『わたし達はおとな』を観て反省してほしいです(笑)。

季節は、自意識が極限まで薄く見える時がある

――加藤さんの書く人間って、一言で説明しづらいんですよね。直哉も嫌なやつだとは思うけど悪い人だとは思わない。どの人物も「温厚」とか「陰険」とか単純な言葉で表せないというか。

加藤 人のある一面を切り取って前に押し出していけば、説明しやすくなるのかもしれません。僕自身、撮っている間はどういう人か説明してくれと言われても一面だけ説明することは難しい。映画を撮り終わって、いろいろな側面が見えてやっとこういう人でしたねと感じるみたいな。

――そんな人物を藤原さんはどう役づくりして臨むのか気になります。

藤原 加藤さんって「こうやってやるぞ」という俳優の意図を全部見破る人なんですよ。それはもうわかっているので、僕としてはいかに何もしないということができるかの方が大事で。僕の意図は、僕の意図でしかない。それよりも台本に書かれてある意図に沿った方が、自分の知らない方向に進んでいく可能性がある。加藤さんと一緒にやるときは、それを面白がっちゃっている自分がいますね。

――それは、丸腰で臨んで現場で何が生まれるかを試していくような感じですか。

藤原 実は丸腰じゃなくて。丸腰に行くまでに何度もリハーサルを重ねて、台詞を叩き込んで、ひたすら本を読み込む。これを徹底的にやらないと丸腰にはなれないんですよ。だから、現場で丸腰になれるように、事前に本を何度も読んでおく。僕がやっているのは、それぐらいです。

加藤 言わなきゃいけない台詞とやらなきゃいけない動きがある以上、絶対に自意識ってあるじゃないですか。その自意識が、季節は極限まで薄く見える時がある。でもその生感というもののは準備とリハーサルとでしっかり作るものであって、その場で生まれるとか即興とかそういうよくわからない理屈ではない。

藤原 そこは、23歳から一緒にやっていく中で徐々に削がれていったところな気がしますけどね。それこそ最初はもう自意識満々だった。でもそれはお互い様というか。お互い泥沼の戦いを経て今に至るというか。

――クライマックスの長回しはものすごい見応えでした。あれだけの長回しというのは、俳優にとって緊張感が違いますか。

藤原 1個台詞を吐いたら、次の台詞があって。どんどん時間は前に進んでいって、戻りたくても戻れない。その感覚は激しいですね。もう後戻りできないぞという積み重ねの末に、吐かなくてもいいような言葉をつい言ってしまうような心理状態に運ばれていく。運ばれていくっていう感覚はすごくありました。

――細かいところですけど、トイレに閉じこもった優実(木竜麻生)に対し、直哉が電気をカチカチするじゃないですか。うわ、こういう人いると思いました。

藤原 いますよね(笑)。感情的になるとやっちゃう人、いると思いますよ。あれは現場で加藤さんが考えました。すごい嫌ですよね。明日は我が身っていう感じがします(笑)。

ーーラストの長回しって、どれくらいリハーサルをしたんですか。

藤原 結構やったと思います。ただ、動きに関してはざっくりとしか決めていなくて。どちらかと言うと、どこにカメラを置けば2人を捉えられるかということを緻密にシミュレーションして。あとは、現場に行ったらもうカメラをポンと置いて、じゃあやりましょうっていう感じでした。

加藤 今回、カット割りに関しては、 “覗いてる”というコンセプトがあったので。物語を伝えるために必要な割りである前提に加え、いかに観ている人が2人の生活を“覗いている”感覚になれるか、ということを大事にしながら割りを決めていきました。

藤原 シーンの中で優実(木竜麻生)の表情がどんどん変わっていくんですよね。その表情の変化を抑えるためには、どこにカメラを置けばいいか、というのを加藤さんが現場でこだわっていたのは覚えています。

加藤 『わたし達はおとな』は、「演劇の延長線上」に置いてつくりたいという気持ちがありました。長回しに関してもそのひとつですし、ワンカット、ワンカットを本当に世に出していいかを、現場で判断しなくてはいけない。そのジャッジに関しては、「演劇の延長線上」と言いながらも、普段の演劇とは違うプレッシャーを感じるというか、エネルギーを使ったところはありますね。

加藤さんの新作を観るのが生きる楽しみなんで

――藤原さんの言葉で、加藤さんが書く人間の魅力を語るとしたら、何と説明しますか。

藤原 まあ、わかりやすくはないですよね。今ってわかりやすいものが多いですけど。そもそも人ってわからないので、わからない人のことを見てみたいっていう好奇心があるじゃないですか。加藤さんの作品を観ると、自分とは違う他人の人生をちょっと追いかけられる。それは体験として快感ですけど。

――演じ手としてはわかる人間を渡されるより、わからない人間を渡される方が快感ですか。

藤原 わからない人間を渡されたら最高ですよね。それじゃないとやっている意味がないなって。

――それを、最終的にわかると思って演じるんですか。それともわからないまま演じるんですか。

藤原 わからないまま演じて、たまにわかるときがあると感動しますよね。今回で言うと、わかったかどうかわかんないですけど、自分が意図しないタイミングで心が動いた場面があって。それもラストシーンの最中なんですけど、全然意図してないとこで心が動いちゃって。あとで加藤さんに「あれで良かったんですか?」と聞いたら、加藤さんはそこで僕の心が動くってわかってたみたいですけど。

加藤 何だったっけ?

藤原 「別れたい」って優実に言われたところですね。

加藤 ああ、あれね。

藤原 「本当に言ってんの?」ってちょっと反復するところで、「あれ? 俺、別れたくないのかな?」ってなった。そういうふうに心が動く予定じゃなかったので、直哉って優実のことをどれぐらい好きだったんだろうとか考えちゃって。別に相手のことをどれだけ好きか決めて演技しないじゃないですか。でも、言いながら、「俺、この人好きだったのかな」ってわかっちゃうときがあって、そういうときは感動して泣いちゃったりしますけどね。

――俳優・藤原季節にとって加藤拓也からのオファーとはどういうものですか。

藤原 来た来た来た、みたいな(笑)。加藤さんの本を読むのが一番の楽しみなんですよ。毎回、似たものが一つもないので。次はどんな自分の価値観を壊してくれるんだろうってワクワクする。僕にとってはそんなふうに思える人が、たまたま身近な存在だったというだけなんです。だから、加藤さんにはとにかく何歳になっても新しい作品を書き続けてほしいですね。加藤さんの新作を観るのが生きる楽しみなので。

――では、演出家・加藤拓也にとって、藤原季節はどんな存在ですか。

加藤 自意識の薄い瞬間を与えてくれる人って感じですね。

藤原 でも、それを「もう1回」って言われるとできない。ナマモノなんですよ。だから監督に「次は大事なシーンだから頼むね」とか言われると、もう終わったと思います(笑)。

<プロフィール>

藤原季節●1993年生まれ、北海道出身。2014年、映画『人狼ゲーム ビーストサイド』(熊坂出監督)で俳優活動をスタート。主な映画出演作に『ケンとカズ』(小路紘史監督/16年)、『止められるか、俺たちを』(白石和彌監督/18年)、『his』(今泉力哉監督/20年)、『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督/20年)、主演映画『のさりの島』(山本起也監督/21年)、『くれなずめ』(松居大悟監督/21年)などがある。第42回ヨコハマ映画祭 最優秀新人賞、第13回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞受賞。Huluオリジナル「あなたに聴かせたい歌があるんだ」(萩原健太郎監督)がHuluにて独占配信中。

加藤拓也●1993年生まれ、大阪府出身。脚本家・演出家・監督。劇団た組主宰、わをん企画代表。17歳でラジオ・テレビの構成作家を始める。18歳でイタリアへ渡り、映像演出と演劇について学び、帰国後、劇団た組。(現在は劇団た組)を立ち上げた。近年の映像作品に「お茶にごす。」(テレビ東京ほか)、「死にたい夜にかぎって」(TBS)などがある。「きれいのくに」(NHK)で第10回市川森一脚本賞を受賞。シス・カンパニー公演「ザ・ウェルキン」が7月より東京・Bunkamuraシアターコクーン他にて上演される。

「わたし達はおとな」

2022年6月10日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開

 配給:ラビットハウス

 ©2022「わたし達はおとな」製作委員会

木竜麻生 藤原季節

菅野莉央 清水くるみ 森田想 / 桜田通 山崎紘菜

片岡礼子 石田ひかり 佐戸井けん太

鈴木勝大 山脇辰哉 上村侑 中山求一郎 諫早幸作 伊藤風喜 鳥谷 宏之  平原テツ

監督・脚本:加藤拓也

(not) HEROINE movies第一回作品 メ~テレ60周年

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