「洋画」と「邦画」のボーダーライン&『クライ・マッチョ』映画星取り【2022年1月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は、クリント・イーストウッド監督・主演の『クライ・マッチョ』。91歳にしていまだ大活躍の御大。新年この時期こそ拝まねば、というところ。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も。映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:本年もよろしくお願いします。

折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:初詣の浅草寺で郷ひろみさんに遭遇。肘タッチしていただき、かなりのご利益を得た気分に。素直に興奮しました!

森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:謹賀新年。1月公開作では『決戦は日曜日』『エル プラネタ』『さがす』『前科者』の劇場パンフに寄稿してます。

 

『クライ・マッチョ』

監督・主演・製作/クリント・イーストウッド 原作/N・リチャード・ナッシュ 脚本/ニック・シェンク N・リチャード・ナッシュ 出演/クリント・イーストウッド エドゥアルド・ミネット ナタリア・トラヴェン ドワイト・ヨーカム フェルナンダ・ウレホラほか
(2021年/アメリカ)

  • ロデオ界のスターとして活躍するも、落馬事故で落ちぶれて家族は離散し、今は競走馬の種付けで食いつなぐマイクは、かつての雇い主から少年を誘拐するよう依頼される。親の愛を知らずに育った不良少年ラフォをメキシコからアメリカに連れて行く旅路で、様々な困難や出会いが待ち受ける。監督、役者として数々の名作を手掛けたクリント・イーストウッドが監督、主演、製作を務める。

1/14(金)新宿ピカデリーほか 全国ロードショー
© 2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
配給/ワーナー・ブラザース映画

渡辺麻紀

老後の楽しみ
前作『運び屋』までは「老いてなお盛ん」だったイーストウッドだが、さすがに89歳くらいで撮った本作では「老いた」印象。が、それでもちゃんと恋をして若者を育て、スタントマンに頼るとはいえロデオシーンだってやってみせる。じいちゃんが老後の楽しみで撮ったようなほのぼのっぷりで、何ともかわいい映画だったりするのだ。
★★★☆☆

折田千鶴子

もう、メッチャお茶目
自分で焼き直しかってくらいイーストウッド“らし過ぎる”。少年に真の強さや人生の意義を教え繋いでいくロードムービーは、所々ユルさは否めないものの、細かいことはどうでもいい大らかさに満ち、観飽きない。そう“大らかさ”がさらに更新されている! そして最後、美味しいとこ全部もってっちゃう御大のお茶目さに笑った。やっぱ愛だゼ。人生に乾杯!
★★★☆☆

森直人

「ありがたい」に尽きる
もう生命の奇跡を目撃するようなレベル。『グラン・トリノ』×『運び屋』ですよね、みたいな要約では全然片づけられない90歳の監督・主演作。究極のスター映画でありつつインディ的な軽みも横溢。老害とも若作りとも無縁なのが凄いなと。撮影をMCUも手掛ける名手ベン・デイヴィスが務めているのも大きい。
★★★★半

 

気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論

渡辺麻紀

今年のオスカー、どうなるの?
オミクロン株の蔓延によって、オスカー授賞式がどうなるのか気になるところだが、そのまえに注目すべきなのはノミネーション。各媒体がベスト10を発表するなか高評価なのはやはりこの時代だからこその作品だ。ジェーン・カンピオンの西部劇×LGBT映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、スピルバーグのマイノリティ主人公のリメイク・ミュージカル『ウェスト・サイド・ストーリー』、シアン・アンダーソンの聾唖家族ドラマ『コーダ あいのうた』、ケネス・ブラナーの自伝的映画『ベルファスト』、そしてギレルモ・デル・トロのサスペンス『ナイトメア・アリー』等。多様性を意識した作品が多いなか、それはさておきで自分の好きなテーマだけを作り続けるデル・トロはさすがとしかいいようがない。ちなみに、そんなデル・トロの名言が「映画を作るには2年、3年と時間がかかる。セックスと同じで自分が好きな相手としかやりたくないんだよ」。説得力あると思いません?

『ナイトメア・アリー』

 

折田千鶴子

加害意識の低さ=傲慢? 鈍感? ただのバカ!?
「SEX AND THE CITY」の新章「AND JUST LIKE THAT…」の全米配信開始直後、且つ日本配信開始直前。あまりのタイミングに、何らかの妨害フェイクニュースか!? と思ってしまったほど。“ミスター・ビッグことクリス・ノースの性的暴行疑惑”。嘘でしょう!? という悲鳴と、クリスお前もか!? と半ば呆れつつガックリ&衝撃はハンパない。SATC新章を楽しみにしていた身としては、他の演者やスタッフがどれだけ苦労や情熱を注いだのか……と思うと、かなり複雑。実際、作品に罪はないのに、既に純粋な目で楽しめなくなってしまっている(きっと多くの人が)のも事実。事の真偽は定かではないが、続々と被害者が名乗り出ていることからも、クリスが主張するように無実ってことはなさそう。既にエージェントから解雇され、別のドラマも降板させられるなど社会的制裁を受け始めたが、「全くの偽りだ」と主張する彼が、今後どのように被害者と、そして自身の罪と向き合うのか。性的暴行という行為がどれだけ罪深いか、ちゃんと認識するためにも、個人的に2021ベスト10に入れたい『プロミシング・ヤング・ウーマン』を改めて、心して彼に観て欲しいものだ。キャリー・マリガン扮するヒロインが不埒な男どもに覚悟をもって復讐を果たしていく、その結末――それがまたまた衝撃的!

プロミシング・ヤング・ウーマン

 

森直人

「洋画」ってものの難しさ
いったい「洋画」とはなんぞや?――と改めて考えてみたのですが、それはおおよそ一般的に「日本語字幕のついた外国語映画」のことを指すのかなと思います。これまで「洋画」は通例の業界的手順を経て輸入される――というタイムラグが当たり前だったのですが、それがどんどん不自然な手間に思えてくるのがグローバル配信時代のニューノーマルってことでしょうか。「洋画」の批評も向こうの公開時からガンガン出るわけで、日本だと後出しじゃんけんの様相が強くなっています。インターネットの翻訳機能もだいぶ良くなっているので、英語のみならず他の外国語も結構読めちゃいますからね。

2021年度のベストテン選出の作業などを行っていても、日本映画の場合はリアルな感覚を持ってみっちり選ぶことができるのですが、外国映画は「なんだか隙間が多いな…」と。上位に挙げられるものも2019年や2020年の話題作であることが多い。一方、現在賞レースで本命視されている『パワー・オブ・ザ・ドッグ』はNetflixの配信でちゃちゃっと観ちゃったから、どうも「映画体験」として軽かった(※個人の感想です)。まさしく過渡期的なジレンマ。ちなみに日本映画は「邦画」なんて言われたりもしますが、『ドライブ・マイ・カー』とかって「邦」的な枠組みはどう考えても薄いですよね。「洋画」「邦画」の概念やボーダーも、次第に「別の何か」へと更新されていくんだろうなと思います。

パワー・オブ・ザ・ドッグ(Netflix公式)

 

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