FNS歌謡祭で思い出すLGBTQ映画&『世界で一番美しい少年』映画星取り【2021年12月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は伝説のアイコンの数奇な人生を追った『世界で一番美しい少年』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も常設しておりますので、映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

 

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:ジョン・ウォーターズのヒッチハイク本を翻訳しました。

ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。12/19(日)、ロフトプラスワンWESTで「ザ・ベストテン!2021」。12/26は大阪十三シアターセブンで『新しい風』上映後、中村祐太郎監督とトーク。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回はYouTubeチャンネルでご覧ください。

地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:東京国際映画祭で『オマージュ』を鑑賞。映画愛もたっぷりで💮。主演は『パラサイト』のパワフル家政婦ことイ・ジョンウン。

『世界で一番美しい少年』

監督/クリスティーナ・リンドストロム & クリスティアン・ペトリ
出演/ビョルン・アンドレセンほか
(2021年/スウェーデン/98分)

  • “世界で一番美しい少年”と称賛された、『ベニスに死す』(1971年)に出演したビョルン・アンドレセンは、日本でもカルチャーに大きな影響を与えた。そうした熱狂の約50年、『ミッドサマー』(2019年)に老人役で出演して再び話題となる。豊富なアーカイブ映像で、『ベニスに死す』の裏側や、彼の栄光と破滅、再生への道のりを追うドキュメンタリー。

12/17(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ他にて全国順次公開
© Mantaray Film AB, Sveriges Television AB, ZDF/ARTE, Jonas Gardell Produktion, 2021
配給/ギャガ

 

柳下毅一郎
ヴィスコンティの恐ろしさばかり
『俳優、ヘルムート・バーガー』でもやはりヴィスコンティのせいで狂わされてしまった人生が語られていたが、二本立てで見たい。日本人の北欧美少年好きのあまり、映画の主題歌がビョルンの日本語歌『永遠にふたり』だ!
★★★☆☆

ミルクマン斉藤
偶像化する前から始まる地獄の生涯。
ヴィスコンティのオーディション・シーンからして、かなり観るに堪えない児童虐待。銭ゲバと化す祖母、薬呑まされステージに立たされる日本でのアイドル活動も酷いけれど、幼少期に経験し、記憶を抹消していたと思しき母の死の謎に遡るにつれ、一見老いさらばえた今のビョルンがむしろ格好良く見えてくる。
★★★★半

地畑寧子
伝説のアイコンの苦難
大人の世界に突如投げ込まれた子役の苦悶は、万国共通。ただ大きすぎた代償が、掬いあげた世界的巨匠に起因するといった文脈はいかがなものかと。それよりもインサートされる『ベニスに死す』の現場の裏側に興味津々。
★★★☆☆

気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論

柳下毅一郎
〈アンダーグラウンド・シネマ・フェスティバル〉

〈アンダーグラウンド・シネマ・フェスティバル〉に行ってきた。2020年に鬼籍に入った岡部道男作品を中心に、革命と前衛芸術の1960年代をドキュメントする実験ドキュメンタリー映画の上映会である。大げさに言っても良ければ、それは歴史の転換点のドキュメントでもあった。末永蒼生による1968年10月20日におこなわれたアート・フェスティバルと、その翌日の新宿騒乱との2スクリーン同時上映は示唆的だった。つまり、このふたつは本来同じ人がやっているひとつながりの行為だったにもかかわらず、いつしか分裂してまったく交わらない出来事になってしまった。アートと政治が分かれてしまった。それが今にいたる問題の源泉でもあるのだ、ということである。岡部による『シロよどこへ行く』という過激すぎる作品(撮影:シロ)はときに幻覚まで引き起こす凶暴さだったり、いろんな意味で楽しい上映会だった。
 ちなみにわざわざ三鷹まで行ったので地元の酒場を覗いてきたのだが、見事に入った瞬間に時間が止まり、永遠のときが流れる最高の店だった。自前で酒をミックスして出す店はヤバい、という個人的信念はまたしても裏付けられたのである。

アンダーグラウンド・シネマ・フェスティバル

ミルクマン斉藤
トランスジェンダーの命綱。
先日、晩メシ食べながら漫然と『FNS歌謡祭』を観ていると、ピンドン・ノリ子と称する女装した木梨憲武と、マツコ・デラックス、ミッツ・マングローブが登場して新曲を歌うという。個人的には面白くもなんともなかった「矢島美容室」みたいなのをまたノリさんがやるのかな、と思いきや、なんと作詞は阿木燿子、作曲は宇崎竜童、曲名は「命綱」。イントロ流れてのけぞった。ブルース・ラインぶりぶり、ホーン・セクションもぶ厚いどファンク・チューン。タメを効かせた三連符メロディを、思いっきりドスかまして「俺」人称でソウルフルに歌い上げるマツコとミッツに一瞬にしてヤラれてしまった。少なくとも今年聴いたJ-POP系(つか歌謡曲!)では抜群にカッコいい……ってことで三人組LGBTQの映画を書こうと思ったんだが、『矢島美容室 THE MOVIE 〜夢をつかまネバダ〜』は論外だし、『3人のエンジェル』は弱いしで、結局誰もが知ってる傑作『プリシラ』になっちまうのはあまりに面白くないよな。そこでここは昨年Netflixに出た挑発的なドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』を紹介しておこう。無声期から2000年代まで、膨大な映画フッテージを引用しながら、男女トランス俳優、評論家etc.が相当手厳しい批評を浴びせまくる。シスジェンダーな僕にはやや拘りすぎではないか? という点もままあるけれど個々人の体験による証言の説得力は絶大。今さら蒸し返すようだが、とんねるず「保毛尾田保毛男」ネタが、いかにどうしようもなく前時代的だったかを思い起こさせもするのであった。

『トランスジェンダーとハリウッド:過去、現在、そして』(Netflix公式)

地畑寧子
サンドラ・ンはシリアス演技も絶品
米国をはじめとする外交的ボイコットで揺れている2022年の冬季北京オリンピック。旧正月休暇とかぶらせて盛り上げようとしているのはわかるが、女子テニスの彭帥選手、IOCの一連の騒動も盛り上がりをそいでいるのも否めない。とはいえ、この旧正月の大型連休にあてた映画は着々と撮影されていて、そのなかには当然オリンピックにちなんだ作品もある。なかでも『中国女排』(中国女子バレーボール)は、主演のコン・リーが、扮する郎平(現監督、1980年代の名選手)に酷似していると話題になっているようだ。またこの作品、監督は香港の名匠ピーター・チャン(陳可辛)なので、かなりの感動作に仕上がっていると予想される。そのチャン監督の妻で香港随一のコメディエンヌ、サンドラ・ン(呉君如)が製作・主演を務めている『ゼロからのヒーロー』(Netflix映画)は、2008年の北京パラリンピック陸上競技で世界記録を樹立したソー・ワーワイの実話を映画化した秀作。脳性マヒと診断されたワーワイに歩行を教え、類まれな脚力を見出した母親とワーワイとの絆には、思わず感涙。オリンピックとパラリンピックの格差にも切り込んでいるのもいい。“普通に扱われないなら特別な人になればいい”のセリフが心に残る。

『ゼロからのヒーロー』(Netflix公式)

 

+1
Spread the love