森山直太朗「唯一無二の関係の中で曲が伝わっていけば、上書きされない」弾き語りによる自身“初”のベストアルバム『原画』【不定期連載 第2回 『心のままに』】

現在、全国一〇〇本にわたるツアーで各地を巡る、シンガーソングライターの森山直太朗。この1月に発売された初の弾き語りによるベストアルバム『原画I』『原画II』の珍しい販売方法や、48分にも及ぶ壮大なミュージックビデオについて語ってもらった【不定期連載『心のままに』】第2回。

構成・取材・文/かわむらあみり 撮影/大内カオリ

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『原画』のレコーディングは弾き語りのライブに似た感覚そのもの

 

――2023年1月17日に初の弾き語りによるベストアルバム『原画I』『原画II』が発売されました。これまでの名曲はもちろん、『原画I』にはお母様の森山良子さんへの曲「今」、『原画II』にはAIさんへの曲「アルデバラン」といった提供曲も収録されていますが、ご自身で歌いさらに弾き語りでとなるといつもと違う感覚はありますか。

多少はあります。でも、結局のところ、曲を作る時は弾き語りで作っているので、作る時の感覚と同じような距離感や角度でレコーディングしました。とくに「アルデバラン」は、自分の中のAIちゃん像が歌にも出ていますよね、わかんない程度に。こういうふうに歌ってほしい、という感じがちょっと今回、出ちゃっているかも(笑)。

僕もある種、同じ舞台に立って歌っている身なので、その歌い手がどうやって舞台でいきいきできるかを考えて作っていく節があって。自分の中に彼女や彼らをおろしながらやっているから、自分で歌うならこういうタイプの曲は歌わないし作らないけど、AIちゃんが歌ったらきっと響くだろうと信じて作っている。だから提供曲を自身で歌う時は、その人を自分に憑依させて歌っているんだと思います。

 

――では、ご自身のこれまでの曲を今回、リラックスできる環境で録音していくなか、いつもと違う気持ちでできたのでしょうか。

 

『原画』は、極力プライベートな空間で録って、未完成な部分をみんなと共有できればと思っていました。でも現実にはそんなにファジーには作れない自分もいて。結局レコーディングってなると違う力が入ってしまうんですよね。なのでプライベートな時間をどれだけ再現できるか、そのことだけに集中しました。それはどこか弾き語りライブと感覚が似ているんですよね、自分のペースでやれるから。

例えばフルバンドとかでやると、カウントが入ったり、一緒に締めたりと良くも悪くも自分の間合いじゃなく、バンドメンバーとの協調性の中でやることになる。なんかちょっと違う力が入っちゃうんですよ(笑)。逆にそれが普段出さないパワーやエネルギーに変わるという良さもあるんですけど。

今回に関しては「今なんかこの曲歌いたい」とか「この曲入れようと思ってたけど、やっぱりこっちにしよう」という、自分の融通が利くんですよね。弾き語りライブも自分で曲を変えられる。そんなふうに『原画』のレコーディング中の自由度はまさに、プライベートな感覚をとっても大事にしながら、弾き語りのライブに似ている感覚そのものでした。

 

20年やってきたいろいろな時代のうつろいの中で、原点に戻った

 

 

――ヘッドフォンで『原画』を聴いていると、向こうのほうからマイクのある場所に歩いてくるとわかるような足音や自然音も入っていますよね。

 

そうそう、コーヒーを淹れる音もあったり、雨が降る音だったり。大半の曲は自分の持っている山小屋でレコーディングしました。プライベートでも仲のいいエンジニアの安達くんと一緒に行って、曲を録音していって。二人で生活するような感じで、家族の話やこれからの話をするなかで、彼が風呂に入っている間に歌ったりもしていました。

もともとは『原画』を作るとなった時に、まぁ10曲ぐらいで1枚リリースしようと思っていたところが、1日目ですでに15曲録れちゃって(笑)。スタッフに、このペースならもっといけるかもという話をしました。そしたらもう1枚作ろうという話になって、そこからは無心でひたすらダラダラしながら歌っていました。1枚ずつ時期をずらしてリリースすることも考えたんだけど、「後から絶対やり直したくなるから」って、今録ったものを大事にしていこうという結論になりました。

 

――『原画』はツアー会場限定販売でもありますし、配信主体の時代に潔い決断です。

 

めっちゃオーガニックですよね(笑)。直売農家みたいな。配信しない、レコード店に流通しないことで圧倒的機会損失もあるけど、今までその機会を損失していない形態でいったい何を得てきたんだろう、という思いもあって。サブスクをやりました、配信をやりました、TikTokをやりましたと。それら自体はいろいろな方に知ってもらえる良い機会ですよね。と同時に、ふんわりとした実態のない関係性だけが生まれていってしまう懸念もあって。

もともと路上とかライブの弾き語りで目の前の人に歌って、関係性を作ってきたことが音楽活動の軸にあるから、そこで実演して良かったら作品も現場で買ってもらう。その実感に今一度立ち返りたいという思いがあったんだと思います。例えば「さくら」という曲は、実際にやりとりをしたなかで成長した曲で、桜前線とともに各地のラジオ局をまわって聴いてもらってという、顔の見える活動や伝え方をしていったんです。

だから、サブスクをやってもSNSをやってもいいけれど、もともとのところにそのエネルギーやリアリティーがなければ、僕の場合ハリボテになってしまう。曲って、サブスクやTikTokでわーっと盛り上がりました、といったことのあとに、どのぐらいの普遍性とつながりが芽生えるかが重要だと思っていて。同じ100万人に伝わったとしても、すぐ次のターンが来て、聴き手の中ですぐに上書きされていってしまう。本来は、唯一無二の関係の中で曲が伝わっていけば、上書きされないはずなんです。

今は効率的なものを求めがちで、音楽がある種において、便利なものになりすぎているなと。でも音楽の役割って、人々の都合に合うだけじゃない部分もある。商業音楽でもあり、ポップスだからそれは要素としては大事なんだけど、効率が良くなくても、そこに見える結論がなくても、お互いが語り合えるひとつのきっかけ作りをする、そういう役割もあると思うんです。

とりわけ僕や御徒町凧(多くの楽曲の共作者)が作っている作品は、その好奇心やある種においての疑いを原動力に作っています。そういう意味では、20年やってきて、いろいろな時代のうつろいの中で、今回は本当に原点に戻ったと感じています。

 

――「全国一〇〇本ツアー」で今年1月から2月に行われる前篇追加の弾き語り全6公演の各会場限定で、実際に『原画』を購入した方に直接、手渡し会を開催するそうですね?

 

6公演の終演後に、僕のほうから『原画』を手渡しさせてもらいます。それ以降は後篇のフルバンドツアーに戻るので、今回は弾き語り公演会場で『原画』を買っていただいた方に、直接、お渡しできたらと考えました。

 

――直太朗さんに手渡ししていただけると、さらにうれしいですよね。「TV Bros.」も弾き語り公演の東京会場・めぐろパーシモンホールにお邪魔します。

 

わかりました(笑)。

 

『原画』のミュージックビデオはドキュメントのような独特な世界観

 

 

――『原画』のサイトに流れるミュージックビデオの映像が、まるで映画のようだと感じました。壮大な景色や工夫された設定から、『原画』のもうひとつの世界観がうかがえます。なんと48分もあるそうですが、撮影は大変でしたか?

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