山本耕史「襟を触っていたシーンをぜひ見返してほしい」【鎌倉殿の13人・不定期連載】

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)も残すところ2回。鎌倉幕府の覇権争いに巻き込まれ、多くの者が命を落としていった。第45回で源氏は実朝(柿澤勇人)と公暁(寛一郎)が亡くなって、最終的に残ったのは北条家と三浦家。実朝を見殺しにしたようなものである義時(小栗旬)、公暁を裏切った義村(山本耕史)。酷いやつ選手権の1、2位を争いそうなふたりだが、どこか気の合っているような気もするし、お互い気を許していないような緊張感もある奇妙な関係が気にかかる。義村役の山本耕史さんに話を聞いてみた。

取材・文/木俣冬
写真提供/NHK

きまた・ふゆ●新刊『ネットと朝ドラ』(Real Sound Collection)、その他の著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)、『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』(キネマ旬報社)など。『連続テレビ小説 なつぞら』、『コンフィデンスマンJP』などノベライズも多く執筆。そのほか『蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)、『庵野秀明のフタリシバイ』(徳間書店)の構成も手掛ける。WEBサイト「シネマズプラス」で『毎日朝ドラレビュー』連載中。12月12日発売の『どうする家康 一』(NHK出版/脚本:古沢良太)のノベライズを担当。

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「義村は最初から言動が変わってない」

 

――義村は義時の盟友のようで時々裏切ることもあります。どういう関係性なのでしょうか。

 

「義村と義時はお互い探りあっている部分もありながら、通じ合うところは通じ合っていて。お互い思うことはあるけれど、腹の底を明かさずとも、言わずもがなみたいなところがありますよね」

 

――義時は悩みながら覚悟を決めた印象がありますが、義村は自分の生きる道に悩んだり迷ったりしたことはあるのでしょうか。

 

「回を追うごとに義時も義村もほんとにひどいことを積み重ねていきますが、よくよく考えてみると、義村は最初から言動が変わってないんです。相手が頼朝(大泉洋)であろうと比企(佐藤二朗)であろうと和田(横田栄司)であろうと公暁(寛一郎)であろうと義時であろうと、出る杭は打つタイプなんです。損得を考えて自分に得なことを選んでいるだけなんですよね。義時とはいい対比を成していて、義時が変わっていくからこそ、義村がそのまま変わらないことが際立つとも思います。内面だけでなくて外見も変わってないんですよ。ほかの皆さんは年を重ねるごとに髭をたくわえていきますが、義村は髭も生やさないし、白髪やシワなどの老けメイクもしません。あえて何も変えないでいこうと僕が提案しました。当時はみんな貫禄をつけるために髭を生やしたのでしょうけれど、僕みたいに童顔で見た目が変わらない人も実際にはいるから、義村は考え方も容姿も第1回から統一しているという体(てい)で演じました」

 

――第1回を見返すと、お土産の数が足りないところ三浦家はひとつでいいと辞退して義時を助けていました。あのときは爽やかな友情を感じたのですが……。

 

「あれもね、初見ではそう見えたかもしれませんが、さんざん義村を見てきたあとで見返すと、単に時政(坂東彌十郎)の持ってきたお土産に興味がなくて要らなかったんじゃないかとも解釈できますから(笑)。義村にとってその程度に過ぎず、決して義時に助け舟を出そうという純粋な好意ではないのかもしれないですよ」

 

――そう聞くと、各回、義村がどうだったか、また見返したくなりますよね。

 

「第44、45回の義村が襟を触るエピソードはその最たるもので、過去回を見返したくなった人が多かったと思います。義村は心の中と反対のことを言うとき襟を触る、と義時が見抜くわけですが、これまで襟を触っていたことがあったか、ぜひ見返してほしいです」

――その仕草は第44回に至る布石としてあらかじめ書かれていたことなのでしょうか。あるいは三谷幸喜さんが、山本さんはよく襟を直していると気づいて書いたのでしょうか。

 

「台本が決定稿になる前、三谷さんは便宜上、違うことを書いていた記憶があります。それを読んで、どうせなら義村が実際にやっている仕草はないだろうかという話になり、襟を触っていることに気づきました。実際に見返すと、気持ちと裏腹な感情になったとき、その仕草をしているんです。例えば、比企が討たれた第31回で『北条と三浦は刎頸の交わり』だと言っているときにやっています」

 

「義村と義時の最後のシーンはとてもすてきになったと思います」

 

―― 一貫している義村の魅力は?

「彼はその場その場でのらりくらりしているようで、その生き方自体を迷うことなくまっすぐ目的に向かっていきます。ギリギリのバランスで、重心を保ちながら、危ない橋を渡り切る、義村の判断力は爽快です。北条からも和田からも比企からも頼られるわけは優れた人物だからですよね。勘がいいのか三浦がつくほうが残っていきます。人を見抜く目にかけては群を抜いていますよ。たとえ選択したことが間違っていて死ぬハメに陥ってもそのときはそのときで腹をくくるでしょう。和田合戦のときがそうでした。起請文を飲まされたときは瞬時に腹をくくったと思います。もともと和田につこうと思っていたら、義盛にぎりぎりで裏切らないでほしいと言われたから裏切ることができたけれど。あれはラッキーでしたよね。そうはいっても、和田について闘っても結局どこかでまた寝返っていたんじゃないかな……。義村は言い逃れがすごくうまいんですよね。俺を信じたら死ぬかもしれない。でも俺を信じなければ確実に死ぬ、というようなことや、『勝ったのは俺のおかげ そういうふうに考えたらどうだ』とか、よく考えるとおかしなことでも堂々と言い切ることで相手を信じさせてしまう。常に頭のなかで言い回しを考えているんでしょうかね(笑)。こんな義村を小栗くんは『義村はいいなあ楽しそう』と言っていました。僕も正直楽しく演じることができました」

 

――これまで心が痛むことはまったくなかったのでしょうか。

 

「強いて言えば、公暁暗殺です。彼を焚き付けておいて失敗に終わると三浦家を守るために殺してしまいます。寛一郎の未来への希望あふれる美しいまなざしと哀しみをまとった姿を見ると心が痛みました。義村を信じ切って話している公暁の背後から真顔で刀を差すのは義村らしいけれど、演じていて珍しく『うわ、かわいそう』と思いました」

自分と家が生き残るために得なほうにつくという義村の信念はブレることがない。そう思うと義村の考えていることはわかりやすい。義村のことを見透かしている義時も、政子(小池栄子)には思っていることと違うことを言いがちであることを見抜かれている。薄々見透かされていてもふたりは決して弱音を見せることはない。我慢比べのようである。義時と義村、どちらが最後までしらを切り通せるのか。義時は義村をこれまでの人たちのように邪魔者として処分しないのか。義村が持ち前の勘の良さで義時の寝首をかくのか、はたして――。

 

「後半に向けて、義村の掌を返していくスピードは加速していきます。最後の最後までひっくり返そうとし続けます。台本を読んでいて最後の最後までどちらに転ぶかわかりません。義村と義時の最後のシーンはとても印象的でした。どう幕を閉じるのか気になっていましたが実にすてきなシーンになったと思います」

 

義村はどれだけ裏切っても、ケロッとしているので仕方ない感じになってしまう得なタイプだ。第1回からずっと楽しませてくれた義村。なぜか何度も上半身ハダカになる。『鎌倉殿』では2代目脱ぐ人・八田(市原隼人)が現れた。『あさイチ』(NHK)の小栗旬のプレミアムトークに山本がVTR出演したとき、市原隼人は台本に書いてなかったにもかかわらず自主的に脱ぎ、自身は台本に「脱いでいる」と書いてあったから脱いだという裏話をしてネットニュースになっていた。こうやって本筋と関係ないところでも話題を振りまいてくれた義村。最後まで目が離せない。

 

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