広島・横山雄二(アナウンサー・映画監督・小説家)、ビートたけしに憧れて

横山雄二が脚本・監督を務めた映画『愚か者のブルース』。恋人とストリップ劇場に身を寄せる元映画監督のヒモ男と、歓楽街の人間模様を描いた作品だ。加藤雅也、熊切あさ美ほか、個性派、実力派の豪華キャスト陣が広島の歓楽街を大暴れする、昭和の香り漂う泣ける大人の物語である。広島で今夏行われた先行上映は連日大盛況で幕を閉じた。11月18日には東京、横浜、札幌、福岡を皮切りに全国公開が始まり、池袋と横浜で行われた舞台挨拶にもたくさんの人々が駆けつけて連日満員御礼に。

横山は広島・RCC中国放送のアナウンサーとして大人気番組『平成ラヂオバラエティ ごぜん様さま』のメインパーソナリティを務めるほか、初の小説『ふるさとは本日も晴天なり』(ハルキ文庫)は7刷の大ヒット。さらに今秋上梓した『アナウンサー辞めます』(同文庫)でも広島では異例の売り上げを記録している。

爆笑問題の太田光ほか、全国のメディア関係者、ラジオファンを翻弄させる横山雄二の創作活動について迫った。

取材・文/やきそばかおる 撮影/ツダヒロキ

<お知らせ>
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映画『愚か者のブルース』
監督・脚本・原作/横山雄二 出演/加藤雅也 熊切あさ美 横山雄二 佐々木心音 太田光 筒井真理子ほか
配給/アークエンタテインメント
全国公開中
(2022年/日本/95分)
30年前に伝説の映画を撮るも今は過去の人となった大根(加藤雅也)は、ピンサロ嬢のタマコ(熊切あさ美)の元でヒモ生活を送っている。ある日、タマコの元恋人に脅され、大根とタマコはストリップ劇場に逃げ込む。歓楽街の人々に温かく迎えられ、ふたりは劇場の楽屋で暮らし始める。

小説『アナウンサー辞めます』
著/横山雄二 発売/角川春樹事務所
高校球児だった太田裕二は「将来プロ野球選手になる!」という夢を抱いていたが、あと一歩というところで甲子園の出場を逃し、その夢は儚くも散ってしまった。その後、太田は地方局のアナウンサーとなり、夢を諦めてから三十五年の歳月が流れ、五十三歳になっていた。そんなある日、番組で太田が発した一言がきっかけとなり、世の中が急激に動き出す。それと同時に、忘れかけていた「プロ野球選手になる!」という太田の夢が再び燃焼するが──。

<プロフィール>
横山雄二(よこやま・ゆうじ)●1967年宮崎県生まれ。1989年にRCC(中国放送)入社。プロ野球などの実況アナとして活躍する一方、自ら企画立案した番組『KEN-JIN』を1997年よりスタートさせる。同番組は横山と猿岩石(当時)を中心としたバラエティ番組で、地元ではいまや伝説的番組となっている。また、映画監督として『浮気なストリッパー』などを制作し、小説『ふるさとは本日も晴天なり』を上梓するなど、局アナウンサーとしての域を超えた活躍を続けている。

<出演番組>
『平成ラヂオバラエティ ごぜん様さま』
広島・RCCラジオ 毎週月~金曜 午前9・00~11・30
出演(月)安仁屋宗八 桑原しおり (火~金)横山雄二 (火)渕上沙紀 (水)中根夕希 (木金)河村綾奈
放送開始から今年2022年8月で5000回、来年3月に満20年を迎える朝の長寿番組。radikoを通じて全国各地からメールが届く。2018年10月放送の「4000回記念大感謝祭」が同年の日本民間放送連盟賞「ラジオ生ワイド番組部門」最優秀賞を受賞。

 

ビートたけしのエッセイ集『午前3時25分』は自身の棺桶に

 

――「感動」という一言で片付けるにはもったいない作品で、パンフレットを読む度に観返したくなる奥深い作品でした。

 

ありがとうございます! 映画をつくるきっかけを作ってくれた加藤(雅也)さんにも感謝です。実は小説も映画も僕が「やりたいです」と言って手を挙げたわけじゃないんです。小説は前作『ふるさとは本日も晴天なり』の時に角川春樹事務所の編集担当の岡濱信之さんに声をかけていただいたのがきっかけ。映画は加藤雅也さんが「やってみたら?」と誘ってくれたことがきっかけです。

 

横山監督の前作『彼女は夢で踊る』(2018年)の公開前のキャンペーンで加藤さんが「第一劇場を題材にもう一本作品を撮ろうよ」と提案したことがきっかけだったそうだ。

――今回の作品でヒモ男を演じている加藤さんの名優ぶりもさることながら、熊切あさ美さんの表情もまた素晴らしいですね。

 

熊切さんがもっている“少し変わった雰囲気”が作品で生きると思ってキャスティングしました。ノッチも同様です。昔の映画って、ノッチのような妙な雰囲気の登場人物もたくさん出てたと思うんです。ふたりとも映画は初出演だから、役者の皆さんと絡むことで良い雰囲気が出るのではないかと思いました。おこがましいかもしれないけど、僕は発掘するのが好きなんです。昔、僕が企画して出演していたテレビ番組『KEN-JIN』(RCC)で、当時仕事が激減していた有吉弘行の新たな面に光を当てたような感じです。

――横山さん扮する那須は加藤さん扮する先輩の大根に憧れていましたが、横山さんは誰の背中を見てきましたか?

 

ビートたけしさんです。僕はたけしさんに憧れて『オールナイトニッポン』を聴いていた宮崎の田舎の高校生でした。テレビ、ラジオ、映画、小説、音楽など全て格好よかったです。『ビートたけしのオールナイトニッポン』を初めて聴いた時の衝撃はすごかったし、『抱いた腰がチャッチャッチャッ』『OK! マリアンヌ』、そして『オールナイトニッポン』のエンディングテーマだった『TAKESHIの、たかをくくろうか』もとても素敵でした。たけしさんにとって初のエッセイ集『午前3時25分』(太田出版)は僕のバイブルで「僕の棺桶に入れてね」と伝えてあります(笑)。高校生の頃に読んでたけしさんの思慮深さを感じて、たけしさんのような大人になりたいと思いました。

ほかに、僕は角川映画が大好きで角川春樹さんにも薬師丸ひろ子さんにも憧れてきました。春樹さんもたけしさんも薬師丸さんも、僕が青春時代に憧れていた人が今も現役バリバリで輝いていることに、うれしさやありがたさを感じます。

少数意見に細かく気を使うことが正義であるかのようになっている状況に疑問

 

横山は9月に2冊目となる小説『アナウンサー辞めます』(ハルキ文庫)を発売。発売直後から話題となり、重版が決定した。横山によると映画『愚か者のブルース』の撮影が終わったのが2020年2月。小説『アナウンサー辞めます』はそれからおよそ半年後の2020年夏に執筆を始めて1年半をかけて書き終えたそうだ。385ページにわたる傑作である。

 

――『ごぜん様さま』『ザ☆横山雄二ショー』を放送しながら、映画や小説も進めるなんて超人技ですね!

新しいことをやればやるほど、また新たにやりたいことが出てくるんです。例えるならボルダリングのようなもの。頭上にある岩を少しでも掴めたら、たとえ落ちても次はいけそうな気がするのと同じです。ただし、登りたいという熱が冷めないうちに次の高さまでいかないと心が燃え尽きます。実際に初めて執筆した小説『ふるさとは本日も晴天なり』(ハルキ文庫)を書き終えたあとの燃え尽きた感じは酷くて、自分でもひくくらいでした(笑)。

 

――『アナウンサー辞めます』の構想は以前からありましたか?

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