孤独って寂しいイメージがあるけど、見方を変えれば唯一無二になる【OMSBインタビュー】

OMSBが前作『ThinkGood』から7年の歳月を経てニューアルバム『ALONE』をリリースした。本作の制作過程でOMSBは結婚して子供ができた。家族、仕事、お金、音楽。多面的な人生をどの角度から捉えるか。成熟したリリシストに今の気持ちを聞いた。

取材&文/宮崎敬太 撮影/横山マサト

 

俺にはトピックになるバックボーンが何もない

 

ーーかなり久しぶりのフルアルバムですね。

『ThinkGood』を出した直後は、すぐ次を作って出すつもりだったんです。けど俺はリリックを書くのに時間がかかるタイプで。

ーー意外です。どんどん書けるのかと思っていました。

全然ですよ(笑)。(リリックの)トピックになるバックボーンが俺には何もないし。肌は黒いけど、昔ヤンチャしてたとか、すごい貧乏だったとかじゃなくて、みんなと同じようにめちゃ普通に生きてきた。じゃあ何を歌うかってなってると、見たくもない自分の内面と向き合って、日常の細かい感情の動きとかを言葉にする必要があって。のめり込む性格だから、その作業は正直しんどいし、時間もかかる。2017年くらいまでは超ライブしてたから、それを自分への言い訳にして作詞を避けてました。

ーービートは制作してたんですか?

ビートは趣味でいつも作ってますね。でもそこから自分の新曲を書いたり誰かに提供するよりは、ライブで古い曲のビートの差し替えに使ったりしてましたね。ずっと同じ曲ばっかやってると「またこの曲やるんだ」って気持ちになっちゃって。

ーー確かにずっと同じ曲を歌っているとフレッシュな気持ちを維持するのは難しそうですね。

ですね。と同時に新曲を歌えない歯痒さもあって。そういうモヤモヤを少しでも緩和したくて、古い曲のビートを差し替えてました。でもライブに来てくれる人たちはオリジナルで聴きたい気持ちもあるじゃないですか。なんかいろいろうまくいってなかったですね。

ーー『ALONE』を作り始めたのはいつ頃?

2018年くらいからちょっとずつって感じですね。

ーー2019年に「波の歌」がシングルで配信されます。

あの頃までは結構ライブやってました。でも新曲を出してないからだんだんお金なくなってちゃって一回サラリーマンになったんですよ。

ーー「Hush」に“履き倒し腐ってる仕事用のスニーカー”というリリックがありましたが、あれはそのサラリーマン時代のことなんですね。

そうなんですよ。でも音楽活動と全然折り合いがつかなくて。ライブの日に休めないとか。けど働かないと金がない。仕事の合間にじわじわ作ってました。転機になったのは一昨年に子供が生まれたことですね。仕事を辞めました。

ーーなぜ?

やっぱ俺は音楽をやりたくて。子供ができたらこれまで以上にお金が必要になるけど、このままお金のために良くないメンタルで仕事を続けてたら、徐々に音楽活動に使える時間が減っていって最終的には音楽活動できなくなってしまう気がしたんですよ。それじゃ本末転倒だなって。甘ったれなのは十分すぎるほど承知してます。でも中途半端にダラダラやってる姿を自分の子供に見せたくなかった。だからもう一度頑張ろうと思いました。(SUMMIT代表の)増田さんとも相談して、一旦ライブをやめて制作に専念しました。

今はQNとも家族ぐるみで仲良し

 

ーー言い訳できない状況に自分で自分を追い込んだ。

かっこよく言えばそうですね(笑)。でも実際仕事も全然上手くいかなかったし。

ーー作詞のクレジットが加藤ブランドンとOMSBに分かれています。

加藤ブランドンが素の俺で、OMSBはラッパーの俺ってイメージですね。このアイデアは「Stand alone|Stallone」を作ってるときに思い浮かびました。3年半前くらいかな。OMSBの俺は露悪的で、1stアルバム『Mr.〝All Bad〟Jordan』に近い。2nd『Think Good』はその1stの反動で作りました。どっちかというと加藤ブランドンに近い。どっちも俺なんですよね。そこの折り合いをつけるためにこの曲を書きました。

ーータイトルにシルヴェスタ・スタローン(Stallone)を入れたのはなぜですか?

作ってて『ロッキー』(映画)みたいな曲だなと思ったんですよ。Stand alone(スタンド・アローン)とStallone(スタローン)って響きが似てるし。タイトルが浮かんだときは、失笑しましたけど(笑)。

ーーOMSBのヴァースでアルバムが終わるのは何を意味しているのでしょうか?

俺としては常に抗っていたい気持ちがある。俺は俺だけど、OMSBでもいたい。OMSBとして過去に言ったことの中には、今はもう共感できないこともある。でも1stを出したあの頃はOMSBのスタンスでいないと自分を保っていられなかった。大人になってきたら、今度は素の自分がOMSBについていけなくて。この曲を作ってた頃は、人生もうまくいってなかったから自信をなくしてました。そういう意味では、この曲は俺にとっての『ロッキー』であり『ファイト・クラブ』でもあるんです。

ーー『Mr.〝All Bad〟Jordan』は10年前の作品ですしね。そういえば今作の収録曲「Season」でSIMI LABから脱退したQNさんをネームドロップしてたのはファンとして嬉しかったですね。

もうそんな経つのか……。今はQNと仲良しですよ。家が近くて嫁さん同士も仲良い。一緒にBBQしたり、子供ともよく遊んでくれます。

以前はラップ書くのが全然楽しくなかった

 

ーー僕は『Mr.〝All Bad〟Jordan』から聴いてるせいか、今回の『ALONE』でOMSBさんがものすごく成熟されたように感じました。前作『Think Good』は自分の中にあるネガティブな思考からいかに抜け出すかを描いていました。個人的には自己の内面の葛藤をエモーショナルに描写した前作のリリックが大好きだったので、今作の1曲目「祈り|Welcome Back」でいきなり「あぁ 幸せなときも筆は進むもんだなあ」と歌っていたことにものすごく驚いたんです。

「祈り」は歌詞のまんまなんですよ。これまではカッコいいビートができて、テンション上がって「歌詞書こう」となることはあったんですけど、そこから歌詞もどんどん頭に浮かぶことはなかったんですよ。むしろ精神的に辛い時に筆が進んでました。だから「祈り」を書いている時は、「うぉぉぉ! なんだこりゃ!」って状態だったんです(笑)。俺がラップに興味でてきたのって、「祈り」ができてちょっと経ってからなんですよね。

ーーえ、そうなんですか?

はい。以前はラップ書くの全然楽しくなかった。自分が好きなラッパーのフロウをイメージして、それを頭の中でぐちゃぐちゃにした状態で作ってました。ジェンガみたいな感じ。スキルもへったくれもないというか。息継ぎの場所とかも全然わかってなくて。だからライブで体力的にやたらしんどくなっちゃう曲がたくさんあったんですよ。「祈り」以降、いろんなラッパーたちがどういう部分でリズムを取ってるかとか、細かいスキルを意識するようになりましたね。

ーーそういえば、OMSBさんが自宅でラップも録れるようになったのは結構最近なんですよね。

去年(2021年)の頭です。それまでは近所に住んでるHi’Specの家で録ってました。でもいくら仲が良いとはいえ、あいつにもあいつの時間があるし、お互い大人だし、さすがに迷惑じゃないですか。ビートメイクする機材は自宅にあったんですけど、ラップが苦手というのもあって、ヴォーカルのレコーディング環境はずっとなかったんです。ちなみに「祈り」のデモを録った時は、まだ自宅にレコーディング用のマイクがなかったので、マックのマイクにエアーで吹き込みました。音質は最悪だけどそのバージョンもエモくていいですよ(笑)。

ーー今作は感情表現の幅がものすごく広がった気がします。

感情表現に関しては、本を読んだのが大きいかもしれないです。きっかけは映画監督の三宅唱さんですね。『Think Good』を出した後、俺がレコード屋で働いてたんですよ。三宅さんはレコード屋の近所に住んでたから「お昼でも一緒に食べようよ」ってよく誘ってくれて。ある日「オムスは本読まないと思うけどよかったら」って『水の中の犬』(木内一裕 著/講談社)という本をプレゼントしてくれたんです。友達が貸してくれた本って嬉しいじゃないですか。それで読んでみたら読書にすごいハマっちゃって。自分と重ねて読んじゃうことも多くて、そこから自分が何を感じて、何を考えてたか理解していった面はかなりありましたね。それが歌詞に出たんだと思います。

ーーあと驚いたのは、小袋成彬さんがコーラスで参加してる「One Room」です。OMSBさんがあんな赤裸々なラブソングを歌ったことが衝撃で。まず小袋さんが参加した経緯を教えてください。

小袋くんと初めて出会ったのは、BIMが1stアルバムのリリパをやった後だから2018年くらい。どっかで軽く挨拶したことあって、(恵比寿の)Baticaでも声をかけてくれたんですよ。そのときに、「ファンなんで、いつかコーラスでいいから使ってください」って気さくに言ってくれて。今回のアルバムは1曲目の「祈り」と最後の「Stand alone」が結構前にできてて、あとは中身を作っていくような作業でした。『ALONE』ってタイトルも決まってて、客演も呼ばないつもりだったんですけど、コーラスならありかな、と。俺も小袋くんの大ファンなので、どっかで一緒にやりたくてじわじわ考えて、ようやくお願いできた感じですね。

ーー今作はお子さんができたこと、さらに奥様の存在がものすごく大きく影響しているような気がしました。

それはあるかも。「One Room」は嫁さんのためだけに書いた曲ですし。嫁さんも小袋くんがめちゃくちゃ好きなんです。そういう意味でもこの曲は小袋くんしかいないな、と。

ーー「同じとこで笑い 同じ歌の同じ歌詞で泣いたり具合悪いと心配 当たり前」というラインもありましたね。

これも実話なんですよ。嫁さんと一緒にカラオケ行って、俺が幽遊白書のエンディングの「さよならbye bye」を歌ったんです。この曲は最後まで歌うと歌詞の意味がわかるんですね。ものすごく良い曲なんですよ。俺、歌ってて自分で涙ぐんじゃったんです。そしたら嫁さんも泣いてたっていう。リー・シャウロンさんはマジですごいリリシストなんです。俺、アニソンのことは全然知らないけどこの曲は別格。みんなにもまじで聴いてもらいたいです。

ラッパー・OMSBと素の加藤ブランドン

 

ーー「世の中とのワレメそれが俺で/それに救われた俺がいるわけで」(「Season2」)に代表されるように、本作はステレオタイプな日常から理想や現実を語るのではなく、あくまでOMSBさんから見える世界をしっかりと言語化し、それが常識では割り切れないグレーであってもしっかり受け入れて向き合って自分なりの生き方を見出そうとしているように感じました。

さっきの流れで言うと素の俺じゃそのリリックは言えないんですよね。「でかすぎねえ?」みたいな(笑)。そういうのをOMSBに託しちゃった。今の俺に近いのはブランドンのリリック。で、質問に答えると、今までもずっと白黒つかない部分に言及し続けていたんです。でも伝わってない気がしてたから、今回はアートワークを含めてかなりわかりやすく作る意識をしました。

ーージャケットのイラストは浅野忠信さんでアートワークはおなじみMA1LLさん。

浅野さんは俺が去年SUMMITのクルーとしてSIMI LABでFUJI ROCK FESTIVALに出たステージを見てくれて、Twitterでフォローしていただいてたんです。浅野さんはインスタもやってたので、Twitterの流れから見てみたらヤバいイラストをたくさん載せてて。アルバムのジャケを浅野さんにお願いしたらヤバいかもと思ってお願いしてみたら快く引き受けてくれました。オファーを出した際に「(ライブが)よかったのでフォローしました」と返事をくれたんです。めちゃ嬉しかった。

ーー顔面が上下でズレてるアイデアも浅野さんから?

そこは俺で。全体の質感や色味はMA1LLがやってくれました。めちゃ気に入ってます。2人とも神です(笑)。

ーー『ALONE』というアルバムの中に「大衆」という曲があって、サビで「仲間外れじゃなくてそこに居なかっただけ。だろ?」と歌っているのが今回のコアのように感じました。

漠然とずっとライブをしてた頃、トラック提供も客演もたまにしかなくて、SIMI LABも動いてない。なんか孤独だったんですよ。メジャーからもアングラからも相手にされないっていうか。でも中々そうなるって難しいし、唯一無二とも言える。それをテーマにしたら思いつくアイデアも沢山あるかなと思いました。『ALONE』って言葉には寂しいイメージがあるけど、誰かといても寂しいときはあって逆もまた然りだから。

ーー「大衆」はどのように書いたんですか?

去年、家族で旅行したんです。そのタイミングでツボイ(The Anticipation Illicit Tsuboi)さんにお願いしてたビートが送られてきて。この頃はほとんどアルバムの曲が出揃ってて、リリックも進むようになったし、あまり書き進めることに億劫にもなりませんでした。で、帰りの車に乗ってるときにビートを聴いたんですね。奥さんと子供と一緒にいて、旅行の帰りで、なんか超幸せで。その状況にA.K.I.PRODUCTIONSの「お前も今日から大衆だ」という曲がバッと思い出されて。内容は多少違うんですけど。

ーーツボイさん在籍時の年に発表された伝説的アルバム『JAPANESEPSYCHO』の収録曲だ!

ですです。「これだ」と思って。自分の半生を交えてうまくまとめたら絶対にヤバくなると思いました。ツボイさんの提案で(OKAMOTO’Sの)ハマちゃんに弾いてもらって。リリックのイメージがパッと浮かぶことってこれまで一回もなかったんですよ。モヤモヤを徐々に形にする感じだったから。絶対に良い曲にしたかった。完成したとき「天才かも」って思いました(笑)。

ーーOMSBさんにとってツボイさんはどんな存在ですか?

ツボイさんは母ちゃん以外で初めて尊敬した人。昔の俺は謎にツンケンしてて、母ちゃん以外に尊敬する人間は必要ないと思ってたんですよ。でもツボイさんは別格ですね。俺、1stアルバムを作っていた頃、結構辛い時期だったんですよ。QNがSIMI LABから辞めたりとか。一通りアルバムのミックスが終わってマスター前の音源をスタジオから帰る電車の中で通して聴いて、家に着く頃に聴き終わったんですが、そのときにここまでやってくれたんだと、泣きました。ミックスって制作の中では目立ちづらいポジションだと思う。ミキシング自体が専門的な作業だし、ミックスエンジニアがどこをどう触ってどうなったかなんて、ずっとレコーディングに立ち会ってないとわからない。なのにツボイさんは俺よりも俺のアルバムのことを考えてくれてた。そのことに心から感動して。ツボイさんは母ちゃんと同じレベルでリスペクトしてます。

ーー「Kingdom(Homeless)」のアウトロには増田さんとの寸劇も入ってましたね。OMSBさんにとって増田さんはどんな存在ですか?

増田さんは(「あしたのジョー」の)丹下段平(笑)。昔はいろいろ指摘されたり、提案されても全部突っぱねて押し通してたけど、今回は増田さんの意見を聞いてかなり練り直しました。たまーに「何も思わなかったです」と言われて凹んだり。

ーー確かにアウトロでも結構厳しい意見を言ってますもんね。

一番大変だったのは「OMSBから君へ」ですね。この曲はサラリーマンやってた頃に作ったんですよ。この曲はなかなか増田さんのOKが出なかったですね。めちゃくちゃ何度も直しました。仕事でボロボロになって帰ってきてあれこれ直して。レコーディングの直前になんとかこの形に落ち着きました。ハッキリ言ってこてんぱんでしたね(笑)。

ーーそんな苦労もあってか、今回のアルバムはOMSBさんのキャリア的にも重要な一作になったと思います。

そうなるといいですけどね。ただ最近は昔と違ってリリックを書くのが楽しいんです。トラックはあいかわらずずっと作ってるので、これからはペース上げて自分が納得出来る音楽を作り続けていたいと思っています。もっと頑張っていきたいです。

<infomation>

OMSB

『ALONE』(SUMMIT, Inc.)

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 OMSB●2010年から自身も所属するグループSIMI LABとして活動を開始。グループとして2枚のアルバムをリリースし、2012年にソロとしての1st Album「Mr. “All Bad” Jordan」、2015年には2nd Albumとなる「Think Good」を発表。プロデューサーとしても多数のトラックプロデュースを行ない、2019年に新機軸となる「波の歌」を発表。2021年にアニメ作品「オッドタクシー」の劇伴音楽をPUNPEE、VaVaと共に担当。同作品は世界的に評価され、Anime Awards Brazilにて「BEST O.S.T賞」を受賞した。近年ではPUNPEEのシングル「Life Goes On(あんじょうやっとります。)feat. OMSB」や、ASIAN KANG-FU GENERATIONのニューアルバムに収録の「星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)」などにもフィーチャリングゲストとして参加している。

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