役柄と共演者との関係、そして頼家を演じての思いとは。源頼家役・金子大地インタビュー【『鎌倉殿の13人』不定期連載第7回】

源頼家(金子大地)が可哀想過ぎる! 

初代鎌倉殿・源頼朝(大泉洋)が突然亡くなったあと、若くして二代目鎌倉殿になった頼家。ざっくりした史実的なものからは、リーダーたる資質にいささか欠ける人物なのかなとイメージしていたが、『鎌倉殿の13人』では、いろいろうまくいかないのも無理はないと同情の余地がある。

上に立つ能力がないわけではなくて、サポートしてくれる人がいない。サポートという名目で反対ばかりして、彼の可能性に気づいて伸ばしてあげる人がいない状況には、気の毒になるばかり。最たる例が、タイトルにもなっている13人の御家人たち。この人たちの一部――主に北条家と比企家が自分たちに有利になるように画策していて、頼家はスポイルされている。頼家が唯一、残念なところといえば、女性問題くらいだろう。なぜか、ここだけ父を見倣ってしまっている。見倣うべきは、人たらし能力であったのに。

曲者たちに囲まれながら、徐々に成長しはじめた矢先、病に倒れる頼家。寝ている間に、政子(小池栄子)たちによって頭を剃られてしまうは、妻や子のいる比企家を滅ぼされてしまうは、孤立無援。頼家の眼からあふれる涙の分量は多く、それが清らか過ぎて、哀れを誘う。

政子のことも徹底拒絶した第32回を経て、どうなる第33回(8月28日放送)。今回、頼家を演じた金子大地さんに取材した。金子さんは、リモートながら、カメラをじっと見つめ、相手の質問に耳を傾ける真摯さ、聡明さのあるかたでした。

取材・文/木俣冬 写真提供/NHK

プロフィール>
きまた・ふゆ●東京都生まれ。著書に「みんなの朝ドラ」、「挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ」など。「連続テレビ小説 なつぞら」、「コンフィデンスマンJP」などノベライズも多く執筆。そのほか「蜷川幸雄 身体的物語論」「庵野秀明のフタリシバイ」の構成も手掛ける。WEBサイト「エキレビ!」で「毎日朝ドラレビュー」連載中。

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奇跡的に病状が回復したら、頭を剃られ、身内はいない。このときの気持ちを金子さんは、「絶望。怒りなのかよくわからない、頭が真っ白になるような、言葉では表し難い感情……絶望と怒りと悲しみでした」と言う。

 

頼家のまわりの人たちは皆、一応、心配しているような顔をしている。彼らを前に、この絶望的な状況に自分を追いやったのは誰だと頼家は考えたと思うか、金子さんに聞いてみた。全員敵か、それとも、誰かひとりに絞るのか――。

 

「怒りや裏切られたという気持ちを一番強く感じるのは、相手を信頼しようと思っていたからこそ。信頼が強ければ強いほど裏切られたときの怒りや絶望が強くなると思います。そうすると、やっぱり北条に対して怒りや裏切られた気持ちが強くなります。とくに義時は心のお兄ちゃんみたいな存在だったし、どこかで、父までとは言わないけれど、それに近い存在のように、いつも何かと支えてくれた人だったから、それがどうやら、隠れていろいろやっているのではないかという、疑いや怒りを感じていたのかなという気がします」

 

やっぱり問題の中心は北条義時。誰もがそう思うわけだが、物語のなかでは、義時は率先して他者を陥れている雰囲気はない。いつも他者に心を寄せ、できるだけ穏便に物事を進めようとしてきた義時。でもその都度、結果的に北条家が有利になる。序盤は偶然、そうなったように見えることが多く、不器用であると同時に、ある意味、“持っている”人なのかもと思えた。ところが第32回になると、ついに北条家のために魂を売ってしまった感じになる。頼家の子・一幡の命を奪おうとするときの非情さ。あの善児(梶原善)のほうが善人に見えてしまうほどだ。善とか悪とか問わず、立場によって役割が変わっていく無常感を突きつけられた思いがした。

義時自身は敵に回すと危険な人物だが、演じている小栗旬さんには、金子さんは感謝を述べる。

 

「小栗さんの存在は僕のなかで大きかったです。リハーサルをやったあと、全然できなかったなと思い、どこか自信をなくしていたときがあったんです。そしたら小栗さんがご飯につれていってくださって、『大地、好きなようにやっていいよ』と言ってくれたんです。僕が自信なさそうにしていたことに小栗さんが気づいて、さりげなく誘ってくれたのかなと思うと、すごくすてきな人だなと思いました。そのとき言われたのは『自信をもって好きにやればいいし、本番で自分の芝居に満足がいかなくて、でも現場で言いづらかったら、俺に言ってくれたら、『いまのもう一回やりませんか、と言うから。とにかく、なんでも言ってくれ』と。すごく優しくて嬉しくて。『俺が嫌われ者になってもいいから、現場止めてでも言うから、大地が満足できるようにやればいいよ』と言っていただけたことでちょっと吹っ切れて、自信をもってやろう、義時との芝居場ではもっとぶつかっていこうと思いました。お芝居中も『大地、このセリフ、俺がどう言えば言いやすい?』とか常に僕の立場に立って考えてくれるんです。決して押しつけがましくなく、僕のやりやすさ優先で一緒になって考えてくれた愛のある人。主演で大変なのにもかかわらず、僕に時間を割いてくれるなんてかっこいいなと思いました」

 

義時が北条家のために他者を損なっていくことに対して、演じる小栗さんは真逆。他者のために動いているようだ。そういえば、『プロフェッショナル仕事の流儀 小栗旬スペシャル』でもディレクターの話に耳を傾け、ディレクター優先で取材を進めているように見えた。義時と小栗さんが似ていると思えるとしたら、たぶん、小栗さんはいいドラマを作ることを目的として動いているのだろうということだろう。自分だけよくてもドラマは成り立たない。みんながいい芝居をする。『鎌倉殿〜』はそういうふうになっていると思う。

 

さて、いい先輩に出会った金子さん。俳優には、孤立した役をやるにあたって、共演者と距離をとるようなアプローチをすることもあるが、金子さんは、このように小栗さんとコミュニケーションをとっている。

「途中参加だったので緊張していたんですが、みなさん、あたたかいムードで迎えてくださって、緊張をほぐしてくださったので、とてもやりやすかったです」

 

そう語る金子さんだが、第32回の政子とのシーンでは、小池栄子さんとあまり会話はしなかったと言う。

「政子――母上と一緒のシーンは実はそんなになくて。第32回で政子に『出て行け!』と激昂するシーンでようやくちゃんとぶつかった。とても大事なシーンだったので、メンタルはとても削られました。心の内に溜まっていた、怒りとか憎しみとか絶望よりも重い悲しみみたいなものが爆発するような感じで、きつかったです。小池さんともそれまではふつうに会話していましたが、あのシーンを撮る前は、あまり会話はしなかったのを覚えています。少し意識的に距離をとっていたような気がします。撮影が終わってからは話すようになりましたが、小池さんもあのシーンは辛いシーンだったと思います」

 

実の母ながら、幼少時は乳母(比企能員の妻・道〈堀内敬子〉)に育てられ、どこか距離のあった頼家と政子。それも悲劇の要因のひとつである。

 

「頼家は政子にほんとはもっと弱音を聞いてほしかったんじゃないかなと思うんです。でもそんなことは言えない。もっとたくましい姿を母上に見せたい気持ちもあるだろうし、母が北条の人だという距離感もあって、複雑な思いを頼家は抱いていたと思います。だから小池栄子さんとのシーンは毎回、緊張しました」

 

聞けば聞くほど、頼家が可哀想になってしまう。

 

「ひとりで蹴鞠しているシーンは頼家を知るきっかけになりました。誰を信頼できるかわからないとき、大人たちに囲まれてパンクしそうなとき、蹴鞠で紛らわせようとしていたのか。あるいは父が得意だった蹴鞠を父から教わったことがないというのも頼家には思うところがあったのではないでしょうか。撮影にあたって蹴鞠は1週間くらい、練習しました」

 

ひとりで鞠を蹴っているときの頼家、本当に寂しそうだった。

大河ドラマという大舞台で、孤独との闘いだった頼家を演じて、精神的に大変そうだった金子さん。父・頼朝役の大泉洋さんとの関係は、義時とも政子ともちょっと違ったようだ。

「大泉さんがクランクアップしたあとでお会いする機会があって『ちょっと死ぬのが早すぎます』と僕が言ったら、『幽霊として出て助言したい』と言ってくださいました(笑)。撮影時は演技の相談はできなかったんです。でもそれは頼家も父には相談できなかったと思うからで、僕もひとりで考えました」

 

役によって共演者との距離感も繊細に変えていく金子さん。彼が懸命に取り組んだ源頼家は私たちの心に鮮烈に残るだろう。

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