ニューアルバム『neon』をリリースするiri。話題になった「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスについてや、最近触れたカルチャー作品についても話してもらった。
取材&文/小林千絵 撮影/飯田エリカ
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──「THE FIRST TAKE」での「Wonderland」と「摩天楼」のパフォーマンス、楽しそうで、すごく素敵でした。「THE FIRST TAKE」出演はいかがでしたか?
楽しかったです。「THE FIRST TAKE」には“歌のうまさを見せる”みたいな印象があったのですが、私は違うアプローチで見せられたらいいなと思っていて。自分があの場を楽しんで、見ている人にも楽しんでもらえる映像にできたらと思っていたんです。だったらこれまで一緒にやったことのない方とセッションするのはどうかなって。
──「Wonderland」ではMPC GIRL USAGIさん、「摩天楼」ではYaffleさんとのセッションでしたね。
はい。USAGIちゃんとは面識はなかったのですが、いつか一緒にやってみたいと思っていたので、「ここだ!」と思って。Yaffleくんは、曲は一緒に作っていますけど、パフォーマンスを一緒にやったことがなくて。どっちもすごく新鮮で楽しかったですね。「THE FIRST TAKE」で初めて私の音楽に触れる人はもちろんですが、いつも私の曲を聴いてくれている人やライブに来てくれる人にとっても新鮮なものが見せられたらと思っていたので、実現できてよかったです。
──ここからは「摩天楼」も収録されたアルバム『neon』について聴かせてください。フルアルバムとしては『Sparkle』以来となりますが、『Sparkle』(2020年3月発売)とはまたガラリと雰囲気が変わりました。制作時にアルバムの構想や全体像のイメージはあったのでしょうか?
既存の曲として「渦」「言えない」「はじまりの日」が入ることは決まっていて。その中から、「渦」を起点にYaffleくんのミックスで頭の4曲をつなげようというのがスタートラインでした。
──「渦」を起点に4曲つなげようというアイデアはどこから?
それこそ「渦」を作ったときだったかな、Yaffleくんと「4曲くらいを組曲みたいにしたら面白そうだよね」という話をしていて。これまで、アルバム全体を通して物語を作っていくというような作り方はしたことがなかったんです。「この曲の次にこういう曲があったら面白そうだな」っていうDJ的な作り方だったので。だから今回、物語としての流れを作っていったのは面白かったですね。冒頭4曲は「渦」を作ったときの前後の気持ちを曲にしていて。コロナ禍で、世の中が迷走しているように感じていたんですが、その感じをYaffleくんも同じミュージシャンとして感じ取ってくれていたんじゃないかな。自分が想像していたものをYaffleくんが明確にサウンドに落とし込んでくれた感じがしました。
──“こういう状況だからこそ明るい曲を歌う”という考え方もあると思うのですが、頭の4曲は特にダウナーな雰囲気ですね。
たぶん無理して明るい曲を書いても「よかった」と思えない気がするんですよね。私の場合、そのときの心情やテンションが、曲やメロディ、歌詞に反映されてしまうんです。良い意味でも悪い意味でも。そのときの自分から自然に出来上がったものを世の中に出すというのが普通のこと。だから今作は「iriちゃん、すごい落ち込んでるな」と感じて聴きづらい人もいるかもしれないですけど、無理して逆らう必要はないのかなと思います。2019年に出した『Shade』というアルバムもわりとテンション低めの作品ですが、自分では気に入っていますし。
──今作でも、5曲目「目覚め」以降は混沌とした雰囲気から抜け出していきますしね。
はい。「目覚め」から現実や日常に戻っていく感じです。それこそ前半がヘビーな分、後半は少しライトというか、肩の力を抜いて聴けるものを作ろうというのは意識しましたね。
──7曲目にはiriさんのファンの愛称「Waver」をタイトルにした楽曲が入っています。サウンドとしてもさまざまな楽器が入っていて楽しい1曲です。
最初からWaverのことを歌おうと思って作ったわけではなかったんです。この曲はTAARくんとshinくん(Shin Sakiura)と一緒に作ったんですけど、「こういうのどう?」ってなんとなく出来上がったものが、海っぽいラテンのノリだったんです。その雰囲気を感じているうちに「Waverのみんなのことを歌おう」と思いついて。
──iriさんにとって“Waver”やファンはどんな存在ですか?
私、ファンの人の顔や名前を覚えていて。みんな毎日のように私や私の音楽についてSNSに投稿してくれるんですよ。それってすごく幸せなことだと思う。毎日私のことを思って、私の曲を聞いてくれて、それを励みに仕事をがんばったと言ってくれて。そういう言葉をもらえると「この作品作ってよかったな」「ツアー、こういうふうに工夫してよかったな」「音楽やっててよかったな」と思えます。そんなみんなと一緒にみんなと一緒に踊れる曲にしたいなと思って「Waver」を作りました。
──11曲目「baton」は柔らかなバラードで、それこそ前半とはずいぶん趣きの違う曲になりましたね。
この曲は両親に書いたものです。今まで書いたことのなかった両親への思いを綴りました。
──どんなご両親なんですか?
すごく温かいです。今もこまめに連絡も取りますし、ちょうど曲を作っているタイミングで実際に接する機会も多かったので、そこで抱いた感情も書きました。両親が今まで自分にしてくれたことを一つひとつ思い出しながら書いたので、改めて自分は愛されているなと感じました。
──図らずも、お話を聞いた2曲がいずれも大切な人に向けた楽曲でしたね。「はじまりの日」や「渦」を作ったときはネガティブになっていたと他のインタビューなどでもおっしゃっていましたが、『neon』制作時期のiriさんのモードはどのようなものだったのでしょうか?
自分でもよくわかっていなかったんだと思います。作っているときにはわからなかったけど、改めてアルバムを通して聞くと、喜怒哀楽の波がすごく激しくて。あっちいったり、こっちいったり。
──その感情の起伏はすごくリアルで、人間みがありますよね。
そうですね。自分でもそれが面白いかなとは思っています。ファンの人たちがどう受け取ってくれるかはわからないですけど、良いように伝わるといいなと思っています。
──そんなアルバムに『neon』と冠した理由を教えてください。
「渦」は宇宙のことを想像して書いた曲だし、「摩天楼」もキラキラした夜景が思い浮かぶという点で、“光”のようなものがイメージとしてある曲が多いなというのが一つ。それと……今の自分は蛹の状態だと思っていて。いろいろなものを蓄えている状態、吸収している状態で、これから蝶になっていく。そんな蛹の状態での自然発光、自然の中から生まれた“neon”というのもイメージしています。実はジャケットも蛹をイメージしているんです。このニットの衣装も、私のイメージをもとにオーダーメイドで作ってもらったものです。髪の毛まですっぽり入るようにしたかったのでフードも付けてもらって。持っているくまのぬいぐるみは、私がぬいぐるみが好きだから(笑)。
──5周年を迎えて『neon』をリリースしたiriさんは、この先、蝶として羽ばたいていくというわけですね。
そうなったらいいなと。
──最後に音楽以外のお話も。ドキュメンタリー映画好きのiriさんですが、最近特に印象的だったものがあれば教えてください。
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』。1969年にニューヨークのハーレムで開催されたフェス「ハーレム・カルチャラル・フェスティバル」を題材にしたドキュメンタリーです。自分のルーツはソウルやヒップホップ、ラテンなど、いわゆるブラックミュージックなんですが、それぞれが別物だと思っていて。つながりがわからなかったんです。でもこの映画を観て、それこそ別々だと思っていたジャンルのアーティストさんたちが一つのステージに一緒に立っていて。ああ、つながっていたんだなというのをすごく感じましたし、改めて自分はブラックミュージックが好きだなと思いました。見てよかった作品です。
iri●地元のJAZZ BARで弾き語りのライブ活動を始め、2014年ファッション誌NYLON JAPANとSony Musicが開催したオーディションでグランプリを獲得する。HIP HOP/R&Bマナーのビートとアップリフティングなダンストラックの上をシームレスに歌いこなすシンガーソングライター。2016年ビクターよりメジャーデビューし、iTunes Storeでトップ10入り、ヒップホップ/ラップチャートでは1位を獲得。翌年にはNikeのキャンペーンソングを手掛け話題となる。ChloeやVALENTINO等ハイブランドのパーティーでライブするなど多方面から注目される新進女性アーティスト。近年フランスのフェスや中国でツアーを開催するなど海外でのライブも出演。2021年4月から全国8か所で開催されるライブハウスツアー”iri Spring Tour 2021”が先日発表された。
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