ゆっきゅんインタビュー「ぐぁんぶぁるずぉぉぉ!!!」というのを40回くらい重ねて完成したアルバムです

連載「人生の走馬灯に大型新人」でもおなじみのDIVAゆっきゅんがニューアルバム『生まれ変わらないあなたを』をリリース。20代のきらめきや焦燥感が詰まった本作について聞いた。

取材&文/南波一海 撮影/佐野円香

 

●誰に何を頼むにしても、頼り切りになるのではなくて、自分がちゃんとしないと意味ないなと思ったんですよね

 

――今回のアルバム『生まれ変わらないあなたを』の特設サイトがとてもおもしろくて、改めて何を訊けばいいのかと少し迷いました。ファンが自由に感想を書ける掲示板も最高で。

 

この歌がなぜ自分にとって大切なのか、みたいなことをみんなが書いてくれていて。リリース前に全曲試聴会をやったんですけど、そのときに「感想をどこに送ったらいいですか」と聞かれたので、DMでもらったんですけど、長文で感想を送ってくれたのが嬉しくて。みんな文才豊かなので、これはもったいないかもと思って、掲示板を作ろうと。YouTubeのコメント欄だとMVがある曲だけになっちゃうし、Twitter(X)だと文字数に限界があるし、私のファンは拡散して知ってもらおうと頑張るタイプでもないので、掲示板という形がちょうどよかったみたいです。

 

――各曲のライナーノーツを見ると、映画からインスピレーションを受けることが多いのかなと感じます。1曲目の「ログアウト・ボーナス」から映画のタイトルが次々と出てきます。

 

孤独な女性がひとりでトボトボ歩いてる感じのロードムーヴィーみたいなものが自分のなかで流行っていたというか、そういう曲を歌いたいなと思ったんです。アニエス・ヴァルダ『冬の旅』とか……あれはちょっと暗すぎるけど、『WANDA/ワンダ』とか。ケリー・ライカートの『リバー・オブ・グラス』は後で見たけど、そういうのを書きたいなと。

 

――2022〜23年あたりのムードですよね。

 

その頃に考えていたことが曲になっていることが多いですね。1st(『DIVA YOU』)とかEP『YETA』のときは、それまでに思っていたことだったり、常にある自分の考えだったりが作詞に表れていたと思うんです。

 

――初作はそれまでの人生の蓄積が表出するものだとよく言いますよね。

 

私も1stを出してすぐにアイデアがあったわけではなくて、結構、時間が空いたんですよね。どうだったかな……去年の秋頃までのことをあまり覚えてないんです。夏が終わって、絶対に年内に新曲を出したいと思って、なんとか「年一」を出したんですね。そのあたりから2ndアルバムのことを考え始めたので、記憶があるのは去年の秋から(笑)。ただ、次のアルバムは、この狭くて散らかった部屋で書きたくないなと思って、1曲分の予算を削って引っ越ししたんです。

――それはすごくいい判断! 実際、作品の雰囲気も変わったと思います。1stの頃は「ワンルーム・ディーバ」と謳っていましたが、今作は新たなミュージシャンとの出会いもあり、音楽的にも外に開けていったような印象を受けました。

 

『YETA』を作ったときに、セルフ・ディレクションで音楽制作をする限界を感じていたんです。音楽的なことがわからないから、これ以上はうまくできないかもって。だから誰かにお願いしたかったんですけど、でも結局、誰に何を頼むにしても、頼り切りになるのではなくて、自分がちゃんとしないと意味ないなと思ったんですよね。頼りないんですけど、私が作るんだと。それで……同世代の友達と最高の仕事をすると決意を固めて、そんなときに今回のアルバムの制作陣も次々と私の前に現れてくれて。

 

――なんと!

 

いや、気を使わないで対等なやりとりができる人と音楽を作るということですかね。私は、自分の人生を一生懸命生きて、自分でひとつずつ選んで決めたものをお見せしている。そのさまにファンの人はなんらかの力を受け取ってくれるものだから、私が誰かの言うことを聞いていたら、それはDIVAプロジェクトじゃないんですよ。だから、誰の言うことも聞かずにアルバムを作ろうと思いました。それと、1stに入らないような曲でやりたかったんです。去年の秋頃、えんぷていの奥中(康一郎)くんから「ログアウト・ボーナス」の最初のデモが届いたときに、これは大事な曲だなと思って。この曲はバンド・レコーディングしたんですけど、当時はバンドで録音するなんて考えられなかったし、お金もないし、誰に頼んだらいいのかもわからなかったんですけど、やりたい方向性が見えました。そこからはこういうアルバムにしようというのが少しずつ固まっていきました。作る人は誰でもそうだとは思うんですけど、絶対にいいアルバムを作りたいという強い気持ちがあったんです。名盤を作りたかった。「年一」は、まだ全体が見える前にできた曲ですけど、歌詞の書きかたとしてはすでに変化があったんですよね。

●もっといろんな人のことを歌いたいという気持ちが出てきていたんです

 

――それはどんな変化でしょうか?

 

MVに自分が出ることが想定されていないというか、もっといろんな人のことを歌いたいという気持ちが出てきていたんです。ストーリー・テリング的な歌詞を書きたいなというのが「年一」、「ログアウト・ボーナス」のときからありました。12曲なので12人って言ってますけど、いろんな人のいろんな瞬間を想像して情景を立ち上げていくような、映像的な作り方をしたのはいままでと違うところです。

 

――それが前作以上にオープンだと感じるところかもしれないですね。

 

自分じゃない人を想定しているからですかね。そのぶん、聴く人にとってはこの曲はピンとこないとかもあると思うんですけど、1曲くらい、1行くらいは重なる部分があったらいいなと。共感してもらえるように書くのとはまた違うんですけど、基本的にはたったひとりの誰かの話を書いてます。そうすることによって普遍を獲得するつもりで。

 

――作詞は磨きがかかっていてスキルフルだと感じました。

 

えー! そんな自覚はまったくないです(笑)。私は世俗的なので、見えないものは見てないんですよ。(目の前の飲み物を指して)これを表現しようとしたら、これをまんま書くわけですよ。作詞が安直なんです。単刀直入な感じと言うか。自分にはそういう大胆さがあるとは思うんですけど。

 

――斜に構えず、平易な言葉で、誰も予想つかないことを綴っているんだけど、誰もが納得してしまう内容になっている。それはすごく難しいことだと感じます。

 

ああ、私は斜に構えてないんですよね。というか、構えてもいないんです(笑)。たまたまほかの人が歌ってないことを見逃さなかったり、そこに自分の視点があるというだけで、すごいことをやっているというよりは……ただの隙間産業なんです。だから自分からしたら、高次元なことをやっている人たちに対する申し訳なさが少しあったんですけど、それが去年、なくなったんですよね。

――そうなんですね。

 

例えば専門的な人に対する申し訳なさとか……でも、向こうからすると私のこれはできないので、お互いにいいなと思っている。それに気づけて、自分はこれでやっていくかという状態になれたんです。私はもともと卑屈さに欠ける人間ではありますが、もうちょっと卑屈なほうが売れるのはわかっているんですけど(笑)、こんな感じでやっててすみません、みたいなものが薄れてきたタイミングで、君島(大空)くんとかたくさんのミュージシャンと出会えて、作品作りについて普通に喋ることができたんですよね。そういうことも大きかったと思います。あとは、間に合わないということがなくなりました。レコーディング日程的にもギリギリで、以前だったら間に合わなかったんですけど、今回はなんかできてしまった(笑)。たしか6月くらいに、1週間以内に5曲くらい録らないといけなくてやばかったんですけど、「いつでも会えるよ」が書けたときに、ここから先はいけるなという感覚がありました。ただ、いろんな方法を試して時間を書けて仕上げたものよりも、スムーズに進行した楽曲は耳に入りやすいというのは感じていて。「ログアウト・ボーナス」「幼なじみになりそう!」はすぐに書けた曲なんですけど、それがアルバムの1、2曲目にあるのは導入としていいのかなと思ってます。

 

――歌の進化も著しいと感じました。曲によって発声のアプローチがまったく違いますよね。

 

嬉しいです! それこそ演奏する人たちがスキルフルなので、バンドでワンマンをやるのが決まっていると、ごまかしが効かないじゃないですか。それでボイトレに通ったりしました。今回、歌を頑張りたかったんです。今年はまったく踊ってなくて、新曲に全然振り付けを入れてないことに気づいて、慌てて竹中(夏海)さんに頼んだりしてます(笑)。歌がうまくなりたいというのはもちろん常に思っていることですけど、ある程度の水準までいかないと普通に聴いてもらえないなと思ったんです。いまでも聴いてもらえる層はいるんですけど、それこそまさに開かれた感じにならないというか。いまいるファン以外の人にも届けるためには、技術とか歌唱力がないと話にならないなと思っていたので。

 

●本当に誰の顔色をうかがうこともなかったし、それを意識することもなく作れたんですよね

 

――外への意識の有無が作品を名盤足らしめているのだと思います。

 

でも、いろんなことを思いすぎて忘れた(笑)。あらゆる気持ちが詰まってできたものだから。本当に誰の顔色をうかがうこともなかったし、それを意識することもなく作れたんですよね。作ってるときはとにかく楽しかった。レコーディングのときもみんなが楽しそうだったんです。エンジニアと演奏者だけしかいなかったことも驚かれたんですよね。

 

――大体レーベルや事務所の人がいますよね。

 

そんでパソコンカタカタ打ってるだけでしょ? いるなよ(笑)! でも、3rdで同じことをやるのはきっと無理。誰かに手伝ってもらうことになるだろうと思ったときに、本当にやりたいようにできるのは今回だけかもしれないと思ったので、ストッパーがなくなりました。例えば、私以外に予算管理している人がいたら、こんなにMVを作るはずがないんですよ。

 

――「赤字だから無理です!」となるわけで。

 

そうそう。でも、私はやりました(笑)。制作体制におけるテーマは、広く言って同世代の友人と最高の仕事をするということだったので、それがいい形で実現できて。それはみんなの才能が大きかったんですけど、音楽的な部分だけじゃなくて、私の話を聞いてくれたというのも才能ですよね。私のことを専門的なことがわからない人間として扱う人がひとりもいなかったんです。これはあとから気づいていったことですけど、技術的に長けた若いミュージシャンが、私の影響を受けてくれた。私からしたらそれが不思議だったし、泣けちゃいますよね。この集まりって、要は祭りなんですよ。

 

――祭り!

 

レコーディングであれライブであれ、祭りなんです。例えば、君島くんと一緒に曲を出したけど、今後ユニットを組むとかはないわけで、一度ホームランを打ちましょうという感覚なんです。それはもう祭りですよ。ひと時だけの集まりをみんなで楽しめたのがよかった。このアルバムは20代のことを描き切った感覚があるんですけど、20代なんて、祭りじゃないですか。

 

――そうやって集まった面々で作ったアルバムを締めくくるのが「いつでも会えるよ」というのも素晴らしいですね。

 

すごいですよね。自分でもびっくりしてます(笑)。歌い続けることが前程なので、新鮮さとか発見が常にあってほしいんです。あと、これは山戸結希さんが言っていたことですが、制作の現場で起きている心の震えだったり揺れだったりの感動は受け手にも伝わると思うので、それを信じてテイクを重ねました。アルバムを作るのは、頑張っても無理。「ぐぁんぶぁるずぉぉぉ!!!」というのを40回くらい起こさないと完成しないんです。そうやってできあがったものがまだまだ届いてないという実感もあるので、もっと聴いてもらいたいなと思ってます。

●Infomation●

『生まれ変わらないあなたを』

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●profile●
ゆっきゅん●1995年、岡山県出身。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバー。J-POP歌姫の申し子として2021年にソロ活動「DIVA Project」を始動。WEST.、でんぱ組.incへの作詞提供、映画批評の執筆など活動は多岐に渡る。TV Bros.にて「人生の走馬灯に大型新人」連載中!

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
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