オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、音楽ライター・宮崎敬太のチング(友達)同士による、K-POPをサウンド面から深掘りしていく連載。Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。
「SHOOTING STAR」が高評価の期待のニューカマー・XG、そしてNew Jeans「OMG」MV考察、NCT127の「Ay-Yo」、ボイプラ、BIGBANGの偉大なる功績についてなどなど、たっぷり詰め込みました。
取材&文/宮崎敬太
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目次
ポイントはヒップホップをサンプリングした現代の曲をビートジャックしてるってとこ
ケイタ:今回はXGから。彼女たちのことを全然知らなかったんだけど、去年「GALZ XYPHER」について原稿を書いて欲しいと依頼されて、しっかり観たらすっかり好きになっちゃった。
TVBros.編集部 加藤:かなりチョロいですね(笑)。
ケイタ:結構そういうの多いんですよね、最近(笑)。
レイジ:XGはもともとエイベックスの練習生だったんですよね?
加藤:どの時期から練習生だったかは定かじゃないんですけど、JURINちゃん、HARVEYちゃんはXG以前からモデルとしての活動もしてました。私が前職で在籍していたファッション誌でも、撮影させてもらったことがあります。
[XG TAPE #2] GALZ XYPHER (COCONA, MAYA, HARVEY, JURIN)
ヨージ:(視聴中)これが全員日本人なんだ……。
ケイタ:そうなんだよね。やっぱK-POPの基礎にあるのは練習生期間だと思うの。歌、ダンス、ラップを自在に操れるってのはステージに立つ上での最低条件で、デビューできる子たちはさらに精神力や忍耐力、人間性までも求められる。いつまで日本にいて、いつから韓国で活動してるのかは知らないけど、少なくとも日本の常識内で生きてたティーンエイジャーが、このレベルまでくるのは並大抵のことじゃないと思う。
ヨージ:このビート、元ネタ誰だっけ?
ケイタ:アレサ・フランクリン。同じネタ使いだとDJ プレミアがプロデュースしたMos Defの「Ms. Fat Booty」とか?
レイジ:ですです。で、ビート自体はJIDの「Surround Sound」。「GALZ XYPHER」の面白いポイントはそこだと思う。基本、有名なヒップホップをサンプリングした現代の曲をビートジャックしてる。
ヨージ:日本語と英語と……韓国語でもラップしてるんだ。僕があれこれいうのもアレだけどシンプルに超かっこいいと思う。
レイジ:COCONAには『Show Me The Money』に出てブチかましてほしい。ちなみにXGは最近新曲を出したんだけど、yung xanseiがプロデュースしてる。LAに住んでて。なんかK-POPすごい好きみたい。この前に日本に来てて、俺のDJにも遊びに来てくれたよ。NewJeansをかけたらブチ上がってくれた。でも一番盛り上がってくれたのがRed Velvetの「Bad Boy」で「この人は信用できる」ってなった(笑)。とはいえ、俺もパーソナルデータは全然知らなくて。日本人ではあるっぽいけど歳は知らない。
XG – SHOOTING STAR (Official Music Video)
ケイタ:俺はgottzさんの『SAKURAGAOKA』ってアルバムでyung xanseiの存在を知ったかも。
レイジ:その後「ラップスタア誕生」にもビート提供して。今はいろんなラッパーとやってますよね。
ヨージ:っていうか、すごいベーシックなトラックだね。良い意味でアイドルの曲っぽくない。XGにはまだまだ伸びしろを感じますね。
レイジ:実際みんなまだすごい若いし。COCONAが17歳とか? 一番上でも21〜22。ヨージが好きなカネコアヤノや吉澤嘉代子みたいな味が出てくるのはこれからだよ。
ケイタ:ヨージさんがカネコアヤノを好きなの意外。
ヨージ:大好きですよ。never young beachとかも大好き。でも一番は銀杏BOYZかな。(胸を叩いて)ここから出てくるものを感じたいんですよ。
ケイタ:世代は違うけど俺がイースタンユースを大好きなのと根本は一緒かもね(笑)。話をXGを戻すと、やっぱ「どうやるか」ってのがポイントなんだと思う。まずはしっかりコンセプトを作って、そこにあったメンバーを選んで、曲を作って、歌詞を作って、アートワークのディテールも緻密に作り込んでいく。そうなるとこれまでは多くの場合、コンセプトだけが先走っちゃって、メンバーがついていけないパターンが出てきてた。でも最近の、というかBTS以降のアイドルはコンセプトと実演者の乖離を少なくする方向性にあると思う。そうじゃないとGALZ XYPHERでCOCONAみたいなラップはできない。MAYAもHARVEYもJURINもそれぞれビートのチョイスに個性を感じるし。クオリティを追い求めた結果なのか、アイドル本人のメンタルケアを兼ねてなのかはわからないけどね。とにかくXGはまじで今後が楽しみなチーム。てかまずCDゲットしたい。
XTRA XG #8 ([XG TAPE #2] GALZ XYPHER)
レイジ:買えないんですか?
ケイタ:そうなのよ。オフィシャルサイトでしか売ってなくて速攻ソールドアウトになった。タワレコとかもCDの取り扱いがないのに、XGのコーナーだけはあるっていう超面白い状況になってる(笑)。
“24年越しに完成した「OMG」のMV”という設定
レイジ:作り込みの話で言うと、やっぱ俺はNewJeansに喰らいましたね。ヘスのYouTubeアカウントまで作ってて。
ヨージ:どゆこと?
ケイタ:「Ditto」のMVは2つあってドラマっぽい作りになってるのね。そこにヘスって子が出て来て、NewJeansの5人をビデオカメラでずっと撮影してるって内容なの。詳しい説明はないから俺が読み取れた範囲でストーリーを説明すると、「Ditto」は大人になったヘスがビデオカメラを発見するシーンから始まるのね。そのカメラにはヘスが高校生だった頃に撮った映像が残ってて、それにNewJeansの5人や気になってる男の子とかが映ってる。教室の後ろや屋上、体育館で「Ditto」を踊ったり、購買で焼きそばパン買うシーンとか。それがめっちゃ懐かしい感じなのよ。
NewJeans (뉴진스) ‘Ditto’ Official MV (side A)
NewJeans (뉴진스) ‘Ditto’ Official MV (side B)
加藤:ちなみに「Ditto」のMVでヘスを演じてるのは韓国で話題の若手女優パク・ジフ(ドラマ『シスターズ』の末っ子役)で、彼女が気になってる男の子をこれまた注目の若手俳優のチェ・ヒョヌク(ドラマ『二十五、二十一』のムンジウン役)がやってます。
ケイタ:さらに言うと、「Ditto」のMVではNewJeansのメンバーは実際にいるのかいないのかもわかんない。ヘスの頭の中にだけいるんじゃないか、みたいな見方もできる。で、この物語は「OMG」のMVに繋がってるのよ。
NewJeans (뉴진스) ‘OMG’ Official MV
ヨージ:え、ちょっと待って。まじで情報量多すぎて意味わかんない……。僕、そもそも韓国のこと全然知らないし。
ケイタ:実は韓国のことを知ってても、「Ditto」と「OMG」の設定はよくわかんないんですよ(笑)。
レイジ:おそらくなんですけど、ヘスのアカウントで上がった「OMG」が完成形だと思うんです。
20230204
レイジ:ヘスのアカウントには「19990127」「19990128」「19990129」って短い動画とこの「20230204」の3つだけが上がってるんです。で、よくよく「Ditto」のMVを見直すと、実は曲が始まる前の段階で「OMG」のダンスが出てきてるんですね。
ケイタ:(「Ditto」を見直し中)うわ、ほんとだ……。
レイジ:この映像って「19990127」「19990128」「19990129」のやつじゃないですか。たぶんこの数字はタイムスタンプなんですよ。1999年1月27日、28日、29日って。で、「OMG」のMVの中で、ダニエルが「私たち今ミュージックビデオの撮影中でしょ?」ってシーンがありますよね。意図的に虚実をめちゃくちゃにしてるんです。で、最終的に公開されたのが「20230204」じゃないですか。要は1999年に撮影された映像が、2023年になって24年越しにようやく完成したってことなんだと思うんです。
ケイタ:あー、なるほど。YouTubeでヘスのアカウントを作って、そっちで「OMG」の完成形を公開することで、視聴者である俺らもNewJeansの物語を実際に体験できる仕組みにしたってことか! やばっ。何その設定。
レイジ:ヨージはちんぷんかんだと思うけど、俺、気づいた時にマジで鳥肌たちまくったんですよね。クリストファー・ノーランばりに入り組んだ世界観。それをポップスのMVでやっちゃうのはやばすぎる。
ケイタ:これはこじつけかもしれないけど、さっき俺が言った「コンセプトと実演者の乖離」問題すらも「OMG」のMVのアウトロで決着つけてるもんね。“「Ditto」と「OMG」のストーリーはあなたのために作られたものじゃない”ってことだと思った。
ものすごく狭いターゲットに向けて作られてる
ケイタ:で、こじつけついでに言うと、ちょっと無理矢理かもしれないけど、さっきレイジくんがXGに「味が出てくるのはこれから」って言ったじゃない? 俺、NCT127(イリチル)の「Ay-Yo」のMVを観て、まさに味を感じたんですよ。
NCT 127 엔시티 127 ‘Ay-Yo’ MV
ケイタ:前にヨージさんがスルギのソロのMVを観た時に「人のストーリーありきの音楽だよね」的なことを言ってて。その時かはわかんないけど、レドベルの話の流れでレイジくんは「SMはアイドルを作るプロ」と付け加えてたんだよね。俺は2人の言葉がすごく頭に残ったの。それを踏まえて今回のMVを観たら「アイドルは視覚と聴覚で同時に楽しんでこそ真価を発揮するんだ」と思えた。顔の美しさも才能のひとつだと思うし、MVの動きや表情、衣装の着こなしも含めて、総合芸術として楽しみたい。もちろん美しさのみが指標じゃないことはわかってるけど、最初に衝撃を受けたK-POPが少女時代の「MR.TAXI」とかだから、どうしてもSMのビジュアル感が基準になっちゃう。常に尖ってるというか。
レイジ:ちなみにこのMVでテヨンが被ってるビーニー俺も持ってます。
ケイタ:え、ジェラ……。てかさ、レイジくんのスタイルは結構ガチでK-POPのクリエイティブのリファレンスになってるんじゃないか説はあると思ってる。今回、テヨンはスパイキーヘアもやってるし、NewJeansのうさ耳ビーニーとか。
レイジ:いやーまぁ流石にそれはないと思いますが…(笑)。やっぱイリチル最高だなー。もう笑っちゃいますよね。ジェヒョンかっこよすぎるし。「Ay-Yo」ってフックになる(キャッチーな)部分が一個もない。やっぱイリチルは「こうでなきゃ」って思う。「Super Human」とか、曲としてはかっこいいと思うけど、イリチル的な物差しではちょっと違和感がある。たぶん「Ay-Yo」って、アイドルファンからも、ヒップホップファンからも求められてない。けど、イリチルがやるから成立してる。ものすごく狭いターゲットに向けて作られてる。そこがめちゃくちゃかっこいい。
ケイタ:ほんとおっしゃる通り。「Simon Says」とか思い出したもん。
ヨージ:これはXGにも言えることだけど、そういうターゲティングでちゃんとビジネス的にも回ってるのがすごいよね。あとトラックメイカー的にはXGでyung xanseiが起用されてるのもアツい。夢がある。しかも全員日本人で。Spotifyでもすごい再生されてる。
レイジ:ヨージがXGのビートやったらアツい。
ケイタ:ですね。とりあえずヨージさんがプロデュースしたAisho Nakajimaさんの「Luna」を貼っときましょう。
Aisho Nakajima – LUNA feat. Yohji Igarashi (Dance Performance Video)
いやいやいやBIGBANGは超重要っすよ。K-POPを世界に持っていったのは絶対に彼らですから
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