柳楽優弥インタビュー「“国際基準”は時代的にも目指すべきところ。それを『ガンニバル』という作品で具現化できた」


日本の辺境に、“人喰い村”があった!?という衝撃のコミック「ガンニバル」が、『さがす』の片山慎三監督・柳楽優弥主演で実写ドラマ化された(12月28日よりディズニープラス 「スター」にて独占配信。全7話)。舞台は山奥の小村・供花村。ある事件をきっかけに、妻の有希(吉岡里帆)・娘のましろ(志水心音)を伴い新たに駐在として赴任してきた阿川大悟(柳楽優弥)。彼は、村の人々から恐れられる後藤恵介(笠松将)ほか後藤家の面々と関わるなかで、この村に隠された恐るべき秘密に近づいていく……。

テーマ・物語・描写と攻めた様子が満載の本作は、日本映画・ドラマ界をどう“変える”のか? 当事者の柳楽が、自身の見解を語る。

撮影:玉井美世子
取材・文:SYO

【Information】
ガンニバル
■原作:『ガンニバル』二宮正明(日本文芸社刊)
■監督:片山慎三、川井隼人
■脚本:大江崇允
■プロデューサー:山本晃久、岩倉達哉
■出演:柳楽優弥、笠松将、吉岡里帆、高杉真宙、北香那、杉田雷麟、山下リオ、田中俊介、志水心音、吉原光夫、六角精児、酒向芳、矢柴俊博、河井⻘葉、赤堀雅秋、二階堂智、小木茂光、利重剛、中村梅雀、倍賞美津子
■配信:ディズニープラス「スター」にて2022年12月28日より独占配信
© 2022 Disney

             

「時間的にも、作品にじっくりと向き合うことができる余裕があったんです」


スタイリング:長瀬哲朗
ヘア&メイク:佐鳥麻子(VITAMINS)


――まさか『ガンニバル』をディズニープラスで!と驚きの声も多かった本作。柳楽さんは東京国際映画祭での上映時に「実写化するうえでの強みも見つけられた」とお話しされていましたね。

いままでテレビドラマやメジャー映画、インディペンデント映画に出演することが多かったのですが、最近になって『浅草キッド』しかり動画配信サービスのオリジナル作品に出演する機会が増えてきて、面白いなと感じます。

広告を中心に活動されてきたディレクターの場合もありますが、今回の『ガンニバル』は映画で育ってきたメンバーを集めて配信ドラマを作るという試みです。となると、(複数エピソードでない)映画のように丁寧に撮りすぎていたら分量が間に合わない、という物理的な課題と直面してくる。役者であれば「もっと丁寧に演技したいけど時間がない」だったり。これはどこの現場でも起こりうることではありますが。

ただ『ガンニバル』においては、時間的にも、作品にじっくりと向き合うことができる余裕があったんです。片山監督はキャスト・スタッフを引っ張っていく力を持っている方で、だからこそこういったヘビーなテーマや内容、「映像化は難しい」と思われるような原作も実写化できたのだと感じます。ディズニープラスでの国内の作品作りはまだ始まったばかりですから、今回作ったものを経て今後色々な基準が作られていくのでしょうが、面白く可能性を感じる現場でした。


――撮影に入る前、柳楽さんや吉岡里帆さんは劇中では描かれない「ましろが話せなくなるまでの阿川家」といった過去シーンもリハーサルで演じてみたそうですね。撮影中も片山監督は粘ってテイクを重ねたと伺いました。

そうですね。ちゃんと準備ができましたし、本番も変な焦りはありませんでした。監督ものびのびされていましたし、僕も吉岡さんと今回の役での関係性がしっかり築けました。

――吉岡さんとは『ゆとりですがなにか』等の共演もありますが、今回はいかがでしたか?

こういった難しいテーマを扱った作品でも、吉岡さんがいつも笑顔で現場にいてくれるからみんなも「頑張ろう」と思える。僕自身も今回は家族の設定ですから、頼りがいがあって心強いな、と随所で感じました。

誰が観ているかわからないから誰が観てもいいように国際基準を目指す、すごい時代だなと思います。



――原作者の二宮正明先生はコメントで柳楽さんの目力を絶賛されていましたが、どういった部分をポイントに大悟というキャラクターを作り上げていったのでしょう。

計算してこう持って行ったというよりも、丁寧にリハーサルに取り組めたことによって育っていった感覚です。大悟は村に赴任してきた駐在さんという割と受け身なキャラクターなので、リハーサルなどを通して――つまり周りの環境によってそれっぽい雰囲気になっていきました。僕はこれが正解かわからないし、その瞬間を一生懸命考えてやっているだけ。こればっかしは、観てもらわないとわからないです。

たとえば「ディズニープラスで世界配信!」と言われても、正直ピンときていない部分もあるんです。観られる手前意識した方がいいのかもしれませんが、感覚としてパッとつかめないといいますか。

もちろん、監督は日本の視聴者+αを意識して、国際レベルの作品になるようにテクニカルな部分で取り組んでいるなとは感じました。でもそれって、すごく自然なことですよね。韓国のものづくりに対する姿勢をみていても感じますが、脚本や映像制作に丁寧に取り組むチームがいるから僕たち俳優もそこからインスピレーションを受けて「どうやったらもっと良くなるだろう」と探っていける。今回のチームはみんな積極的で、すごく気持ちが良かったです。

――「対世界」と「演技」ってなかなか照らし合わせられるものでもないでしょうしね。ターゲティングでできるものではない。

全く意識していない子役が海外では「いいね!」と言われることもあるし、意識した結果「あんまりだね」と言われてしまうこともある。その時々で何が評価されるかはわからないし、正解なんてないですからね。計算することは難しいし、できたとしても予想通りの結果になるとは限らない。演技って、自分なりに考えた生活をその作品のタイミングでぶつけるものだと思います。特に片山監督はその場で生まれるアドリブを楽しむ方でしたから、深く考えすぎずに現場で作れたものの良さを信じるという形でした。


――吉岡さんにお話を伺った際も「おせんべいを食べながらやってみる」等々、柔軟に試す現場だったとおっしゃっていました。

今回もカチッと決める部分はありましたが、その場で生まれるものを積極的に採り入れていった印象です。撮影部や照明部がプロフェッショナルな方々だったから即座に対応してくれますし、俳優の即興的な動きにも理解を示してくれました。

先ほどのお話の続きではないですが、世界配信と言われても僕には未知の領域なんです。ただ「国際基準」は時代的にもみんなが目指すべきところだと思いますし、それがひとつ具現化した、つまり実際に行動に移せたのがこの『ガンニバル』なのではないでしょうか。

――先ほどお話に出た韓国のものづくりは、まさにそうですよね。

『イカゲーム』がエミー賞(ドラマ版の米アカデミー賞といわれる賞)を獲得したり、これまでの常識が変わっていっている勢いを感じますよね。僕ももう少ししたらシンガポールに行くので(現地時間の11月30日にシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズで行われたイベント「ディズニー・コンテンツ・ショーケース2022」)、そういった経験を経てだんだん自分の中で「世界」が見えてくるのかもしれません。

配信によって、一昔前みたいに「ハリウッド映画に出たら世界の人が観てくれる」というだけではない道が生まれてきましたよね。誰が観ているかわからないから誰が観てもいいように国際基準を目指す、すごい時代だなと思います。これからが楽しみです。

――柳楽さんは『ディストラクション・ベイビーズ』『闇金ウシジマくん』『 HOKUSAI』『太陽の子』『浅草キッド』等、入り込む演技・役柄に多数挑戦されてきました。今回の大悟もそこに連なる難役かと思いますが、「役が抜けなくなる」ということはあるのでしょうか。

「役が抜けない」というよりは、何カ月も一生懸命撮影しているとクセがつくという感じでしょうか。一つの役が終わった後、1ヶ月くらいして次の作品に入る前に「ようやく自分を取り戻せたな」と思うことはあります。

分かりやすい例でいうと、『浅草キッド』で何カ月もビートたけしさんの仕草を演じていたら、カメラが回っていないときにもふとそのクセが出てしまって(笑)。それくらい自然に出るような状態に向かって、キャラクターを理解しようとして過ごしているからある意味嬉しいことではあります。ただ、次の作品に挑むうえでそれは無くさないといけない。僕の場合は、物理的な行動で役を取っ払うことが多いかもしれません。

――本日は貴重なお話、ありがとうございました。最後に、柳楽さんが最近ご覧になって面白かった映像作品があれば教えて下さい。

ニューヨークの団地育ちの黒人たちが這い上がっていくドラマ『ゲットダウン』です。僕自身ヒップホップカルチャーが大好きで、ニューヨークに短期留学したときに ノトーリアス・B.I.G.が住んでいたエリアのパンケーキ屋さんでお手伝いさせてもらったくらい傾倒しているんです。

『ゲットダウン』はジェイ・Zたちが生まれる前の時代を描いていて、音楽も最高だしテンポもいいし、ノリでやっている感じがすごく好きでいまハマっています。あとは、YouTubeのごはん系のチャンネル。お酒を飲みながら観ています。その他だと、イギリスのバス動画など。車窓風景を1時間くらい映しているものなのですが、流していると落ち着きます。

【Profile】
柳楽 優弥(やぎら・ゆうや)
●1990年、東京生まれ。2004年、デビュー映画『誰も知らない』で第57回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を受賞。その後、映画『包帯クラブ』(07年)、『クローズEXPLODE』(14年)、『合葬』(15年)、『ディストラクション・ベイビーズ』(16年)、『銀魂』シリーズ(17、18年)、『泣くな赤鬼』(19年)、『夜明け』(19年)、『ザ・ファブル』(19年)、『ターコイズの空の下で』(21年)、『HOKUSAI』(21年)、『太陽の子』(21年)、またドラマ、舞台など出演作多数。


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