『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』や『劇場版 ソードアート・オンライン-オーディナル・スケール』等の監督、伊藤智彦さんの第2弾。今回は、誰もが知っているあの監督のあの映画です! 文末のイラストもぜひご覧ください。
取材・文/渡辺麻紀
『太陽を盗んだ男』伊藤智彦 第1回
『桐島、部活やめるってよ』荒木哲郎 第3回
『グッドフェローズ』平尾隆之 第3回
『パルプ・フィクション』足立慎吾 第3回
『ジョジョ・ラビット』梅津泰臣 第3回
<プロフィール>
伊藤智彦(いとう・ともひこ)●1978年愛知県生まれ。アニメーション監督、演出家。手掛けた主な作品に『ソードアート・オンライン』(2012年/監督)、『僕だけがいない街』(2016年/監督)、『HELLO WORLD』(2019年/監督)などがある。
観客の五感に訴えかけるスピルバーグの演出は、さすがとしか言いようがない
――伊藤さんの1本目は長谷川和彦の『太陽を盗んだ男』でしたが、2本目はどんな作品でしょう?
(スティーブン・)スピルバーグの『ジュラシック・パーク』(1993年)です。『ジュラシック・ワールド』(2015年~)シリーズの新作が公開されるとTVでオンエアされるんですが、ついつい観てしまう。そのたびに「スピルバーグって演出上手いなー」って感心しちゃうんです。
――エンターテインメントの王道中の王道ですね。どういうときにご覧になったんですか?
小学生の頃、名古屋の映画館まで観に行った数少ない映画の1本であり、恐竜に感激して泣いてしまった映画でもあります。
――初めて恐竜が登場するシーンですか?
そうです。デジタルのブラキオサウルスがスクリーンいっぱいに登場するシーン。サム・ニール扮する古生物学者も感動して涙ぐむけど、僕も完璧に彼とシンクロしてしまう。何度観直しても、このシーンで泣いちゃうんですよ(笑)。実際は思ったよりも恐竜の登場シーンは数分と少ないし、デジタルの恐竜となるともっと少ない。にもかかわらず強烈なんですよ、やっぱり。
――もしかして『ジュラパ』でスピルバーグの名前を覚えたんですか?
そうだと思います。『ジュラパ』を観に行ったのはスピルバーグだったからじゃなくて恐竜を観たかったからですが、観た後は名前を覚え、さらにTVで観ていた『E.T.』(1982年)や『レイダース』(『レイダース/失われアーク<聖櫃>』(1989年)等も彼の映画なんだと気づいたんです。そして「どうも僕は、スピルバーグという監督の“感じ”が好きなのかなー」と思ったわけです。
当時は漠然としていたその“感じ”が、もっと年齢を重ねてからは「観客の感情をコントロールする手腕」だと思うようになった。つまり、演出が上手いってことなんですよね。しかも老若男女の観客問わず。
――そうですね。その手練手管で楽しませてくれるのがスピルバーグ映画なのかもしれません。
『ジョーズ』(1975年)なんてまさに“演出”の賜物ですよね。ストーリーは驚くほどシンプルなのにメチャクチャ面白いから。『ジュラパ』も同じで、ストーリーはシンプルなんだけど演出で魅せる。たとえば、車のなかのグラスに入った水が揺れることで、恐竜が近づいていることを表現したり、恐竜の息がかかったガラスが曇ったり。生きた恐竜だということが演出でわかるようになっている。いわば、観客の五感に訴えかける演出。さすがとしか言いようがない。
――その辺は本当に上手ですよね。
でも、その一方で、しょうもないことをするスピルバーグも好きなんですよ。
――しょうもないことって?
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