路上空間で行われる園芸活動や路上の隙間に生きる植物のはみ出しっぷりを愛でる路上園芸学会・村田さんの以前の記事はコチラ!
取材&文/村田あやこ 編集/西村依莉
取材協力/許晏熒、Luke(Green Humor)
なんだかんだで2年ちかく、飛行機にも新幹線にも船にも乗っていない。
「おうち時間」とか「散歩」もいいんだけど、いいかげん旅がしたい……。知らない言語が飛び交う街角の屋台で麺をすすったり、真っ青な海を見ながら木陰で昼寝したり、地元のスーパーで見たことないお菓子とか洗剤のパッケージを眺めたりしたい……。
家とスーパーとコンビニをぐるぐる回遊するだけの日々の中、これまで旅したことのある場所を恋い焦がれるように思い返している。もう今すぐにでも飛んでいきたいのが「台湾」だ。
街角にはみ出す園芸や植物を「路上園芸」と称し、好き勝手に愛で見守っているが、「路上園芸」目線で最高の景色が広がるのが、台湾なのだ。
はじめて台湾の地を踏んだのは2018年。
台北で開催される物販イベントで、友人のブースの一角を間借りしてグッズを販売させてもらえることになったのだ。事前に「台湾の路上園芸はすごいよ」というタレコミ情報で、期待が高まっていた。渡航の目的も半分は「台湾の路上園芸の視察」だった。
はじめて訪れた台湾は、もうそれはそれは予想に違わぬ……というか予想以上の「路上園芸大国」だった。
偶然と幸運が幾重にも重なり、その後2019年にかけて、なんと6回も台湾に渡航。
今回の記事では、「路上園芸」目線で台湾の魅力をご紹介し、旅気分をおすそ分けしたい。
タピオカもルーロー飯もマンゴーも一切出てこない台湾案内ですが、どうかお付き合いのほど、よろしくお願いします!
ビルから生えてる
はじめて台湾を訪れたのは3年前の夏。
台北の松山空港からホテルへと向かうタクシーの車窓から、台湾の街を眺めて驚いた。
「ビルがなんだか毛(緑)深い……!」
高層ビルの多い台北の市街地。見上げると、ベランダや屋上、窓辺など、色んな所から植物が顔をのぞかせている。
ビルの足元でうごめくように、長年この地で営んでいそうな年季の入った商店。お店の前の路上には、わしゃわしゃと鉢植えが並ぶ。
いやー、最高ではないか!
いざ台湾の街中を散策。薄い排気ガスや、どこからか漂ってくる香辛料の匂いに異国へやってきた気持ちを掻き立てられる。
見るものすべて珍しく、キョロキョロとあちこち眺めながら歩く中で特に目を奪われたのが、ベランダの柵いっぱいに、これでもかと鉢植えが並べられた光景だった。
台湾ではこのように、ベランダをつかった園芸スタイルがそこかしこで見られた。現地の友人によれば、バルコニーや窓辺、屋上などは、台湾都市部の人にとって、園芸スペースとして活用するのが当たり前。
よく見ると、柵のデザインが部屋ごとに違うのがかわいい。こういったベランダは古い建物に多いらしく、建物に大きな損傷が出ない範囲であれば、自由にデザインを変えられるところが多いそうだ。
いいなー。台湾に住む未来があれば、絶対こういう建物に住みたい!
そしてベランダをカスタマイズしまくって、目一杯鉢植えを並べたい!
水やりにも便利で、暑さ厳しい台湾だと日除けにもなりそうなベランダ園芸。
真夏の街中を歩いていたとき「あれ、なんか涼しいぞ」と思ったら、上から水滴が降ってきたことも。ちょうど水やり中だったのかもしれない。
気温や湿気が高い台湾では、ちょっと気を抜くとたちどころに植物が生い茂ってしまうのだろう。
鉢植えから逃げ出した植物や、勝手にやってきたらしき植物が一緒くたになって、ベランダやひさしが草原みたいになってしまった建物もあった。
度肝を抜かれたのが、このビル。
なんと建物の壁面からガジュマルが生えていた。
……すっごぉー!
ガジュマルをはじめとするイチジクの仲間は、ほかの植物や岩などに着生したあと、上から根っこを伸ばして宿主を絞め殺すように成長するため、通称「締め殺しの木」と呼ばれる。
この木も、建物相手に、元々セットされた締め殺しの性質を目一杯発揮しているところにゾクゾクする。
旅を共にした植物仲間と、思わずパシャパシャと色んな角度から写真に収めた次第である。
隙間から生えてる
日本の街角では、舗装や石垣などの隙間から植物が顔を出していることがあるが、台湾でも例に漏れず、路上のちょっとした空間に「スキあらば」という感じで植物が生えていた。
植物とセットで舗装やタイルの色味や質感の違いを見て楽しむのも、外国の街を歩く醍醐味の一つ。上を見るのも楽しいが、下を見ながら歩くのも楽しいのだ。
台湾の街では至るところに、駐停車禁止を示す赤線が引いてある。
赤線の間から、植物がモジャッ。赤いペンキと緑色の植物とのコントラストが、クリスマスカラーでかわいい。
そしてさすがは亜熱帯・台湾。隙間から生えている植物が、日本よりもどことなく大ぶりで、プリプリとみずみずしい。
とりわけグッときたのが、室外機とか何かの部品といったメカメカしいものと、植物との組み合わせ。近未来感があって無性に萌える。
台湾の路上では、メカに囲まれた中でも植物が負けてない。人工物の中で「ワタシはここに……いる!」という存在感をビシバシ放っている。
なんか元気出ます。
根っこがはみだしてる
台湾の街で、ことさら植物の力強さを体現していたのが、「根っこ」だった。
街路樹の足元で網目状に絡まり合う根っこや、植木鉢をブチ破る根っこ、植え込みから流れ出す根っこ……。
「人が定めた枠など関係ねぇ」とばかりに、都市空間を舞台にたくましさを発揮しまくる姿には、神々しさすら感じた。
道路や建物を作ったりする側からすると「オイオイ……勘弁してくれや」と頭を抱える光景かもしれないが、もうこうなったらトコトン応援します、土木に挑む根っこを。
根っこのたくましさにすっかり心奪われ、何度目かの台湾渡航の際に訪れたのが、台南にある「安平樹屋(Anping Tree House)」だ。
ここはもともと、イギリスの商社「徳記洋行」の倉庫だった場所。その後、倉庫が廃墟となって放置された数十年の間に、ガジュマルが建物を侵食した。
今では観光地として開放されており、ガジュマルの気根に覆い尽くされた建物内を歩くことができる。
ここがもう、すごいんですよ、根っこが。
気根が建物という建物を縦横無尽に張り巡らし、場所によっては壁面がほとんど見えていない場所も。「なんじゃこりゃー」と100回くらいは独りごちた。
廃墟だった倉庫を4、50年ぶりに訪ねてみたところ、ガジュマルにすっかり覆い尽くされていたら……はじめてこの状態を目の当たりにした人は、どれほどの驚きだっただろうと想像してしまう。
自分だったら、感動よりも先に恐怖を覚えてしまいそうだ。
日本だと、観葉植物として小さな鉢に入れられ売られているのを見かけるガジュマル。様々な条件が重なれば、鉢植えのガジュマルだってこんな状態になるポテンシャルを秘めてるってことだ。
植物、すさまじいぜ!
現地の友人曰く「住宅地で写真を撮ったら、必ずどこかしらに園芸風景が写っている」というくらい、日常的に園芸や植物と親しんでいる台湾の人たち。
たしかにどの通りを歩いても、必ずといっていいほど鉢植えの緑が目に入ってきた。
一昔前は、主婦や定年後のお年寄りといった層がメインの担い手だったが、最近では若い人たちの間でも、家の中で多肉植物や観葉植物を育てるのが人気。
特にコロナ禍以降は、園芸ブームに拍車がかかっているとか。
台北にある週末限定の花市場には、台湾中から植物を売る人が集まり、多くの人で賑わうという。
そして植物は植物で、都市の中で虎視眈々と居場所を見つけている。
生命力の蠢きが肌で感じられるような勢いが、葉っぱや根っこにまで満ち満ちている姿がたまらない。
いやー、台湾、早く行きたい!
<プロフィール>
村田あやこ
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。「かながわ路上園芸さんぽ」(神奈川新聞)、「村田あやこの路上園芸探訪」(さんたつ by 散歩の達人)を連載中。
Twitter & Instagram: @botaworks
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