年は明けましたが、前回書いた【2020年、オレがチェックしたあれやこれやTOP10】の続き、⑥〜⑩をお送りします。
和山やま『カラオケ行こ!』
昨年、いつにも増して漫画をよく読んでいたのは、コロナによるおこもり生活の影響もあったと思うけど、自分の読書スタイルが老眼の進行によって、紙から電子になったことが大きい。紙独特のページをめくった時に「おお!」となる、指から脳に電流が走るような快感は捨てがたいが、それが電子でも味わえるようになった。それでもタブレットで「おお!」となった作品は紙でも購入して読むと、さらに「おおおお!!」となるのだから、やっぱり漫画は紙なんだよなあ。
そんな電子&紙の2種類買いした漫画の中で、いちばんビンビンに響いたのは、和山やまの『カラオケ行こ!』。同じく2020年リリースの『女の園の星』の方がヒットしたし、漫画界で最も注目度が高いランキング「このマンガがすごい!」のオンナ編では堂々の1位。だが、オレは断然『カラオケ行こ!』を推す。『女の園の星』やデビュー作『夢中さ、きみに。』の学校設定にはどこか和山やま自身の“青春貯金の利息”的なものを感じていたが、『カラオケ行こ!』は、和山やまの漫画家としての“芯”があるように思う……って、違うな。1stアルバム、2ndアルバムは初期衝動と天賦の才で傑作を作ったロックバンドが3rdアルバムでテクニックも身につけてついに大スパークした……って、これも違うような気がする。
まず【ヤクザが合唱部の中学生男子にカラオケを習う】という発想が良いのだが、まあこの設定自体はあるっちゃあるような。メインテーマとなる曲がX JAPAN「紅」というのも絶妙なハズシだが目新しくはない。どちらもギャップの妙という点においては既視感すらある。では何が凄いか? これはもうキャラとセリフに尽きる。そしてそのキャラとセリフを活かす物語と画、これが全部グルーヴしまくっているのだ。漫画に限らず、ありとあらゆる創作者の個性とは“グルーヴ”なのだと思う。和山やまは今、グルーヴしまくっている。
クイーンズ・ギャンビット
Netflixオリジナルドラマの天才チェス少女の成長物語。天才の物語はなぜこんなに惹きつけられるのだろう? そして天才物語には必ず、才能を持って生まれた故の悲劇が付きものだが、『クイーンズ・ギャンビット』はこの悲劇描写の容赦無さがハンパなく、そして新しかった。
天涯孤独の少女が養護施設に預けられ、そこでチェスと出会い、自分の才能にも気づく。そこまでは使い古されたプロットだろう。でもそこに性の目覚めやドラッグを絡ませるかね!? しかもそのフェティッシュとエロスがルック・照明・美術・衣装・音楽・小道具に至る隅々まで作品をコーティングする。成長物語と書いたが、主人公ベスの内面はさほど成長しないところがまた新しい。それでいてストーリー全体には友情・努力・勝利の少年ジャンプ要素もあるし、チェスシーンはどの対戦もエモく描かれるので、オーソドックスな楽しみ方も出来る。1960〜1970年代の冷戦下の時代設定にもかかわらずCGやVFXの使い方は実に現代的で、尚且つそれが浮くことなく、見事に溶け込んでいる。ベスはもちろん、ライバルやサブキャラの描き方も完璧。ギャグやくすぐりも上品、細かく貼っていた伏線を忘れた頃に回収するのも上手すぎる。映像界における2020年のトピックは間違いなくNetflixだったが、個人的にはそれを象徴する1本だったと思う。
鵞鳥湖の夜
自分の意思で映画館に行くようになったのは、おそらく中学1年の時に観た『ブルース・ブラザーズ』と『駅 STATION』からだと思うが、それ以来約40年間でいちばん映画館に行かなかった年。まあ映画館がやってないんだから行かなかったんだけど、映画館が復活してからも「配信でいっか」となってしまったことは自分にとって映画が、映画館に行くということがその程度のものだったのかと思うと、なんだかなあ……。それでも『鵞鳥湖の夜』は公開初日に、引き寄せられるように観に行った。予告編に時点で「この映画はスクリーンで観なきゃ意味がないぞ!」というオーラが漂っていたが、冒頭からラストまで全てのショットが“映画”だった。
オレは、映画が映画足り得る必須条件とは“ショットがあるかどうか?”だと思っていて、ではその“ショット”とは何か?と問われれば、“映画館のスクリーンでしか体験できない瞬間”としか言いようがないのだが、『鵞鳥湖の夜』には“ショット”しかなかった。おそらく短い公開期間になると思い、都合3回観に行ったが、それでも足りないくらい、幸せな映画体験だった。どうかと思うほどケレンの効いたオープニングショット、艶かしいネオンが灯るホテル地下のチンピラ集会、謎のピカピカ光るスニーカーダンス、雨のバイク泥棒選手権、夜の鵞鳥湖フェラチオ、どれもこれも忘れることが出来ない。町山広美さんがパンフレットで“映画史上最もカッコ良い包帯の巻き方”と言及していたショットは、あれだけでも何杯でもおかわりしたくなるほどカッコ良く、最高に映画的ショットだった。無理矢理なこじつけかもしれないが、この映画の撮影のほとんどが武漢を中心にした地域でのロケだったということも、“ショット”を産む遠因だったと思いたい。
電気グルーヴ配信ライブ・FROM THE FLOOR〜前略、床の上より〜
エンタメ業界で最もコロナの煽りを喰らった……いや被災と言ってもいいほどやられたのは音楽業界だと思う。ライブ・フェス・イベントの中止は、CD不況以降の音楽業界の最も太い幹を叩き割った。個人的にも映画同様、今年ほどライブやフェス、クラブに行かなかった年は無い。
映画や観劇と違って、いくら換気環境が良くても、密でナンボ、騒いでナンボのライブ会場が、コロナ以前に戻るには相当時間がかかる……いや、オレはもうどこかで音楽ライブに関しては元通りにはならないんじゃないかと思っている。電気グルーヴは、本来であれば今年のフジロックフェスティバルで復活する予定だったが、フェス自体が延期(中止じゃなくて延期! そこがフジロックらしいし、SMASH日高さんらしい)。ピエール瀧さんの逮捕以降、オレが撮り続けていたドキュメンタリー『DENKIGROOVE THE MOVIE? PART2』も、この復活ライブがメインになるはずだったが、併せて延期となってしまった。贔屓目&間近で見ているから言うわけではないが、電気は今、絶好調である。もともと逆境に強い2人だが、瀧さんの件があって以降、友情とか絆とか運命とかそんな安っぽいワードでは済まされない、とんでもない関係になっている。
そんな2人が今年唯一、電気グルーヴとして姿を見せたのは、配信ライヴだった。リキッドルームのステージではなく、客席フロアを使った円形セット。サポートはお馴染みのagraphと、ギターの吉田サトシ。以前から吉田サトシをサポートに呼んでいたが、全曲ギターを入れたのは初めてで、これがめちゃくちゃ良かった。まさに新生・電気グルーヴ。セットリストのほとんどが2人になってからの電気楽曲だったということにもそれを感じた。今年のフジロックフェスがどうなるかわからないが、溜めれば溜めるほど強くなる電気の生の姿を早く観たい。そして、それを映像として記録したい。
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