「心と身体とポルノスター」【戸田真琴 2021年4月号連載】『肯定のフィロソフィー』

 先日、ミスiD2021が決定した。私は今年初めて選考委員をやらせていただいて、約1年間をかけてのべ2676人の応募者の方々と、そのほとんどをネット回線ごしに対峙することとなった。書類審査の時点で新しく設けられた「3分動画」で爪痕を残す人や、Zoom面接であることを逆手にとって映像演出的に面白い工夫をしてくる人、最終的にファイナリストから対面で面接できる人数も限りなく絞られ、最後まで最終3分動画の提出によってリモートでのアピールしか方法がなかった人たちもたくさんいた。そんな、特殊ともいえる状況でグランプリに輝いたのは、選考委員がだれひとり直接会うことの叶わなかった、香港在住の現役アイドル「乙女シンドリーム」のメンバー「まほ」さんだった。授賞式として行われた「ミスiD2021卒業式」でもリモート参加となった。大きなスクリーンに映し出された「まほ」さんは、大きな目をぱちくりとさせ驚いた。そして、喜びの言葉を口にし、前年度グランプリの嵐莉菜さんが画面越しに渡そうと花束をZoom画面に精一杯伸ばすと、まほさんは近くにあった鉢植えを持ってきて「受け取りました!」と笑った。人を幸せにするために自分の労力を惜しまない、天使のような心を持ったアイドルがまほさんで、その心の美しさに選考委員がどんなふうに希望を見出したのかは公式サイトの選評をよめば明らかになる。私は少なくとも、人がどうして「アイドル」を必要とするのかということのもっともプリミティヴな理由を、彼女の魂とその在り方に見た。それは、探していたことも気づかないほどにあたり前に探していた光を、目の前に差し出されたような、不思議な感覚だったのだ。

 グランプリをはじめとするコンテストの中心部にあたる賞については、最終審査の面接後の選考会議で決まった。その場に出席可能だった選考委員を中心に、来られない選考委員たちも言伝を残すなどして意見を伝える。ファイナリストだけでも195名。(途中辞退などもあり)その全員が、それぞれまったく別の良さを持ってここまで進んできた。選考会議の数時間では到底話し合いきれることなどなく、解散してもなお、遅くまで話し合いは続いた。その後もメールのやり取りで個別に賞の提案や追加などがあり、当日のミスiD卒業式を迎えることとなった。

 そんな中で発表された賞の中のひとつが、ネット上で波紋を呼んだ。

「ニュージェネレーションポルノスター賞」と書かれたその賞の欄には、現役のAV女優さんふたりが並んでいた。その賞に対する説明がざっくりとしていたため、いくつか激しい批判の声があがったのたった(最初の説明文や該当ツイートはすでに変更/削除されている為割愛する)。現役AV女優のままミスiD2018(今で言うアメイジングミスiDという括りの、その年の代表ともとれる賞をいただいた)を受賞し、今年は選考委員をさせて頂いていた身として、この批判は色々な意味で胸に突き刺さるものだった。

 受賞した彼女らの魅力は一歩でも深堀りして貰えたらすぐにきっと伝わるものだとして、選考委員として、あの壇上で、「AV女優で、文筆家の戸田真琴です。」と名乗った私はどうだろう。あの場所には未成年のエントリー者もいた。配信だって、年齢制限はついていない一般向けの配信だ。一瞬、怯んだが、それでも、AV女優であることを抜きにして自己紹介をするのは、あまりにも嘘になってしまう。これまでに何があった人も、ここ以外の場所で何をしている人でも、今ここに、居ていいというのは、自分以外の全ての人に対しても思っていたことだから、自分に対してもそうあるべきだと思った。私はAV女優をしてきた心と体でここに立っていて、私のやり方でいろんなものを見てきたこの人生で、君のことを美しいと言いたい。それは、対峙する人に対してどうしても崩したくないスタンスだった。作品を見ているかどうかはどうでもよく、苦手なら見なくていい、というか、必要な人だけが見ればいいと思う。だけれど、後ろめたいことを隠してまるで普通に生きてきた人みたいに振る舞うのは、なんだかどうしても変なことのような気がした。 

 受賞者のふたりをはじめ、AV女優さんにはセックスワーカーであることを除いても生きる姿勢や本人たちの持つ魅力が眩しく、人間としての憧れを抱く人が当たり前にたくさんいるだろう。 

 私自身、AV女優の女の子が「女の子の憧れになりたい」と発言する度に肝を冷やしていた。実際にかわいくてお洒落な現役AV女優さんをSNSで知って、憧れを持って業界入りする女の子は少なくはない。また、そうして入ってきた女の子は自らも誰かの憧れの対象になりたいと望むのも自然なことだろう。無邪気で、何の悪気もない言葉だ。

 それでも、そういう無垢な願望を聞くたびに私は、そんなことを言っていいのかな? 本当に憧れてしまったらどうするんだろう、取り返しがつかないだろう、と青ざめながら頭を悩ませていた。AV業界に入ることのリスクについては、私自身が身をもって体験してきていることがどのくらいのことであるかという単純な話ではなく、業界全体で、この渦中に来ると起こり得る負の可能性を含めた意味である。数々の災難には、上手くかわせる人とかわせない人とがいて、それはどのくらいの大変なことが降りかかるのかどうかも運やタイミングや状況による。その大変さを糧に自分の利益を勝ち取ることが出来る人もいるし、それができずに搾取されてしまうばかりの人もいる。業界に入って輝きを増す人もいれば、輝きを吸い取られてしまう人もいる。ただ、その負の側面を意図的でなくても隠してしまい、明るい側面だけを見せたままこの業界に人を招くのは、どう考えても正しいこととは言えないと思う。

 そもそも毎年、ミスiDにエントリーするAV女優さんはたくさんいる。その理由は多種多様で、もっと売れたくて来る人、インパクトを残したい人、自分を探している人、これが最後のチャンスだという人。これから戦うつもりの人も、すでに戦いに疲れた人も、様々な自分だけの理由を抱えてエントリーしてくる。とくに、最終選考まで残るような女の子たちは、単純な「AV女優として売れたい」気持ちだけでない、もう少し先を目指せそうな希望を孕んだ人であることが多い。その中にいる私も勿論だし、何か、今の状況よりも一歩先へ、すぐにすべてがまっさらに健康的に、誰も辛い思いをしないでポジティブな側面のみに終始するような世界に変わるなんてことはありえないけれど、もしかしたら、今日より明日は少しだけ良くなるかもしれない、そういった希望に関係しているかもしれない女の子達を見つけることは、決して意味の無いことだとは思えなかった。

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