▶新刊のお知らせ!▶
TV Bros.WEBの人気連載『押井守のサブぃカルチャー70年 YouTubeの巻』が12月28日(木)発売
“わたしはYouTubeという窓を通して、現代社会の在り方がわかるようになった――。”
1951年生まれの監督・押井守がハマったというのがYouTube。
“いま”が凝縮した動画を視聴しながら気づいたその面白さ、そこから垣間見えた現代社会の状況、今を生きる人にとっての「幸福論」、そしてYouTubeというメディアとは一体何なのか?
TV Bros.WEBで好評を博した連載に加筆して待望の書籍化です!
◆カバーイラストは、人気アニメーター&監督の梅津泰臣描きおろし
◆聞き手・構成・文/渡辺麻紀
本の詳細はこちら
映画における「説明」と「説得」とは――?
――今回の2本目は『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(13)。押井さんご贔屓のスカーレット・ヨハンソンが主演し、監督はイギリス人のジョナサン・グレイザーです。
これはWOWOWで観たんだよ。スカーレットが出ているから、じゃあ観ようという感じ。ずっと彼女が男を逆ナンしていて、引っかかったヤツを小屋に連れ込んで黒いタールのなかに沈めているというか、男のほうが進んでズブズブとタールに沈んで行く。この辺で「これはきっと宇宙人の侵略ものなんだ。それも文芸調のシブいSF」と思うようになった。もうひとり、バイクに乗ったおっさんがいて、どうもスカーレットの仲間のようだけど、どういう関係性なのかははっきりわからない。映画はそういう謎を残したまま、粛々と進んで行く。
――あのおっさんは地球に初めてやって来たスカーレットのために、お膳立てをしてやっている人のように見えましたよ。
そうなんだけど、何を目論んでいるのかわからないでしょ? そもそもスカーレットが演じている宇宙人らしき女性はどういう立ち位置なの? 使命感に燃えているのか? あるいはいやいや任務に就いているのか? 個人の動機がまるでわからない。
そういうことを繰り返していると、悲しげなエレファントマンのようなおにいさんに会ったりして徐々に地球の男に情がわいてくる。道にはぐれたときは無口なおじさんに助けられ、スカーレットも優しい気持ちになったのかセックスに挑戦してみる。ところが、どうも上手く行かない。で、彼女が慌てて自分の股間をライトで照らしてみたら、何と性器がない!……という行為を、あのスカーレットにやらせるなんてだよ。しかも彼女、本作ではフルヌードを見せているじゃない。眼福だったけど、なぜこの映画で? という疑問は残る。
――私は『アンダー・ザ・スキン』、好きな映画だったので、彼女にインタビューしたとき、大スターになってもああいう映画に出ているのはどうして? みたいなことを訊いたんですよ。答えは「あたし、情にほだされやすいの。監督が自作について熱く語るのを聞いていると協力してあげたいと思ってしまう」と笑っていましたよ。
そうか、そういう性格なんだね。監督はどんな能書きを垂れて彼女を説得したのか、とても興味があるんだけど。説得する以上は、映画のビジョンや展望、モチベーションや動機も語ったはず。でも、映画にそれを一切感じないじゃない。最後は自分で身体の皮膚を剥ぐと、なかから男たちを沈めていたタールが出てくる。真っ黒なタールのボディ。タイトルが『アンダー・ザ・スキン』なので、おそらくラストは考えていたんだろうということはわかるけど、それだけでしょ?
――男というか人間を栄養素くらいにしか考えていなかったエイリアン女子に情が芽生えて行くが、男によってその感情が踏みにじられてしまう。だって最後、レイプしようとした男が彼女にガソリンかけて焼死させるんですよ。あんたがいいと思った人間は、実はロクでもない種だった……というのはどうです?
そうなのかなあ。人間はロクなもんじゃないというテーマにしては手間暇をかけすぎな上、それほど効果があるとは思えない。
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