【2025年4月号 爆笑問題 連載】『♪蹴っても蹴っても蹴っても大好きよ~♬』『ドタバタ喜劇』天下御免の向こう見ず

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<紙粘土・田中裕二>
♪蹴っても蹴っても蹴っても大好きよ~♬

広末涼子さんの事件。驚いたような、驚かなかったような。当時のファンたちは、それでもヒロスエ命なんでしょう。デビューしたての頃、絶大な人気アイドルだったヒロスエを知らない世代にとっては、ただのお騒がせ女優と見られるんだろうなと思うと、ちょっとせつない。

<文・太田光>
ドタバタ喜劇

ウサギは、スマホを見て青ざめていた。画面には、過去に演じたシーンが次々とアップされていく。
例えば、ライバルのハゲ頭のハンターと、騙し合いをして、彼の足にロープを結びつけ、その先に鉄の重りをつけ崖から落とすと、ハンターは真っ逆さまに落下する。あるいは、ハンターがライフルを乱射し、その弾を除けつつ、ライフルの先を結んでしまい、打った瞬間逆噴射して暴発。ハンターがヨロヨロと倒れる。あるいは、ケーキを相手にプレゼントし、実はそれが爆弾で、相手がケーキを食べた瞬間口の中で爆発。食べたハンターの鼻の穴と口から煙が吹き出して、目がグルグルと回って倒れる。
ウサギ自身もかなりヒドイ目に合っていた。耳をつかまれグーッと伸ばされ、ブンブン振り回されて木にぶつけられる。挙げ句の果てには、空に飛ばされそのままどんどん体は上がっていき、地球から宇宙へ、そして月に突き刺さる。
スマホにあげられる映像には怒りのコメントが添えられている。
ウサギの顔は青から赤へ、そしてまた赤から青へと変わっていく。

テレビでは、不祥事を起こしたテレビ局のニュースが流れていた。
旧経営陣は、皆一様に顔色が悪く覇気が無い。次に映し出されたのは、新たな取締役の候補として外資系の株主会社から名前が上がった人物だ。
彼はこう息巻いた。
「この局がガタガタになるのはわかっていた。報告書を見ても全く反省の色がない。意識改革が必要だ。敵対するようなら、徹底的に勝負する。いつでも受けて立つ。株を5%買うなんてわけないことだ!」

ウサギは、テレビをつけっ放しにしていたが、そちらには目もくれず、まだスマホから目が離せないでいた。
どんどんと投稿される自分の過去の映像。
「ウケケケ」
その時、どこからかヘンテコリンな声が聞こえた。
「誰だ?」
ウサギは、声のした方を見る。
そこにいたのは、見たこともない奇っ怪なな白い小さな動物だった。耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
ウサギは言った。
「誰だ、お前?」
「ケケケ、バックス。もうお前の時代は終わりだニャ」
「なんだと?」
バックスバニーは目を丸くした。
「わかるだろ? お前のギャグは時代遅れだニャ。確かに今まではお前はウサギの中ではキングだったニャ。全米ナンバーワンだったニャ。だが、お前は調子に乗りすぎたニャ。今はコンプライアンスの時代だニャ。もうお前のドタバタギャグでは誰も笑わニャイ。これからは、俺がウサギのキングだニャ」
「ウサギだって?」
バックスバニーはそういうとウサギネコに近づいて、足先から頭までジーッと見つめた。
それから大急ぎで、台所に行き、ネコが大好きなちゅーるを持ってくると、はじを切り、ムニュと出してウサギネコの鼻先に当てた。
「ニャン!」
ウサギネコは夢中でペロペロと舐めだした。
「ネコじゃないか!」
「ふニャ?」
ウサギネコは慌ててちゅーるを断腸の思いで吐き出した。
「ペッ、ペッ、ペッ……ウェェェ、まずい! ペッペッ、こんなもん食えるか!」
「もう遅いと思うけど……」
「とにかく! お前のギャグでは笑えニャイ」
「……」
バックスバニーはしばらく考え込んでいたが、また奥に引っ込むと、導火線に火がついた爆弾を持って来て、そっとウサギネコに渡そうとする。
ウサギネコは、テーブルの上にあったコップの水をゆっくり導火線にかけて消した。
シューっと音がして、火が消える。
「もうそういうのは古いんだニャ」
バックスバニーは負けじと今度は、巨大なハンマーを持ち上げようとするが、持った途端、ハンマーの柄が抜けてただの棒になる。
「はぁ。こんなしらけることってある? 何も起きなくて何が面白いんだ?」
「はぁぁ」
ウサギネコはバックスバニーよりも大きなため息をついた。
「誰かが傷つくことが面白いって考え自体が、アンタは老害だニャ……ほら、見てみるんだニャ」
ウサギネコはスマホを見るように促す。
続々と投稿される、バックスバニーの顔の映像。その下にはこんなコメントがついている。
「そういう時代だったからって言葉で許される行為ではないんだよ」「あの頃からバックスバニーの笑いは嫌いだった」「傷ついている人は元々いた。今それが言える時代になったってことだよ」「コイツのギャグは二度と見たくない。いや、顔も見たくない」「コイツのやってることはただの暴力。笑いでも何でもない」「こんないじめが面白いんですか?」「見るだけで虫唾が走る」「頼むから二度と人前に出てくるな」「反省なんかコイツには出来ないんだろうなぁ」「コイツにかける言葉はたった一言。……消えろ」。
コメントを読むにつれ、バックスバニーの顔はまた赤くなり青くなり、目はグルグル回り、口からは泡を吹き、耳は垂れ下がり、体はやがて平べったくなり、ヒラヒラと、揺れて、フニャフニャになり、液体のようになって地面に広がってしまった。その周りに古い時代遅れの漫画では頭を殴られた後の表現でよく使われたように、小鳥が三羽、ピヨピヨとまわりながら飛んでいた。
「ウケケケケケケケケ! ケケケケケケケケ!」
液体になったバックスバニーが言う。
「何がそんなにおかしいんだ?」
ウサギネコはニヤリと笑って言った。
「アンタにいいこと教えてやるニャ」
「……なんだよ?」

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