元テレビマンで現YouTuberの高橋弘樹が、動画制作の裏話から、ReHacQとABEMAの二足のわらじ生活を赤裸々に語ります。
プロフィール
たかはし・ひろき●1981年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、2005年にテレビ東京へ入社し、『家、ついて行ってイイですか?』などのヒット作を企画・演出。2021年よりYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」の企画・制作統括を務め、わずか1年10カ月で100万人登録者数を達成。2023年2月末でテレビ東京を退社。同年3月より自身が代表を務める株式会社tonariでビジネス動画メディア「ReHacQ」(リハック)を立ち上げ、開始から1週間足らずで登録者数20万人を突破。起業家でありながら、株式会社サイバーエージェントに入社し、AbemaTVで映像制作も担う。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、『TVディレクターの演出術』(筑摩書房)、『都会の異界』(産業編集センター)、編著書に『天才たちの未来予測図』(マガジンハウス)、『なんで会社辞めたんですか?』(小社)などがある。
#1 二重人格な日常
キラキラな社員生活
春から、二重人格になりました。
毎日14時頃を境に人格が入れ替わります。
「新しいアイドルグループに関する企画を書いてくれと言われまして…。なんで、これ書いときました。『タコゲーム』。100人集まった候補者たちが、なんかゲームしてどんどん脱落してくゲームです。よくわかんないけど、ナレーションは韓国語にしましょう。ボイスチェンジャーかけて」。
昼ぐらいまでは、エンタメの映像プロデューサーっぽい人格なんです。渋谷にあるとても若い会社で、20代、30代の人がほとんど。みなおしゃれでキラキラしていて、社食に行くとインスタでよくわかんないインフルエンサー見て笑ってます。
それを、席の後ろを通るフリをして覗く私が自覚している自分の年齢は41歳。
席に座っている人たちの見ているスマホを覗きながら、社食のレーンに並びますが、Suicaと連動した決済でつまずいて、いつも後ろの人に迷惑をかけます。
おしゃれなサラダブッフェで、おしゃれのかけらもないくらい、野菜をぎゅうぎゅうに詰め込んで、3種類あるドレッシングの中で、一番チョイスされていない中華ドレッシングを大量にかけて、食べるのですが、社食に映されたテレビでは…。
「○○君が、一番気になってる。話をしてて、一番しっくりくるから…」。
ハニカミながら話す制服姿の高校生たち。ずっと見ていると「高校生活って、確かにキラキラしてたなー」と思い込みそうになりそうになりますが、出てくるのは全員「超」のつく美男美女。彼ら彼女たちが恋をするために海外に旅行に行くという恋愛番組なんですが、あまりに自然なので、日本中の高校生がこんなにキラキラして、美しい青春を送っている。
ひいては自分もそんな青春時代を送っていたんだと錯覚しそうになりますが、すぐに生物部に6年所属して、よくわからない豆を育てたり、魚の交配に勤しんだ、自分の青春時代を思い出すことに成功しました。
話をしてて、しっくりくるだけでは恋愛が成就しないことをしっかり学んだ
41歳の私でも、キュンキュンさせることができるのが、この会社の作っている恋愛番組のすごいところです。
バラエティー畑の人間が作る恋愛番組とは
私の記憶が確かならば、私はつい3カ月前までテレビ東京という会社で、18年バラエティー番組を作ってきました。
『家、ついて行ってイイですか?』『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』など、ゴールデン・深夜問わず、さまざまな番組を企画・演出してきました。
晩年は社内でYou Tuberに転身し、『日経テレ東大学』というビジネス動画メディアを作り、2023年の2月末でそんなテレビ東京を退社しました。
なので、そんな制作経験を買われて「恋愛番組の企画書を一緒に考えてくれませんか?」と、ネイルもヘアケアも、リップの決まり具合も常に完璧な、渋谷で働くイケてるIT企業の代名詞のような、おそらくおそらく10歳ほど年下の上司から、社内でお誘いがありました。
これはめちゃくちゃ面白そうだ、と思う反面、一抹の不安が残りました。
恋愛という文脈において、私の自律神経は驚くほど副交感神経優位の状態を保っていて、かつてあれだけ好きでヘビーローテーションしていたJUDY AND MARYの『ドキドキ』という、恋による胸の高鳴りを歌った歌も、もはや「え? どういうこと?」と全
くその良さを味わえない不感症に陥っており、『世界の中心で愛を叫ぶ』という離別による恋愛の切なさを全面に描いた作品も、「なんでわざわざエアーズロックに行くのだろう…」と、もはやオーストラリアに行く意義に疑義。危機的な状況だからです。
というか、よく考えたらそもそもバラエティー畑の人間です。ですが、新しいことにチャレンジするのが、転職の醍醐味のはず。企画自体は何人かで制作し、それを30人ほどの制作局員たちの前で発表します。
私の一生懸命捻り出した企画は。
『恋愛イケメン日韓戦 ~チョヌンか俺か、選んでジュセヨ~』
・・・。
この会社の社員の皆さんはとても優しいので、30人の中で圧倒的な生年月日の古さを誇る私の渾身の企画に、爆笑してくれました。
後日、私の企画を作らないかと誘ってくれたその上司からは「タイトルを見ただけで、爆笑してしまいました」と、メールが来ました。
が、おそらくこの企画が日の目を見ることはないでしょう。
日によりますが、そんな人格が昼過ぎまで続いた後、渋谷にある、そんなサイバーエージェントのABEMAのオフィスをコソコソっと出て、東麻布に向かいます。