おとどちゃん連載・17「Snow Smile」

今年で創業91周年! 高知県桂浜にある小さな水族館から大きな声で、いきものたちの毎日を発信中!

広報担当・マスコットキャラクターのおとどちゃんが綴る好評連載第17回は、おとどちゃんが走り抜いたマラソン大会と、南国土佐の銀世界な一日のこと。今年もたくさん楽しいお話をありがとうございました!

以前のお話はこちらから。

 空との境目が曖昧になる冬の海は、水彩絵の具で描いたかのように水平線が滲んで見える。雲と雲の間からこぼれ落ちる陽の光は柔らかく、昼下がりにはほんのりと暖かみを感じるというのに、鼻先を掠める風は、季節に忠実で冷たい。

 気がつけば、令和四年も残すところあとわずかとなった。相変わらず喧しく慌ただしい一年だったと思う。

 ここで生まれて、六度目の冬。毎年恒例のハロウィンイベントも無事に終わり、飼育リーダーがサンタ帽を被りだすと、いよいよ五感でクリスマスを感じられるようになる。街がどんなにそれらしいカラーに彩られても、市内の公園に聳え立つ大きな木が夜を煌びやかに語っていても、まるで他人事のように感じる聖なる夜が、途端に身に迫ってくる。それでも、館内で流れる有線は、季節を無視して、誰が設定を変えているのか、オルゴール調で流行りの曲を流したり、オーケストラ風にアレンジされた昭和や平成の懐メロを垂れ流している。

「おとどちゃん、おとどちゃん、雪が降ってるで!」

 無線機から聞こえてくる飼育リーダーの声が弾んでいる。事務所から出ると、泡雪が舞っていた。桂浜では、この冬初めての雪だ。

「今年のクリスマスは、ホワイトクリスマスになるかもなあ、コエル」

 アシカプールの方から歩いて来た飼育リーダーが、コエルといっしょに浜辺へと出た。大きなカメラを持った来館者と、ふたりの後を追うように私もエントランスを抜ける。目前に広がる海は静かに波を揺らし、銀白色の空はぼんやりとしていた。アシカの存在に気がついた観光客がわらわらと集まって来てふたりを囲む。その光景を胸に刻んで、私は踵を返し、アシカプールの方へと向かった。ちょうど二頭のアシカがトレーニング中のようだ。扉が開かれたままの補助プールを、一頭のアシカがしきりに出入りしている。

「あと、四十です」

 飼育エリア内にいる飼育員が、外にいる飼育員に向かって、クーラーボックスに入っている魚の残数を伝えた。

「はーい」

 外にいた飼育員が返事をする。飼育リーダーと同じサンタ帽を被った彼は、頭こそ冬らしいが、いまだ半袖姿で、見ているこっちの体温が下がりそうだ。一年じゅう半袖で過ごすその飼育員のちぐはぐな姿にもすっかり見慣れたとはいえ、雪が舞っているこの時に薄着中の薄着な彼には、この疑問を投げかけておくのがきっと礼儀というものだろう。

「寒くないの?」

 私が声をかけると、彼はアシカの身体を撫でながら小さく唸り、少しだけ考えたのち、「さすがに、寒いですね」と笑った。

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