“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造をもった作品のこと。そんな裏切り映画を語り尽くす本連載。今月はM・ナイト・シャマラン監督のSFスリラー『サイン』です。
取材・文/渡辺麻紀 撮影/ツダヒロキ
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メジャー風な作りのなかに、シャマラン監督のやりたいことを潜ませるという高等技術がなかった『サイン』
――今月の2本目はM・ナイト・シャマランの『サイン』(02)です。『シックス・センス』(99)で大ブレイクした彼の監督&オリジナル脚本作ですね。
私、わりとシャマランは観ているんだよ。好きかと言われれば、そんなに好きでもないんだけどさ。シャマランの映画は基本、同じ。最後のどんでん返しだよね。彼が選ぶ恐怖やサスペンスというのは、日常のなかに潜んでいる何かを探り当てるというパターンがほとんど。これがツボにはまれば大した映画になり、ハズすとアイデアストーリーで終わっちゃう。
ハマったのは『レディ・イン・ザ・ウォーター』(06)。これは大変感心した。なるほど、こういうところに目をつけるんだって。日常の不具合や不安を深堀りして行くと、とんでもないところに出ちゃいましたという感じがもっともよく表現出来ている。
その一方、ハズしたのは『ハプニング』(08)。人間が屋上からバラバラと落ちてくる映像にはインパクトがあったけど、それだけ。『ミステリーゾーン』の1エピソードくらいしかない話を水増しした感じでオチもまるでシマらなかった。
実のところ、日常のほころびを追って行くというのはなかなか難しいんだよ。そういうわけでシャマラン作品は出来不出来がはっきりしている。
――今回、選んだ『サイン』はどちらなんですか?
「不出来」のほうだよね。最初はアメリカ人の恐怖ゾーン、トウモロコシ畑。アメリカ映画に繰り返し出てくるトウモロコシ畑は、アメリカ人にとってのデンジャーゾーン。あの(クリストファー・)ノーランだって登場させてたじゃない?
――『インターステラー』(14)ですね。ホラー映画にもよく出てくる。同じ風景が延々と続いているのが怖いんでしょうか。迷子になりそうじゃないですか。
(シルベスター・)スタローンの『ランボー』(82)にだって出てくる。きっとアメリカ人にとって子どもの頃のトラウマになっているんだよ、あの風景って。ジャンルを問わず出てくるから。
で、『サイン』の場合はそのトウモロコシ畑にある日、ミステリーサークルが出来ている。日常を描いてきた男が突然、SFなのか? と思うじゃない? 予告編でミステリーサークルを観て驚いたんだよ。シャマラン、一体何を考えているんだって。だから劇場まで行った。で、見事に「裏切られた」。
――でも押井さん、エイリアンも出てきて侵略SFしていたじゃないですか? テーマは違いますけど。
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