猫のつまらない話 第23回【能町みね子 連載】

すっかり不定期連載になってしまった「猫のつまらない話」ですが、能町さんがやる気を出してくれました。

前回、第3位の紹介で終わってしまった小町の肝冷やしランキング。今回は肝冷やし2位の発表です!

前の話なんてもうすっかり忘れちゃったよ〜! という人は、コチラのバックナンバーをどうぞ。

文&題字イラスト/能町みね子 写真/サムソン高橋

私はいろんな猫よけグッズを調べたことがある。

ネットで探すだけじゃなく、ホームセンターに行って現物をいろいろ見たのだ。猫はミントや柑橘系の匂いが苦手と言われるけど、そういう猫が嫌いな匂いを凝縮したようなスプレー(猫に有害ではないもの)があるのを知った。花壇の周りでたまに見る、物理的に来られないようにするチクチクしたシート状のものもあった。

……私は猫が好きなはずなのに、なんてことをしているんだ。なぜこんな罰当たりなことを。
ということで、前回から語り出した、小町を脱走させてしまったという我々の重罪について懺悔する回のつづきである。第二位、青森での脱走事件。

 

これは私の単独犯である。ウチの猫について書くことはもう何もないはずだったのに、私は隠していた。自分の犯罪について書く勇気が出なかったんじゃあ。許してくれ。

世がコロナに揺れ、東京オリンピックに震えていた2021年夏、私はひとり、青森に念願の「避暑」をしたことは前に述べたとおりである。小町まで連れて悠々自適の日々を送ろうとしていた。
順応性の高い小町は数日で新しい部屋に慣れたものの、私がちょっと買い物に出かけて帰った際に、東京のときのように玄関まで迎えにくることはなかった。

これも以前に述べましたが、東京の家にいるときはお迎えが激しい。私が帰宅したらあわてて声を出しながら階段を降りてきて、ニョニョニョニョニョニョ、(ジャンプして)ニ゛ャン!と言いながら玄関まで来たり、待ちくたびれているときは横開きの玄関扉のすりガラスに両手で体重をかけていて、扉が開いた瞬間に首を出しそうになって危なかったりする。ああかわいい。でも、脱走の危険は常に私の頭にある。帰宅時はいつも、玄関扉をまず数センチ開けて様子を見て、小町がいないのを確認し、いる場合は手で外に出ないようガードしながら我が身体をすべりこませるようにしていた。

しかし、青森で借りた部屋はマンションの一室なので階段なんかないし、私が帰ってきてドアを開けても小町が突進してくることはなかった。小町は居間の奥のほうで寝ていて、顔をあげてニャ?と言うか、設置したキャットタワーの籠状になったところに寝ていて、そこで起きて首だけもたげてニャ?というか、どっちかだった(どっちにしてもかわいいですね)。
だから私はいつも、ドアの鍵を開け、ふつうにガバッとドアを開けて、帰宅していた。
完全に、油断していた。

青森に住み始めて2週間ほど経ったある日。その日は青森にしてはかなり暑かった。私は夕方くらいになってからでかけて、まだこの部屋にない体重計を買いにラビナ(駅ビル)に行き、スタバで21時まで粘って仕事をし、自転車でサーッと帰宅し、買い物袋を廊下に直置きしてバッグから鍵をあさって、いつものようにマンションのドアを開けたらぬるり〜んと毛モジャの何かが出てきて、あれ?あ、猫だ。

小町が出て行ってしまった。

え?

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