人気アニメクリエーターによる『アニメ人、オレの映画3本』。その連載10回目は『天空のエスカフローネ』などで人気の高いアニメーター、結城信輝さん。最近では『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』や『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』などのキャラクターデザインを手掛け注目を集めている結城さんに3本を選んで頂きました! 今回はその1回目です。
取材・文/渡辺麻紀
【プロフィール】
結城信輝(ゆうき・のぶてる)●1962年東京生まれ。アニメーター、漫画家。主な作品に『ファイブスター物語』(1989年 キャラクターデザイン、作画監督)、『ロードス島戦記』(1991年 キャラクターデザイン、総作画監督)、『天空のエスカフローネ』(1996年 キャラクターデザイン、OP・ED作画監督)などがあるほか、『宇宙戦艦ヤマト』リメイクシリーズ全作(『宇宙戦艦ヤマト2199』~『宇宙戦艦ヤマト2205』<2012年~2022年>)に携わっている。現在は新作の準備中。
十兵衛が耳なし芳一のように、梵字を書いた顔で登場するシーンは「キター!」って感じで大興奮
――結城さん、まずは1作目をお願いします!
いろいろ考えたんですが『魔界転生』(1981年)にします。深作欣二と千葉真一による『柳生一族の陰謀』(1978年)の、いわば続編ですね。
――この作品はジュリーこと沢田研二が天草四郎を演じたことで話題になったと記憶しているんですが、続編だったんですか?
「いわば」続編です。というのも千葉真一が同じく柳生十兵衛を演じているからです。僕が聞きかじった話だと、千葉さんは柳生十兵衛というキャラクターを大変気に入り、深作監督も気に入ったので、もう一度結集して映画を作ろうということになったと言われていた記憶がある。千葉さんはこの前にTVシリーズの『柳生一族の陰謀』(1978~1979年/フジテレビ系)でも同じ役を演じているくらいだから、相当気に入っちゃったんですよ、おそらく。
――『柳生一族の陰謀』とはまるで違う作品ですよね。オリジナルはオールスターキャストによる正統派の時代劇という印象です。
三船敏郎から萬屋錦之介、山田五十鈴まで出てますからね。錦之介が柳生但馬守宗矩を演じていて、彼が十兵衛の父親。映画では錦之介の殺陣がめちゃくちゃかっこよかったので続投するかと思ったら、若山富三郎にバトンタッチされていた。TVシリーズの山村聡でもなかったわけだから大丈夫なのかと思っていたら、彼の殺陣も負けず劣らずかっこよくてシビれちゃったんですよ。
――すっごくかっこよかったので驚きました。最小限の動きで敵を倒して行く姿が本当にプロっぽい。
宗矩は将軍家の兵法指南役なので上手くなきゃいけない。その点、富三郎はハマり役ですよね。心配することはなかった(笑)。宗矩は正統派の剣士なんですが、その息子の十兵衛はちょっと違っていて半分、忍者みたいな感じ。そういうキャラクターであるところに、千葉真一のアクションスターとしての味が活きているんです。
――私はこの映画、今回初めて観たんですが、天草四郎が歴史上の有名人をリクルートして徳川に復讐しようとする話なんですね。
そうなんです。歴史の教科書には登場するものの王道的な存在じゃない人たち。細川ガラシャや柳生但馬守宗矩、宮本武蔵にお坊さんで武道家の胤舜、伊賀の霧丸とか。このキャラクターのチョイスも大変面白い。やっぱり深作監督って『仁義なき戦い』シリーズを始めSF、戦記物も撮っているから、こういう個性的なキャラの立て方が上手いんです。
一度は死んだ彼らに天草四郎が「お前の人生、それでよかったのか? 本当はまだやりたいことがあったんじゃないか?」と甘言を囁き、魔界から転生させ、倒幕チームを組織する。
柳生宗矩は徳川家のお抱えになり、徳川の世が安泰なことにも満足しているわけだけど「本当にそれでよかったのか?」と囁かれ、息子、十兵衛の剣の才能に嫉妬し、脅威を感じていたことを思い出してしまう。
――調べてみたらガラシャは原作には出ていないみたいですね。
でも、この世界に馴染んでません(笑)?
――めちゃくちゃ馴染んでる(笑)。しかもエロい!
驚くほどエロいですよ(笑)。文字通り色仕掛けで徳川将軍を骨抜きにして復讐を遂げようとする。ちゃんと脱いでくれるし(笑)。この映画を観たのは確か18歳前後だったので、当時の自分にとっては限りなく刺激的だった(笑)。
ただ、いま考えると、あの当時って、そういう裸ってわりとTVでも普通じゃなかったですか? ゴールデンタイムにオンエアしていたドラマ『時間ですよ』は銭湯の話だったので、堺正章のうしろには裸のお姉さんたちが普通に歩いていた。
――そうでしたね。『11PM』とか毎日、裸のおねえさんばかり出ていた。いまの放送コードからは考えられない大らかさ。
TVでそうだったから、映画はもっと大胆になるのは当然ですよね。
――『柳生一族の陰謀』のTVシリーズはどうだったんですか?
映画と同じタイトルなんですけど、別に宗矩が陰謀を企てるわけじゃない。徳川幕府VS公家組織という感じで、暗躍するのは烏丸少将。映画よりも細かいエピソードを拾っているし、もっと人物を深堀しているため、十兵衛のキャラクターの深みを表現出来ていましたね。
そのシリーズが終わり、もうちょっと十兵衛を観たいなと思ったころに『魔界転生』が公開されたんだと思います。予告編やTVのスポットで使われていたのは、十兵衛が耳なし芳一のように梵字を書いた顔で登場するシーン。しかも剣を構えた背景は業火じゃないですか。まさに「キター!」って感じで大興奮(笑)。
――本編でも、あの梵字のシーンはかっこいいですね。
しかも、もうひとりのキャラクターがお化粧した沢田研二だし、ケレン味だけで作ったような映画。僕は絵描きとして、そのケレン味にとても感銘を受けたんだと思います。違う言い方をするとハッタリの利かせ方を教えてもらった。そのころ描いていた『ヴェルバーサーガ』という漫画にはその影響がある。
――アニメーターとしても影響を受けたんですか?
アニメーターとして作品に参加したとき、演出さんから「このシーンは必要以上に大げさに描いてください」なんて注文を出されると、まず頭に浮かぶのはあの梵字が書かれた十兵衛の顔だったりするんです(笑)。
――それはいいですね。ところで、結城さんはそもそも時代劇のファンなんですか?
いや、そうは言えないと思いますよ。ただ、あの時代は普通にTVでオンエアされていたので観ていましたけど。『暴れん坊将軍』とか『遠山の金さん』とか、『桃太郎侍』というのもあった。今どきの人もタイトルだけは聞いたことがあるような作品がオンエアされていた時代という感じですよね。
僕が好きだったのは、そういう正統派じゃなくて、『木枯し紋次郎』や『子連れ狼』のアウトロー的なほう。そういう時代劇がかっこいいと思っていたので『魔界転生』になってしまうのかもしれない。
――いわば時代劇のニューシネマって感じですね。
そうなるのかな。もしかしたら深作監督と千葉真一も、そういうニューシネマ的時代劇、新しいアウトロー的なヒーローを描きたかったのかもしれない。
――そういう感じ、伝わりますよね。
もうひとつ、僕がこの作品に思い入れが強い理由は、永井豪さんのアシスタント石川賢さんがコミカライズしているところにもある。やはり、僕の世代にとって永井さんも石川さんもスペシャル。彼らの漫画で育ちましたから。石川さんの迫力の出し方やケレン味には大きな刺激も影響も受けている。そういう意味もあって、やっぱり『魔界転生』なんですよ。
【解説】
深作欣二監督による異色時代劇
『魔界転生』/1981年/日本/122分
監督/深作欣二 原作/山田風太郎 製作/角川春樹
出演/千葉真一、沢田研二、佳那晃子、緒形拳、真田広之、若山富三郎ほか
島原の乱で2万人のキリシタンとともに非業の死を遂げた天草四郎時貞。だが、悪魔の力によって蘇った四郎は徳川幕府に復讐すべく仲間を集める。それは、同じように無念を抱えたまま死んだ者たち。細川ガラシャ、柳生但馬守宗矩、宮本武蔵、宝蔵院胤舜、伊賀の霧丸の5人。彼らの前に立ちはだかったのは宗矩の息子で剣の達人、柳生十兵衛光厳だった。
『柳生一族の陰謀』に続く千葉真一=柳生十兵衛を主人公にした異色時代劇。監督も同じく深作欣二が務めた。企画を東映に持ち込んだのは山田風太郎の原作を出版している角川書店の角川春樹だったという。千葉真一が柳生十兵衛を演じるのは、もう1本のTVシリーズ『柳生あばれ旅』(1980年)を入れて本作で4度目。
1981年には『柳生十兵衛 魔界転生』という舞台も登場。天草四郎は女性だったという設定で志穂美悦子が演じ、十兵衛は引き続き千葉真一が演じた。こちらの演出も深作欣二。その後も舞台版はキャストやスタッフを代えて2006年、2009年、2010年、2011年、2013年、2018年、2021年と公演している。
また2003年に窪塚洋介=天草四郎、佐藤浩市=柳生十兵衛という布陣でリメイク。監督は平山秀幸。アニメ版は1998年、Vシネ版は1996年に製作されている。
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