押井さんがYouTubeを語るシリーズも第6回。押井さんがよく見るという食べ物系YouTubeチャンネルとして、あの有名チャンネルを挙げていただきました。彼のチャンネルから見えてくるものとは。
取材・構成/渡辺麻紀
<新刊情報>
加筆&楽しい挿絵をプラスして待望の書籍化!
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『押井守のサブぃカルチャー70年』が発売中!
当連載がついに書籍化します。昭和の白黒テレビから令和のYouTubeまで、押井守がエンタメ人生70年を語りつくす1冊。カバーイラスト・挿絵は『A KITE』(1998年)などを手掛けた梅津泰臣さんが担当し、巻末では押井×梅津対談も収録。ぜひお手に取ってみてください。(※本記事配信時点で「映画論・映像論」「ドラマの本」など)
押井守/著
『押井守のサブぃカルチャー70年』
発売中
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社
カバーイラスト・挿絵:梅津泰臣
文・構成:渡辺麻紀
全国の書店、ネット書店にてご購入いただけます。
実に潔くて幸福論として完結している「たっちゃんねる」
――YouTubeの6回目は食べ物系のチャンネル「たっちゃんねる」です。私も押井さんに言われて見たんですが、ただおじさんが食べているだけなのに、つい見ちゃいますよね。
でしょ? おそらくイラつかないからだと思うよ。イラつく原因のひとつである語りがなくてテロップだけだから。
――でも押井さん、これまで紹介してくださった『Fラン大学就職チャンネル』やナカイドくんのチャンネルは語りですよ。
『Fラン』はセリフで、ナカイドくんは声もいいし語りと言葉選びのセンスがよかった。そういうのは珍しいんです。彼が普通だと思ったら大間違いだから。大体、上手くないのに喋っているユーチューバーのほうが多い。そういうの、私はダメなんですよ。
――言葉のセンスと言えば、私もナカイドくんのチャンネルを見て「パチンカス」という言葉を知りました。
ナカイドくんが言い出したのか、ほかの誰かが言い出したのか知らないけれど「パチンカス」はなかなかいいよね。あらゆる方面でアレンジできる。「演劇カス」とか「映画カス」とか、「ソシャカス」というのは実際に言われているらしい。いわゆるソーシャルゲームばかりやっているカスのことですよ。
「パチンカス」というのは、その昔、「パチプロ」と言われていた人たちのことでもあるんじゃないの? 私の「立喰い師」のルーツでもある。本来なら職業にならないものを職業化するんです。「パチプロ」には尊敬の念も込められていたけどね。
私も学生時代、パチンコにハマっていて、パチプロの師匠がいましたよ。彼にパチンコ屋で、彼の師匠を紹介されたことがあって、「私は1日5時間しか(パチンコを)やらないと決めている」と言っていたよね。
――お、押井さん、5時間で「しか」なんですか?
そうだよ。私は12時間くらい店にいたんじゃないのかな? 私はダメなんですよ、引き際が悪いの。引き際を知るのは、やはり経験と技術だよね。私はそこまで行けなかった。
――は、はあ……。
おそらく学生時代、100万円くらいはつぎ込んだのかな? パチンコに。もってるお金はすべてつぎ込んでいたから。
――ということは押井さん、映画も観ていたから、映画カスでパチンカスでもあったと?
まあ、そうなるかな(笑)。でも、当時は別に映画カスじゃないよ。今でいう映画カスというのは、何となく映画をやっている人のことだよ。まあ、私に言わせればだけど。お金にならないのにやっているのが「カス」という解釈ですから。
たとえば私の知人の助監督。映画の仕事がないときは駐車場の誘導係を1日1万円でやっている。そんなヤツでも映画の仕事にありつくと「チーフ」という役職になったり「助監督」になったりする。彼の場合、映画という仕事だけ、彼の椅子が用意されている。だから、それにこだわる。たとえギャラが悪くても、映画の仕事なら受けるのは、自分の席があるから。社会的に承認されるんですよ。これもまた承認欲求だよね。
こういう仕事の選び方は、その人の生き方なんです。そこに行けば、自分が何者かでありえる。それが重要なんです。
本当は映画を諦めて、ちゃんとした職業につけばアルバイトをする必要もないだろうけど、やはりそれは出来ない。やっぱり映画をやりたい……立派な映画カスです。
――なるほど! YouTubeが生み出す新しい言葉ですね。そういう新しい言葉、「たっちゃんねる」にもあるんですか?
あるんじゃない?「チャーラー」とかさ。
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