ロシアをシベリア鉄道で横断した「盲目日記2018」【大根仁 4月号 連載】

おおね・ひとし●大河ドラマ『いだてん』完全版 ブルーレイ/DVD BOX1〜4発売中。

来年公開の映画の最終仕上げと、久しぶりにやる連ドラの準備、長年レギュラーでやっているキリン一番搾りのCM撮影などで、バタバタした春の日々を過ごしているが、常に頭の隅っこで気になっているのはウクライナ情勢。こんなに真剣にNHK-BSのワールドニュースを観るのも、新聞を一面から国際面までじっくり読むのも、トピック程度しか目を通さないYahooニュースの国際カテゴリーを隅々までチェックするのも、YouTubeで戦況の最新映像を探し求めるのも、初めてかもしれない。

日頃政治に無関心&ノンポリ、国際情勢についてもほぼ同様の自分だが、ウクライナを舞台にした“実質はロシア VS 西側諸国”というわかりやすい&他人事ではない構造、プーチンという絶対悪、今のところ政治家ヒーローのゼレンスキーの発信力、日々酷くなるウクライナ各地の惨状映像などなどは、「これはさすがに目に焼き付けておかなければならん」と脳内アラームが鳴っている。だがもどかしいのは、情報統制によってロシアの現状やロシア人が何を考えているのかがほとんど伝わってこないこと、そして何が本当で何がフェイクだかわからないことだ。

4年前の2018年の5月、NHK大河ドラマ『いだてん』の取材で10日ほどロシアに行った。自分が担当した第9話「さらばシベリア鉄道」の回が、日本初のオリンピアンの金栗四三と三島弥彦が日本からストックホルム大会に向かう旅の道中を描いた内容だったので、その追体験をしたいとNHKに申し出て、ウラジオストックからモスクワまでの9000キロを、シベリア鉄道に乗って取材旅行をさせてもらったのだ。

金栗四三はその道中を日記(*)に記していて、脚本・宮藤官九郎さんはその「盲目日記」になぞってその回を執筆したのだが、ならばオレもとその10日間の取材旅行を「盲目日記2018」として記録することにした。これは2019年の放送当時『いだてん』のホームページに掲載されたのだが、久しぶりに読み返してみると、自分が感じたロシアという国のとんでもない大きさや空気感、街の様子、風土、ロシア人の暮らしぶり、メンタリティや気風などなどが、稚拙・乱文乱筆ながらも伝わってきた。

*「盲目旅行~国際オリンピック競技参加之記」、通称「盲目日記」。

当たり前のことだが、そこにはロシア人の普通の暮らしがあり、彼ら彼女らの人生が……なんて大袈裟なことを言うつもりはないが、オレにはニュースが伝える「ロシア人の大多数が戦争に賛成」とか「プーチン支持率が80%超え」が真実とは思えない。そりゃ旧ソ連を感じさせるムードや、かつての鉄のカーテンを思い起こさせる暗部もあるにはあったが、出会ったほとんどの人は、我々と変わらぬ戦争とは無縁の“生活者”だった。

『いだてん』ホームページでは、コンプライアンス的にヤバい箇所が多々あったので、半分くらいカットせざるを得なかったのだが、今回完全版として掲載させていただく。
なおNHKには無許可なので、何か問題があったらごめんなさい!

盲目日記2018①
5月25日。
成田からオーロラ航空(まさかのプロペラ機!)でウラジオストックへ。空港にコーディネーター永井さんが迎えに来てくれ、ロシア人ドライバーのホンダ車でウラジオストックへ。このドライバーの運転がとんでもなく荒い! ほとんどカースタントレベル。涼しい顔で助手席にいる永井さんを見ると、これがロシアの標準なんだろう。Youtubeに世界中のドライブレコーダーの交通事故映像があるんだけど、ロシアの事故が飛び抜けて酷い理由がわかった。

1時間ほどでウラジオストックの街中へ。思ったより栄えている。
とりあえず駅に向かい、明るいうちに実景撮り。ほとんど無理かもしれないが、合成で使えるかもしれない。

ホームには早くもオレたちが乗るシベリア鉄道が到着している。やたらと客車が長い。

駅と隣接する港に行くと、タンカーや商船、軍艦や病院船など様々な船が停泊している。この港に今から100年以上前、金栗さんや弥彦たちが遥々日本からやって来たと思うと感慨深い。

今回撮影兼アシスタントで来ている韓国人のLEE君が軍艦を撮ろうと構えると中井さん「狙撃されるかもしれないので気をつけてください」と。軍施設や基地の近くで撮影していると、オデコに赤い灯が点いてそのままバキューン!と、狙撃されることが本当にあるらしい。マジか!

一通り撮影して日暮れ。
夕食で港の目の前にあるレストランへ。ロシア料理、悪くない。ビール美味い。

スーパーで水や果物を買い出しして、いよいよシベリア鉄道乗車。
案内された車両に乗ると、通路狭っ!そして肝心の寝台部屋が……狭っ!!
ここに大の男が三人、1週間昼夜を共にすると思うと……キツい旅になりそうだ。
外は真っ暗だし、最初の停車駅ハバロフスクまでは線路周辺に軍事施設があるので撮影NGと言われているので、到着するまでやることが何もない。

とりあえず荷物を整理して、それぞれのベッドの位置を決め、1時間ほど雑談がてらスケジュール確認をして、ウラジオストックのスーパーで買い込んだビール(アサヒスーパードライ、安かった)を飲んで、寝る。
寝心地、意外と悪くない。

盲目日記2018②
5月26日。
朝9時起床。快便。
狭くて固いベッドも意外と悪くない。
身体も痛くない。揺れも気にならない。
昨夜、オレより先に寝た永井さんのイビキがかなり大きく「ゲッ!」と思ったが、咳払いするとすぐに止まり、あとは朝まで静かだった。

朝飯は昨日スーパーで買ったおにぎりとバナナ、日本からもってきたインスタント味噌汁。おにぎりの具はスパイシーサーモン、トウモロコシとマヨネーズという微妙なものだったが、米は日本製らしく美味しかった。

朝飯後、撮影を始める。
寝台車側の窓と通路の窓にカメラを設置してそれぞれ回す。
今のところ代わり映えしない風景だが、永井さんによるとこれから4日間ほとんどこの景色は変わらないという。
が、これを撮ることが今回のメインミッションなのでとりあえず、少しでも景色が変われば回す。

なんだかんだで2時間くらい回して、大きな駅で39分停車。IQOSを吸いに外に出る。結構肌寒い。
永井さん、昼間は蒸し暑くて車内も臭くなるほどと言っていて、嫌だなあと思っていたが、ここまでは涼しく湿気もなく快適。

昼、オレがAmazonで買った災害用非常食として作られたインスタントご飯…赤飯、炊き込みご飯、わかめごはんを三人で分ける。お湯を入れて15分で出来上がり。シベリア鉄道には各車両給湯器があり、熱湯だけは24時間セルフサービス。全く期待しないまま食べてみると…美味い!全然美味い! 日本製すごい。

午後も引き続き撮影、合間に資料読み込み、昼寝、また撮影と資料読み込み、時計を見ると18時。が、外は超明るい。日の入りは20時くらいとのこと。

地平線に沈む夕陽を久しぶりに見た。

撮影終わったタイミングでまた大きな駅に停車。駅前のスーパーでビールやお菓子、バナナを買い出し。

夕食は食堂車。永井さん曰く「腐ったものを平気で出す」で、超不安だったが、頼んだビーフ、チキン、ポークのチーズ焼きはどれもメチャクチャ美味い! 全然腐ってないじゃん!

ロシアビールも美味くて大満足。
計3500ルーブル(約7000円)はちと高い気もしたが、他のロシア人はビールだけしか頼んでいないので、ロシア人にとってはやはり高価なのだろう。ロシア人の平均月収は400ルーブル(約8万円)なので、確かに贅沢だと思う。
そして、今は国内移動のほとんどは飛行機で、シベリア鉄道に乗ること自体、お金の無い人しかやらないらしい。

部屋に戻って、ビール飲んで、資料を読んで、寝る。
今夜は永井さんだけじゃなく、LEE君もイビキ。

盲目日記2018③
5月27日。
朝4時に起きて朝日の実景を30分くらい撮って、二度寝。

8時くらいに再起床、快便。今日は朝食を食堂車で。目玉焼きにピロシキ、コーヒー。ロシアの卵は黄身が薄黄色。永井さん曰く「エサで米を食べさせているから」とのこと。半熟具合も焼き加減も完璧で美味い。ピロシキに挟むとなお美味い。

部屋に戻るが、昨日と全く景色が変わらず、撮っても仕方がないし、日曜ということで撮影自体は基本的に休みとする。が、LEE君は真面目なので、少しでも景色が変わると、サッとRECボタンを押す。

11時まで緒方本、幻の東京五輪本を読む。その後、食堂車に行って13~16話の勉強。担当回以外も久しぶりにじっくり読み込む。いくつか気になる箇所はあるものの、直していいものやら。

14時過ぎ、大きな駅に着き、外でIQOS吸って出発。数時間おきのこのパターンにも慣れてきた。
部屋に戻って、昼飯。
ミニカップそばと松茸ご飯。美味い。

景色、聞いてはいたがまっっっっったく変わらず。移動距離は既に2000キロ、日本列島の長さを超えたのだが、マジで変わらない。森~林~野原~川~たまに家、村~のどれかが延々と続く。大きな山がないので平野をひたすら山手線くらいのスピードで走ってるカンジ。ほんと気が遠くなる。

時折、小さな村が見えるが、どの村もちょっとどうかと思うくらいのあばら家というか掘っ立て小屋というか、ほんとにそこらの木をテキトーに組み合わせて余った木で塀を作ったような、それか壁も屋根も塀もボロボロのトタン板で組み合わせただけみたいな漫画のような家ばかり。他所の国のことなので失礼なことは言いづらいが、「貧乏そう」という他ない。

と、永井さんがあっさりと「この辺に住んでいる人は全員貧乏です。下手すりゃ自給自足の村もあります」と。が、不思議と悲壮感はなく、どの家も絵になるというか、チャーミングだ。まあマイナス30℃になるという冬場のことを考えるとそんなことは言えないけど。

同じ車輌にいるロシア系の女の子(ベロニカ小1)とアジア系の男の子(3歳)があまりにもヒマなのか、オレたちの部屋に遊びに来るようになった。特に男の子は人懐っこく、部屋で暴れるくらい懐いている。リラックスし過ぎで屁をこきやがって、それがめちゃくちゃ臭い!

夜、途中停車駅で買ったピロシキとハンバーグ、日本から持ってきたセブンイレブンのインスタント鶏雑炊。ピロシキ、行商のオバちゃんの手作りらしくホームメイドな味(微妙という意味)。ハンバーグ(こちらも手作り、微妙)を挟み、醤油をかけてやっとなんとか食べられる味に。鶏雑炊、マジ美味い。セブン偉大なり。

朝日新聞本、『「坊っちゃん」の時代』シリーズ3巻石川啄木の回を読みながら寝る。啄木、志ん生に通じるクズっぷり。谷口ジローがこのキャラを楽しんで描いてるのが伝わってくる。

それにしても、シベリア鉄道の揺れがもはや心地良くなってきた。揺りかご気分で就寝。

盲目日記2018④
5月28日。
8~9時くらいにそれぞれダラダラと起き出す。快便。朝食もそれぞれ。なんとなく3人のペースが出来てきて、誰が誰に気を使うとか遠慮とか仕切るとかなくて、良いカンジ。

永井さん、LEE君はカップ麺、オレはセブンイレブン蟹雑炊とバナナとコーヒー。モンプチコーヒー、もっと持ってくれば良かった。そういえば2日目、オレのモンプチコーヒーに興味を持った客室係のお姉さんに1つあげると、それ以来上機嫌でオレたちに色々と優しい。永井さん曰く、ロシアの女性はとにかくプレゼントに弱いらしく、花一輪で一ヶ月ご機嫌らしい。ロシア男はクズ野郎が多く、基本的に酒飲みで働かないヤツばかりで、少しでも優しくされるとコロッといくらしい。へええ。

今日も変わらぬ景色を撮り続ける。が、木々が広葉樹オンリーから針葉樹が混ざるようになってきた。
しばらく読んでなかった9話を、ウラジオストック~シベリア鉄道の体験を踏まえて改めて読んでみる。
金栗や弥彦は車内でどうやって時間を潰していたのだろうか? 日本で鍛え上げた身体を持て余していたことだろうが、どうやって解消していたのか?
車内でトレーニングをしたりしていなかったのか? 脚本には旅の行程は書かれているが、ストレスの進行や行程が描かれていないような気がしてきた。
前から気になっていた、ウラル山脈の短歌のくだりを車内トレーニングや四三のストレスが溜まっていく描写に変えられないか?などを検討。

昼、LEE君が持ってきた自衛隊食ミリメシ(ミリタリー飯)のウインナーカレー。袋に水を入れて20分温めて出来上がり。味はまあ、レトルトカレー。LEE君のスキヤキハンバーグ飯を分けてもらうが、まあレトルト。

車内にシャワー室があることがわかり、150ルーブル(300円)払って入る。ものすごく水圧が低く、シャワーヘッドからダラダラとお湯が出るのみ。そして湯温度の調節がメチャ難しく熱湯か冷水のどちらかしか出ない。おそらく人生最低のシャワー。いや、スイスの安ホテルの共同シャワー以来かな。いやいやメキシコの……いやいやキューバのサンテアゴデキューバの……いや!去年の夏、下田で泊まった糞ビジネスホテルよりマシだ。 やっとちょうど良い温度を見つけて、3日ぶりに全身を洗う。

午後、30分停車の大きな駅。
家富さんに頼まれていた大河紀行用に電車の外観や駅の様子、ちょうどロシア軍に入隊する若者を家族友人恋人が送り出して盛り上がっていたのでその様子も撮る。車内通路、寝台部屋もこれまで撮ってはいるが、基本シベリア鉄道の撮影には政府の許可が必要とのこと。ってことは、撮っても意味ないんじゃないかな? 車窓カットはいくらでも誤魔化しようがあるけど。
この駅でベロニカのロシア人家族と、男の子のアジア系家族が降りて、車輌内が急に静かになった。
いる時はうるさかったけど、いなくなると少し寂しい。それにしてもアイツの屁は臭かった。

午後5時、待ちに待ったバイカル湖。

デカい!とにかくデカい!海にしか見えない!!
さすが世界一の湖。LEE君、「これ日本の海で撮っても同じですね」と、冷めた感想。オレもそう思った。そして日が暮れるまで4時間、延々バイカル湖沿いを走る。当然景色も大して変わらず。

22時半、イルクーツクという大きな街に着く。電車が街に近づく時、4日ぶりに街のネオンの灯りを見た。胸がかきむしられるような、変な気持ち。なんだ?この気持ちは?
イルクーツクはシベリア西部で一番大きな街。

この街を出発すると、いよいよシベリア地方から脱出。
売店で缶ビール買って、3人で部屋飲みして、夕飯はおつまみのサキイカとナッツ。
朝日新聞本を読みながら25時就寝。
朝日新聞の歴史もまた、大河ドラマになるくらい濃い。

盲目日記2018⑤
5月29日。
朝8時起床。快便。朝食は非常食のインスタント山菜おこわとシジミ味噌汁。バイカル湖を越えてシベリア地方からロシア中部に入り、ど田舎から普通の田舎に変わってきたカンジ。が、そのぶん現代物が増えてきて撮影には向かず。要するに撮っても無駄。今日は一日やることないかも。資料本読むのも飽きたので、午前中はダラダラと横になってiPadのKindleで「ザ・ファブル」を読み返したり、Tumblr見たり、Netflixでダウンロードしておいた「サバイバー」のシーズン2を観たり。

昼過ぎ、名もなき(あるけど)小さな駅に停車。天気は良いけど、ドンヨリとしたムード。ありえないほど汚い川が流れている。小さなスーパーで水など補給。

昼ごはんはスーパーで買ったビールとソーセージロールパンと、永井さんがモスクワから持ってきてくれたサキイカ(何故?)とピーナッツ。

16時半クラスノヤルスク着。駅前には広場、レストラン、バスロータリー、タクシー、スーパーマーケット。久しぶりの都会感。人もなんとなくオシャレ。が、永井さんに言わせると「普通の田舎町」とのこと。言われてみれば確かに日本の地方都市のさらに小さな町くらいかも。今までがいかにド田舎にいたかということか。ロシアの兵隊が任務を終えて帰還したようで、大勢の人が軍人を出迎えて大騒ぎしている。日本ではまず見かけない風景。

夕方、食堂車に行きコーヒーを飲みながらPCで書きもの仕事。揺れがキツくてキーボードがうまく打てない。当然はかどらない。2時間ほどやって途中で挫折。

18時くらいから21時くらいまで、暮れない夕陽をただひたすら撮ったり、見たり。3人共話すこともなく、漫然と過ごす。漫然という言葉がこれほど似合う空間もない。
話好きの永井さんもずっと黙っている。

そういえば、ここまでコーディネーター永井さんのことを書いていなかったが、彼はモスクワ在住の47歳。ロシア人の奥さんと結婚して、こっちに住むようになったらしい。
モスクワでは日本語学校の先生をやっていて、時々バイト的に撮影のコーディネーターをやるらしい。

日本人と話すのが久しぶりでテンションが上がっているのか、元来の話好きなのかわからんが、とにかくお喋り。出会った時から目に入るものすべてを解説してくれるのだが、それが時々ウザい。先生という職種のせいか、なにかこう、教師口調というか。ロシアがいかに大きいか、ロシアがいかに素晴らしいか、そしてロシアがいかにめんどくさく業が深い国か、を教えてくれるのだが、それがまさに大森兵蔵の西洋かぶれと同じロシアかぶれ。そしてちょいちょい奥さん自慢が入るところなんぞ、まさに大森と亜仁子じゃないか。はっ!そういえば毎夜のイビキは大森の咳と同じく、うるさくて眠れねえ。悪い人ではないし、ほんと親切で良い人なんだけど、さすがに4日間一緒にいると……これが大森か!!

金栗と弥彦のシベリア鉄道の旅を追体験するつもりが、大森に対するストレスまで体感できるとは思わなかった。
これで「毎日正装しなさい」とか言われたらマジでキレるわー。
昨日辺りから、さすがにウザくなってきて、ちょいちょいシカトしてるのだが、そういう時はLEE君が拾ってくれるので助かる。
LEE君に対するストレスは皆無。ほんと良いヤツ。よく働くし気が利くし真面目だし。イビキはうるさいけど。

陽が暮れて、やることもなくなり夕飯。荷物を減らそうということでLEE君のミリタリー飯、すき焼きハンバーグご飯を食べる。これ、よく出来てるけどいかんせん白飯が固い。永井さんが持ってきたロシアのインスタントスープ、コーンポタージュと言っていたが、まったく違う味で不味い。

24時、消灯。
早朝5時にはノヴォシビルスクに着き、この街で一泊する。
四泊五日のシベリア鉄道前半戦がこれでようやく終了。
寝付けにウィスキーを飲む。

盲目日記2018⑥
5月30日。
朝5時、客室乗務員の女性(大きい方=無愛想な方)に起こされて、出発の準備。とはいえ、昨夜ほとんど荷造りはしていたので、ゴミを捨てて身の回りのモノをまとめる程度。シーツや枕カバーを返して、布団をたたむ。他の部屋を見ると、ゴミだらけで布団もそのままだったりするので、日本人ってこういうところちゃんとしてるよなあ、と思う。

5時半、ロシアのほぼ中央に位置する街、ノヴォシビルスク着。気温7℃。未便。やっと着いたー! ロシアで三番目に大きな街らしく、ってことは日本で言えば名古屋? 駅前が都会!ビルがある!ケンタッキーもある!

駅から徒歩3分のホテルに荷物を預けて、朝食でケンタッキーのモーニングセット。タコスのようなカンジで中にチキンとレタス、トマト、半熟卵などが巻いてあるロール状のやつ。美味い!帝国アメリカの味! シベリア鉄道内も覚悟していたほど食事は酷くなかったし、日本から持ち込んだインスタント食品も、途中の駅で買った地元オバちゃんハンドメイドピロシキも、食堂車のご飯もそれなりに美味かったが、飽食日本ジャンクフードにまみれて育った体にケンタッキーが沁み入る。

7時、ホテルに迎えにきた個人タクシーでノヴォシビルスク郊外まで行き、シベリア鉄道客観合成ショット用の素材撮り。高速道路から田舎道に入るといきなり道路のど真ん中に牛やら羊やらが200匹くらい横断しててビビる。
あちこち移動しながら、12時くらいまで撮って街に戻り、銀行やら電気屋やら雑用。

若いドライバーの男の子にランチのお勧めの店を聞いて行くと、大当たり!
コースで1000ルーブル(2000円)という、ロシアでは超セレブな値段だが、これまで自炊と激安ロシア飯でやってきたのだからバチは当たるまい。サラダ2種、スープ、メイン2種(魚と肉)すべて美味かった。肉は何のレバーかわからないけど、レバーの概念を覆す味。店のコに聞くとウサギ肉とのこと。へええ、ウサギのレバーってこんなに美味いのか。

食べ終わって、店の外でIQOSを吸っていると、大学生風のロシア人の男の子2人がIQOSを吸っていて、目が合い「あれ? IQOSじゃん!」ってカンジでちょっと英語で話す。ロシアでIQOSを吸っているのは珍しいらしい。そしてIQOS仲間のシンパシーなのか、ロシアのIQOSを一箱くれるというのでもらったらパーラメントだった。日本ではマルボロしかないので、これはレア。日本では肩身の狭い喫煙者だけど、ロシアはまだまだ寛容。タバコってこういうことあるんだよなあ。タバコは世界を繋ぐ。

ホテル横のシベリア鉄道博物館へ。今回のもう一つのメインミッションなので、ガイドをお願いして色々話を聞く。ガイドのおじさん、鉄オタらしくこちらのマニアックな質問に喜んでいる。そりゃそうだ。「1920年の食堂車の給仕の制服は?」なんて聞くヤツは初めてだろう。色々話していると、ノヴォシビルスクの近郊に過去の電車や客車を展示しているテーマパークがあるらしく、そこに行けば当時の客車や食堂車があるとのこと。ゲッ!マジか。ウサギのレバーに感動している場合じゃなかった。急いで向かうことにするが、17時クローズとのことであと1時間ちょっとしかない。駅前から出発しているバスで40分と聞き、走って駅に行き、バスに乗る。永井さん「間に合いますよ!良かったですね」と、乗るや否や何故かイビキをかいて昼寝。

ところが渋滞で30分経っても5~6キロしか進まない。Googleマップで調べると、鉄道テーマパークまでの距離の4分の1しか進んでいない。残りあと45分。絶対間に合わないじゃん! 永井さんを起こして「タクシーに乗り換えましょう」と、次の停留所で降りる。もう!寝てる場合じゃねえだろ!こういうのはコーディネーターが判断するんじゃねえのか!

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