ロイヤルホストから違和感をこめて…02「窃盗犯の異名列伝」高橋ユキ連載

「つけびの村」の著者で「ロイヤルホストを守る市民の会」代表でもあるフリーライターの高橋ユキさんがお届けする、ブロス的社会派連載!
事件や報道を追う中で引っかかった“違和感”を、ロイホでひと息つきながら軽妙に綴ります。
(マイブームメニューの紹介つき、みんなもロイヤルホストを守りに行こうね!)

写真・文/高橋ユキ
編集/西村依莉

ロイヤルホストはモーニングもすごい。英国風パンがお気に入りです。

 

11月上旬、こんなニュースに目を奪われた。

 

空き巣の帰りはグリーン車 捜査員が「ひかりの男」と呼ぶ51歳男を追送検

11月5日 日刊スポーツ(共同)

 

 常習累犯窃盗罪で公判中の男が、埼玉・群馬・栃木・愛知の4県で空き巣を働いていたとして追送検されたという記事である。

〈県警によると、さいたま市のホテルを拠点に鉄道で各地に移動し、空き巣を終えて帰る際には新幹線や在来線のグリーン車を利用していた。計59件(約710万円相当)の被害を確認し、捜査を終結したとしている。〉

〈山路容疑者は、愛知県に移動する際に東海道新幹線のひかり号を利用しており、捜査員の間で「ひかりの男」と呼ばれていた〉

「ひかりの男」。移動先で空き巣を行い、戻りの際に新幹線ひかり号に乗るため、そう名付けられたというが、なんとなく煌びやかな紳士をイメージしてしまう。一度聞いたら忘れられない。

 

窃盗犯のなかには彼のように、捜査員から“異名”をつけられている窃盗犯がいる。私が改めて紹介するまでもなく、すでにインターネットのあらゆる場所に、そんな“異名”の記事があるので、そちらを参考にしたい。

2016/05/22 ABEMA TIMESより

声かけタマ子(75):女性に声をかけ、道を聞いて注意を逸らした隙に財布を盗む。

 

デパ地下のさと婆(83):デパ地下でスリを繰り返し、スリ歴65年、逮捕回数は20回。

 

ケツパーの梅じい(81):尻ポケットの財布を狙うスリ。25歳で初めて逮捕され、今回で20回目の逮捕。捜査員に「年のせいで動きが鈍くなり財布が重く感じた。オレはだめだ」と引退をほのめかした。

 

ブランコの青木(69):椅子やハンガーにぶら下がっているものを盗む。金品だけでなく財布に入ったクレジットカードもスキミングする技術を持つ。

 

幹線の水さん(61):新幹線のグリーン車の窓側などにかけられたスーツのポケットなどからスリをする。30年繰り返し、10回逮捕。

 

平場のシゲさん(81):平場とは「日常」という意味で、警戒していない人を狙う。17才頃から20回以上スリで逮捕。46年間を刑務所で過ごす。

 

“異名”は捜査員らが彼らをそう呼んでいたとして報じられる。手口や彼らの主戦場にちなんだワードが入るのがセオリーのようだ。上記記事「ブランコ」は「ブランコすり」のことで、これは何かにぶら下がっている上着や荷物から財布を抜き取る手口だ。尻ポケットから財布を抜き取る手口を「ケツパー」という。財布の場所を指で確かめてからスリとる手口の「エンコヅケのマツ」や、ギャンブル場を主戦場とする「ギャンのタメやん」などもいた。

仕事には進捗報告はつきものだが、捜査員らも会議で「え〜次は声かけタマ子について報告します……」など、真顔で報告していたと思うと心が震える。

 

5〜6年前ぐらいまでは、こういった記事には、昭和の時代からスリ稼業を続けてきた、いわゆる伝説の高齢スリ犯らの名が並んでいたように思う。「ケツパー」や「ブランコすり」などの語感にも昭和を感じる。ところが彼らも高齢になった。ケツパーの梅じいに至っては「年のせいで動きが鈍くなり財布が重く感じた。オレはだめだ」と体力の限界とも取れる供述をしていた。

 

私は一時期、こうした高齢の、昭和感ただよう異名を持つ窃盗犯(主にスリ)らを傍聴することに熱心になっていた。いつか彼らは亡くなり、忘れられる。見届けようという気持ちがちょっとあった。報道されている以上のことを知りたくなるのが傍聴人の性である。

 

デパ地下のさと婆(東京地裁・2016年傍聴)

当時83歳、前科18犯。このときはデパ地下を舞台にせず、上野駅コンコースでの物産展にて、品物を物色している女性のバッグから財布をスリとった。東京の西の方に住んでいたが「肛門の病院に行くため」と家族に言い、自宅から遠い上野に出かけていたという。公判では足元がおぼつかず、ヨロヨロとした足取りで証言台の前に立った。

 

ケツパーの吉井(東京地裁・2016年傍聴)

「ケツパー」の異名を持つスリは1人だけではない。梅じいもいれば、吉井もいたのだ。彼は当時70代。小田急線の車内において、男性の乗客の尻ポケットから財布をスリとった。否認していた。

 

平場の重さん(東京地裁・2012年傍聴)

まさに冒頭で引用した記事に出ていたシゲ(重)さんである。当時80代。JR東京駅通路にて買い物をしていた女性のバッグから財布を盗もうとした。九州に住む兄のところに身を寄せていたが、金が欲しく上京して犯行に及んだ。

 

ブランコの青木(東京地裁・2013年傍聴)

池上本門寺の境内で参拝客のバッグから財布を盗もうとした窃盗未遂罪で公判が行われていたが否認していた。逮捕時60代。

 

4人のうち、否認していたのはケツパーの吉井ブランコの青木だった。彼らにとっては逮捕されること自体が失敗を意味する。窃盗業界において、60代〜70代はまだ引退など程遠い、バリバリの現役なのではないか。など、答えの出ないことを考えてしまうが、まずその前にそもそも、捜査員らはなぜ、こんな珍妙な異名を彼らに授けるのかが気になるところだ。とはいえこれも、私が考えたところで、答えに辿り着けるわけがない。『泥棒刑事』のご著書のある元刑事・小川泰平さんに取材が必要なのではなかろうか。と思いながらGoogle検索で「窃盗犯 異名 理由」と検索するとたちまち答えが得られた。小川氏に聞くまでもなかった。というか、小川氏がこれについて解説している記事が出てきた。

 

「令和のキャッツアイ」に騒然! 捜査三課の元刑事が語る、連続窃盗犯に“異名”がつくワケ

2020/2/22 サイゾーウーマン

〈連続窃盗犯の“異名”は、「捜査する中で自然とつけられるもの」だという。例えば、捜査員が張り込みを行う中、携帯電話で連絡を取り合う際などに、“異名”が用いられるのだそうだ。

「現行犯逮捕のときは別として、捜査員が数カ月かけて行動確認を行うような窃盗犯には、よくつけられますね。なぜかと聞かれると、捜査上、何か特別なメリットがあるわけではないのですが、捜査員の士気が上がることはあります」〉

 

連絡を取り合う際に便利であること、また捜査員の士気が上がることなどから、こうした異名がつけられると小川氏はコメントしている。昨年、ホストの男性宅から大金を盗んだとして逮捕された20代の女3人組は、捜査員らに「令和のキャッツ・アイ」と呼ばれていたという……本当に士気が上がるのだろうか。若干疑いが残る。複数の情報を得るべく、さらに検索してみたところ、次は産経新聞の記事が見つかった。

 

風呂屋のミッチー、シュガー…泥棒たち「あだ名列伝」のナゾに迫る

2017年4月3日

〈「あだ名つきの窃盗犯を捕まえると、やっぱり盛り上がる」(捜査関係者)。そのため、現場の指揮官が士気を上げるためにあだ名をつけることもあるそうだ〉

 

ここにも「士気を上げるため」とあった。このコメントをしている捜査関係者が誰なのかという疑問はやはり残るが、士気を上げるためという説は濃厚だと認めざるを得ない。たしかに、捜査員だけでなく傍聴人としても、そんな珍妙な異名をつけられている者たちの事件を傍聴したいという気持ちにさせられた。私の士気は間違いなく上がった。彼らの狙い通り、世の中も関心を持った。

 

しかし冒頭の「ひかりの男」はなぜ「のぞみ」を利用しなかったのだろうか。記事によれば、愛知県での犯行時に「ひかり」を利用していたとあった。ということは豊橋から「ひかり」に乗ったのだということがわかる。なぜわざわざ豊橋で犯行を? しかも東京方面行きの「ひかり」が豊橋に停まるのは約2時間に1回程度。東京までは1時間21分かかる。「こだま」は停車駅が「ひかり」よりもはるかに多いが、東京までは2時間9分。便数の少ない「ひかり」にわざわざ乗るよりも、「こだま」で東京に戻った方が早いのではないか? 世の中は分からないことが多すぎる。

 

高橋ユキ
1974年福岡県生まれ。裁判傍聴グループ「霞っ子クラブ」を結成しブログで裁判ルポを発表したのを機にライターとなる。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『暴走老人・犯罪劇場』、共著に『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』など。最新刊『つけびの村』がノンフィクションとしては異例のヒット作に。また、大好きなロイヤルホストを食べ支えるべく「#ロイヤルホストを守る市民の会」を発起。SNSを中心にその活動はじわじわと広まっている。
Twitter:@tk84yuki
ニュースレター:https://tk84yuki.theletter.jp/

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TV Bros.編集部
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