KEN THE 390さんからhimeへの金言「現状維持はリスクでしかない!」【2021年11月 lyrical school・hime連載「社会人でびゅ〜!」04】

前編に引き続き、ラッパーとしての活躍はもちろん、「PRODUCE 101 JAPAN」のトレーナーや、「ヒプノシスマイク」の舞台や楽曲制作にも携わるKEN THE 390さんが、himeさんに社会人としてのアドバイスと提言を授けます。経験と実績に裏付けられたKENさんからの金言に、himeさんも感動しきり!

 

取材&文/高木”JET”晋一郎  撮影/佐野円香

会社員を辞めてラップ1本になってしばらくは減りゆく残高を見つめる日々でした!(KEN THE 390)

 

hime 前編ではKENさんのサラリーマン生活のお話を中心に伺いましたが、サラリーマンを辞めるときに悩まなかったんですか?

 

KEN THE 390 なかったかな。ラッパーの活動も増えてきて、サラリーマンとラッパーを天秤にかけないといけないことが多くなってきたんだけど、そうすると自分のベーシックは「ラッパー」だから、迷いなくラッパーを選んだって感じだね。だから上司に「ラップに専念しようと思います」って伝えて。冷静に考えたら結構ヤバい退社の理由なんだけど(笑)。

 

hime 会社のかたはなんて仰ってました?

 

KEN THE 390 「そんなに本気なの?とりあえず後任と引き継ぎまでやってからお願い」って(笑)。ただライブやCDでちょっとはお金が入るようにはなってたけど、食えるほどではなかった。

 

hime そんな状況でサラリーマンを辞める決断をするのはすごいですよね。

 

KEN THE 390 だからサラリーマンのときに作った蓄えがやばくなった頃に、エイベックスとの契約が決まるっていう、かなりの綱渡りだったよ(笑)。

 

hime 辞めてすぐは、ラップで稼ぐことは出来なかったんですか?

 

KEN THE 390 ぜんぜん。残高がみるみる減っていった(笑)。でも世の中って「やってみないとわからない」ことが本当に多いと思う。普通に働いてると、フリーランスになるのは二の足を踏みがちだけど、やってみれば「こういう感じか」「自分には向いてるな/向いてないな」っていうのがわかると思うんだ。サラリーマンも同じで、一回やってみれば「他の会社でも働けるな」ってことがわかると思う。だって会社辞めて海外留学して、戻ってきて別の会社に入るなんて珍しくないでしょ?

 

hime そうですね。確かに。

 

KEN THE 390 再就職の面倒くささとか、給料の上がり下がりはあるかも知れないけど、会社を辞めても食いっぱぐれることはない、とか、究極言えば死なない、ってことに気づけたのが、学生時代との一番の違いだった。やっぱり学生のときは「就職というレールに乗らなくちゃ、もしそこから外れたら……」っていうのが漠然とした不安としてあったけど、一度サラリーマンを経験してみたら、もしレールから外れても、別のレールに乗ることは出来るし、色んな方法があるなってことが見えてきて。

 

hime ……私って知らないことがいっぱいあるな〜(笑)。

ーーそしてエイベックスからメジャーデビューを果たしますが、メジャーでの活動を振り返ると、そこにどんな思いがありますか?

 

KEN THE 390 なんだかんだで、メジャーはやっぱり大変だったかも知れない。僕はそこまで向いてなかったかな。

 

hime それはなんでですか?

 

KEN THE 390 僕はラップが生活の拠り所だし、「曲を作るっていう行為」が何より好きで。でもメジャーへ行くと、「シングルはラブソングで」「売上のためにこことタイアップを」「こういう流行りを意識して」っていうような意見が当然会社から入ってくる。それは僕もサラリーマン時代にはプロジェクトを動かすために同じような(客観的なデータに基づいた)システムを取り入れてた訳だから、方針としては分かる。だけど、こと創作活動においては、自分のパーソナルな部分と楽曲制作が重なってるから、そこに踏み込まれるのがすごく苦手だったんだよね。だからインディで自分のレーベルを立ち上げてから制作がより面白くなったし、いまもラップが続けられてるのは「自分でやってる」ことが大きいんだと思う。

 

hime メジャーのときは最初からそれに気づいたんですか?

 

KEN THE 390 いや、わからなかった。よくわからないけど曲作りが辛いって感じてて、独立してから「そういうことだったんだ」って気づくというか。オーダーを勘案して作品づくりをするっていうのは得意な方かと思ってたんだけど、それをサラリーマンとして音楽以外の仕事でやるのと、音楽創作者としてやるのは全然違った。

 

素の自分ではアイドルになりきれないと気づいてからは、「himeというキャラ」になりきるようにしています!(hime)

 

ーーhimeさんは、やってみて苦手だと気づいたことはありますか?

 

hime う~ん、アイドルとか?

 

KEN THE 390 あっはっは。それなのに10年出来てるなら向いてるよ(笑)。

 

hime だからこそ「アイドルになりきってる」というか、素のままの自分ではアイドルは出来ないと気づいたから、「himeというキャラクター」を作っているのは大きいと思いますね。

KEN THE 390 みんな色々あるね(笑)。でもメジャーに行って活動の範囲は大きくなったし、いいこともいっぱいあったよ。

 

ーーMステにも出られましたね。

 

KEN THE 390 青山テルマ「届けたい… feat. KEN THE 390」で出してもらって。

 

ーーそして歌詞を飛ばすという(笑)。

 

hime そうなんですか! 緊張でですか?

 

KEN THE 390 そうだと思う。リハまでは完璧だったのに、本番で歌詞がスコンと抜けて、途中ではにゃはにゃしちゃうっていう。で、本番終わって楽屋に帰ったらみんなお葬式みたいな雰囲気になってて、「……番組関係者に謝りに行こう」って(笑)。

 

ーーでもテレビの前で見守ってたヒップホップチームは、「間違えた!……けど乗り切った!!」ってぶち上がりましたよ。

 

KEN THE 390 そして「フリースタイルダンジョン」で漢さんが間違え、R-指定が間違え(Creepy Nuts✖️菅田将暉さんとのコラボ楽曲『サントラ』披露時)、っていう、「テレビでラッパー歌詞間違えがち問題」として脈々と受け継がれていくという(笑)。まあ、そんな色々があって、これ以上メジャーのやり方に寄り添って続けていくのはさすがに無理っぽいなと思って、メジャーを離れて10年前に自主レーベル「Dream Boy」を立ち上げ、7年前にはそれを会社化したんだよね。やっぱりヒップホップをやるなら、「その人間が語るべきこと」をちゃんと形にしたほうが強いと思う。僕の場合はサラリーマンの経験だったり、マッチョな世界とは離れてることが、自分のオリジナリティでもあるんだ。同じように、自分で会社を作って、「ゼロからすべてを作る」ってことも、自分のバックグラウンドになると思ったんだよね。

 

hime もっと自分の経験や背景を増やすという感じですか?

 

KEN THE 390 そうそう。そうすれば自分の曲にパワーが生まれるなって。そういうことを複合的に考えて独立したんだよね。それにどんな大変なことがあっても、自分のベースにはラップがあるから、全てラップに還元できるんだよね。思い悩んだり経験したことは、曲のバックグラウンドになる。だから俺がラップをする限り、結局起こったことは全部プラスになるっていうか。

 

hime すごいな~。

 

KEN THE 390 ネガティブな気持ちも当然生まれるけど、それが曲になれば結局ポジティブになるっていう。だからラップがあって良かった(笑)。しかも自分でレーベルをやってるから、作りたいな、出したいなと思ったらすぐ出せるのは本当に幸せなことなんだよね。

 

hime もう立派すぎて何も言えない……(笑)。

 

KEN THE 390 いやいや。自分でレーベルを立ち上げたこの10年は、自分のキャリアの中でも良く出来てると思うし、満足度も高い。会社経営含めてお腹痛くなることも多いけど(笑)、でも自分で自分の責任が取れるのは大きいかな。自分の会社を起点に、自分の曲はもちろん、舞台やアニメに曲を提供したり、ラップに紐付いたサブプロジェクトを動かしながら、自分の活動も展開出来るっていうのはやっぱり面白い。やりがいもある。himeちゃんも会社を設立したらいいんじゃない?

 

hime え!私ですか!?

 

KEN THE 390 ラッパー/アイドル/社長って肩書を増やしていくのはどう?

 

hime そんなこと、考えたこともなかったです(笑)! でも最近、risanoが私を社長って呼ぶんですけど。

 

KEN THE 390 risanoちゃんは未来を予言してるのかも知れない(笑)。

 

hime だといいですけど(笑)。KENさんとお話してるとすごく前向きになる!何でも出来るような気になってきます。やっぱり行動力がすごいですよね。私は行動に移せないことが多いんですけど、KENさんって大きい決断でも軽やかにされますよね。

 

KEN THE 390 僕の場合は社会人を続けるか、ラッパーか、ってチョイスを迫られたけど、今はそこに悩まなくていい状況になってる気がするんだよね。別の仕事を持ってるからってアマチュアでは絶対にないし、仕事しながら休みの日にライブや制作してるラッパーなんて全く珍しくない。

 

ーー「Life Story feat. ILL-BOSSTINO」で「武道館の翌朝も俺は作業着」と歌ったZORNは、職人として現場作業しながら武道館どころか横浜アリーナのワンマンまで辿り着いたわけで、ラップにおいては「本業」「副業」という発想自体がもう古いかも知れませんね。

 

KEN THE 390 確かに。プロとアマの境がなくなって、みんながいろんな立場で、いろんなラップをする方が健康的だし、シーン自体発展していくと思うんだよね。だからもっとみんなラップして欲しい(笑)。

 

hime 私は大学のゼミで経営学の組織論をやってたんですが、そこで「KANDYTOWNだったらこうします」「BADHOPはメンバーごとにこういう役割がある」ってガイダンスやシミュレーションを発表してたんですね。みんなはポカンとしてたんですけど。

 

KEN THE 390 ……そりゃそうだろうね(笑)。

 

hime アハハ。でも、それは「ラップはすごく自由」「みんなもラップをやったらいいと思う」っていう話をしたかったって部分もあって、いまのKENさんのお話を訊いて、私は間違ってなかったなって(笑)。

 

KEN THE 390 それは良かった(笑)。

 

hime 私も大学を卒業するときにラッパーか、アイドルか、就職か、みたいな選択をしなくちゃいけなかったんですけど、どれをやってもいいですよね。その認識がもっと広がったらいいなって。

 

KEN THE 390 俺がもしゼミの先生だったら、録音してリリースしちゃうまでやったかも。

 

hime なるほど!

 

KEN THE 390 いまって、音楽史上、最高に軽い気持ちでリリース出来ると思うんだ。一番最低限の制作でいいなら、トータルで1万円もあれば配信まで出来るし、「遊びで録りました」で終わりじゃなくて、それがリリース物として世界で聴かれるようになるってわかったら、面白さは全然変わると思うんだよね。

 

hime そうですよね。楽しいですよね。

 

KEN THE 390 飲み会の話題にもなるじゃん。「俺の曲、サブスクにあるんだよね」って(笑)。

 

hime アハハ。たしかに。

 

KEN THE 390 これはラップだから出来ることでもあるんだよね。歌じゃやっぱり難しい。

 

ーー歌がそもそも上手いか、メロディが書けるか、譜割りと合わせて歌詞が書けるか、と考えるとハードルは高いですね。ラップはそれが可能なのは、まさにRHYMESTER「グレートアマチュアリズム」で宇多丸さんが言った「スッゲー敷居低い歌唱法」だから出来ることで。

 

KEN THE 390 ラップはとりあえずラップすればなんとなく形になるっていう、最初の一歩が異常に簡単だから。そういう存在が増えれば、聴いたことのないとんでもない才能が生まれる可能性もある。

現状維持って一見楽に思えるけど自分を目減りさせてる時点でリスクだと思う(KEN THE 390)

 

hime 私、最初の一歩がすごく慎重になっちゃうのが悩みなんですけど、やってみなきゃな、っていう気持ちになりました。

 

KEN THE 390 熱くなったときに一気にやっちゃうのが大事なのかな。テンションって絶対に冷めていくものだから。例えば曲のイメージが思いついたら、それをトラックメイカーにすぐ話すと、それはプロジェクトとして動き出すけど、一晩寝かしたりすると、そのテンションは収まっちゃうし、2日経ち、3日経ちすると、懸念材料の方が多く思いついちゃって、完全に火は消えちゃう。

 

hime そうですね。

 

KEN THE 390 だから熱いうちにまずは一歩目を踏み出して、そこにハードルがあったなら、乗り越えるなり、立ち止まったりすればいいわけで。

 

hime そうですよね……ソロをやりたいってずっと思ってるんですけど、それも行動に全然移せなくて。

 

KEN THE 390 それはなぜ?

 

hime すごく壁を高く設定しちゃってたり、そこで失敗したくないっていうプライドですかね……。あとやりたいことが定まってないんですよね。これもやりたい、あれもやりたい、って頭の中がまとまらないのもあって。それで動きにくくなっちゃって。

 

KEN THE 390 熱はあっても、それが動かないと「今じゃなくてもいいか」ってなっちゃうよね。

 

hime そうなんですよ!

 

KEN THE 390 自分に言い訳して、折り合いをつけちゃう。そうすると現状維持が一番楽になっちゃう。

 

hime あああ……まさにそれです(笑)。

 

KEN THE 390 でも現状維持ってリスクがあるんだよね。普通は「現状を変えるようなアクションを起こすと、そこにリスクとリターンが生まれる」と思ってるけど、「現状を変えないリスク」もある。例えば銀行預金は、預けておけば安心だって思いがちだけど、物価が上がれば価値は目減りするわけで。だから安定した株に投資した方がリスクとリターンのバランスが取れる場合もある。保守的なことは安全だと思っちゃうけど、決してそんなことはなくて。

 

hime は~。

 

KEN THE 390 だから現状を壊した方がメリットが大きいってことも確実にあると思うんだよね。

 

hime なるほど……。

 

KEN THE 390 チャレンジすることが全てプラスってことではないけど、現状維持は少なくともプラスは生まないし、安全とは決して限らない。

 

hime 私自身、ラップはずっとやってきてはいたけど、全部用意されたものだったし、提示されたものをなぞることがほとんどだから、作ったことも書いたことも、自由にラップすることもなかったんですよね。だからラップはやってきてはいたけど、初心者なのかもなって。だから一歩を踏み出さないとなって思います。

 

KEN THE 390 正解をプロデューサーに任せたいって人も少なくはないと思うし、俺もそういう瞬間はあるよ。「正解、誰か決めて!」ってよく思う(笑)。近々でいえば、TARO SOUL&KEN THE 390としてアルバム「LAP RECORD」を作ったときは、TAROに決定を委ねたりすると、そこでまた新しい景色は見られるんだよね。だから「自分で決める」と「誰かに決めてもらう」の2つを、いいバランスで取れるといいのかもね。

 

hime もうこんなに勇気をもらえるお話を訊けるなんて、本当に嬉しいです。「フリースタイルダンジョン」のとき、ママと私でどちらのバトラーが勝つかの意見が分かれるときがあったんですけど。

 

KEN THE 390 そんな親子の会話があるんだ(笑)。

 

hime いつもKENさんの意見でふたりとも納得してたんですよ。

 

KEN THE 390 ハハハ。ありがとう。

 

hime それぐらいKENさんのお話は的確で論理的だし、今日は本当にお話を伺って気持ちが明るくなりました。毎日ちょっと、ずっと焦ってる感じだったんですよね。大学卒業して、就職か、リリスクかでリリスクを選んだんですけど、コロナでこういう状況になっちゃって。じゃあラッパーとして、ってことも考えたんですけど行動にも移せなくて……そうやってずっとモヤモヤしてたんですよね。だけど、今日のお話を訊いて、とりあえず動いてみよう!と思いました。

 

KEN THE 390 himeちゃんの年齢だったらラッパーとしては全然遅くないからね。それに焦ってるって言える時点で強いと思うよ。俺はhimeちゃんの年齢のときはもっと虚勢張って生きてたし、コンプレックスは口が裂けても言えなかった。でも自分で焦ってるのを自覚して、それを発信できるのは、強さがあるからだと思うし、その気持ちは大事にしたほうがいいと思うな。

 

hime 嬉しい……私、KENさんみたいな大人になりたい! なりたい大人像、見えました(笑)!

hime●5人組ガールズラップユニット・lyrical schoolのメンバー。無類のヒップホップ好きとしても知られる。https://twitter.com/hime_514

KEN THE 390●ラッパー、音楽レーベル”DREAM BOY”主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねた後、2006年アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに10枚のオリジナルアルバムを発表。テレビ朝日にて放送中のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」へ審査員として出演。各種CMをはじめ、舞台、映像作品への参加、ヒプノシスマイクなどジャンルを超えた様々なプロジェクト、アーティストへ楽曲を提供。FM YOKOHAMA「BREAK IT DOWN」WREP「ロックザハウス」などラジオのレギュラーパーソナリティもつとめる。

 

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
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