『ソードアート・オンライン』等で知られる人気アニメーター、足立慎吾さん。前回は、映画ファンになるきっかけとなった作品『ロッキー』シリーズについて語っていただきました。第2回となる今回の作品は『とべ! くじらのピーク』(1991年)。森本晃司さんが監督したこのファンタジーアニメーションが当時の足立さんにどんな影響を与えたのか、そして『~ピーク』にまつわる、足立さんが敬愛してやまないアニメーターや、彼らを追いかけるアニメーター人生にアニメの技術論などなど、大いに語ってもらいます! 足立さんによる、同作をイメージしたイラストもぜひご覧ください。
取材・文/渡辺麻紀
https://tvbros.jp/regular/2021/08/08/8373/
<プロフィール>
あだち・しんご●大阪府生まれ。手掛けた主な作品に『WORKING!!』(2010年/キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、『ソードアート・オンライン』(2012年/キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督補佐・OP&ED作画監督)、『ガリレイドンナ』(2013年/キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、映画『映画大好きポンポさん』(2021年/キャラクターデザイン)など。
うつのみやさとるさんと一緒に仕事が出来れば、夢が叶って僕のアニメーター人生は「上がり」です(笑)
――今回は、足立さんが大きな影響を受けたというアニメーション『とべ! くじらのピーク』ですね。
今回、僕がこの連載企画に参加したのは梅津さん(梅津泰臣/当連載のトップバッター。記事はこちら)の紹介を受けたから。梅津さんは僕が尊敬しているアニメーターのひとりであることは、前回でも語りました。で、もうひとりの尊敬するアニメーターが『~ピーク』の作監とキャラデザインを担当している、うつのみやさとるさんなんですよ。
――うつのみやさんは押井(守)さんの『御先祖様万々歳!』(1989年)もやっていらっしゃいますよね。私も大好きです。キャラデザインがモダンだし、画もとても上手な方という印象です。
うつのみやさんがやっているということも手伝って、僕は押井さんの作品のなかで一番好きなのが『御先祖様~』なんです(笑)。
――ということは『~ピーク』でうつのみやさんを初めて知り、大好きになったとか?
いや、それがうつのみやさんの仕事を初めて観たのは、今でいうMADムービーのようなお手製の編集されたビデオ。ひとりのアニメーターが描いたいい動きだけを集めて編集したビデオを見せられたんです。そのなかに梅津さんとうつのみやさんの作品があった。
――それはいつ頃ですか?
大学に入った頃です。当時の僕はまるでアニメの知識がなくて、一般の人と同じようにアニメ関係で知っている人は宮崎駿というくらい(笑)。高校時代になりたかった職業は漫画家だったけれど、それも絵じゃなくて物語を紡ぎたかったからです。とはいえ漫画は絵がマストなので勉強しようと思い、大学の第一志望を絵にしたんですが、落ちちゃったので次の志望だった映像学科に行ったんです。
――では、その大学でアニメと出会ったわけですね?
そうです。サークルも絵が上手くなれそうなところに入ったら、そこにペーパーアニメーションをやっている先輩がいた。それを見て、そうか、アニメってこうやって作るんだ、自分でも作れるんだって。それまでもアニメは観ていましたが、どうやって作るのかは考えたことがなかった。ハンドメイドで作っている人を見て突然、アニメが現実的になり、とても近い存在になったんです。
そういう先輩たちからアニメについていろいろ教えてもらうなかで、うつのみやさんや梅津さんに出会ったわけです。
――それが先ほどのMADムービー的なものだったんですね。
そのビデオは、ストーリーを追うのではなく、アニメーターの技術だけを抽出したものなので、アニメにはそういう見方もあるのかと驚いたんです。アニメを観るときの、これまでにない視点を教えてもらった感じでしたね。
――うつのみやさんの画のどういうところに惹かれたんですか?
やはり圧倒的な上手さだと思います。シンプルな線で無駄が一切ない。しかもその線は、ここしかないだろうというところにある。すべてがピンポイントなんです。だから、キャラクターが立っているだけなのに、下から引っ張られているような重力を感じさせる。足が地面に吸い付いていると思わせる画が描けるって、本当に凄いですよ。そういうアニメーター、ほとんどいませんから。
もうひとつはタイミング。アニメの場合、コマ数が増えると原画のポイントが最適なポジションにないとアニメとして成立しないんです。本当に上手い人はそのポジションも常にベスト。3コマで豊かな動きが表現できるのは、原画のポジションが完璧という証拠です。
ほら、最近よくアニメの動きを誉める言葉に「ぬるぬる動く」という表現があるじゃないですか? アニメーターに言わせると、それは賛辞じゃない。ぬるぬる見えるのは、不必要な中割り(動画)が入っていることであり、原画のポイントが悪いということになる。だって、実写の映像が「ぬるぬる動いてる」ようには見えないですよね?
アニメにはアニメの描き方がある。でも、それが出来ずに枚数だけを突っ込んだときに「ぬるぬるした動き」になるんです。
それってアニメーターにしてみれば、実は誉め言葉なんかじゃなく、「へたくそ」って言われてるようなもんですから。
――ということは、足立さんは、そういううつのみやさんの仕事を見て、アニメーターを目指したんですね?
そうです。でも、そう言い切っちゃうと、「足立、こんなかわいい女の子を描いていて、作風がまるで違うだろう」とツッコまれちゃいそうですが(笑)、人って往々にして、自分が評価されたい方面で評価されないものですよね?
僕はアクションや動きをやりたくてアニメーターになったのに、そっちのほうではいい仕事が出来なかったんだと思う。でも、女の子を描いたら声がかかるようになり、そういう仕事や作品が多くなった。だから、仕事ってそういうものだと思っているんですよ。
――今回、『~ピーク』を観直したんですか?
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