聖火ランナーを務めました【藤田菜七子 2021年7月号 連載】

 私でいいのかな!? 東京オリンピック2020の聖火ランナーに選んでいただいたと聞いた時、最初に頭に浮かんだのがその言葉です。でも同時に、ワクワクしている自分がいました。

「同じアスリートのひとりとして聖火リレーに参加できることは、とても光栄です」――ちょっと優等生っぽいコメントですが、それは正真正銘、正直な気持ち…いつもたくさんの声援をいただいている東京競馬場のある府中市のコースを、感謝の気持ちを持って走りたい。ずっとそう思っていました。

 コロナ禍の影響で、その聖火リレーは中止に。代わって行われたのが、トーチで聖火をつなぐセレモニー「トーチキス」です。林(修)先生から受けとった聖火を、JRAのCMにも出演している土屋太鳳さんに。ここまで長い旅をして来て、たくさんの人の思いがいっぱいつまった炎を無事に渡し終えた瞬間、ちょっと言葉にはできない感情が込み上げて来ました。

 その東京オリンピック2020が、今日、2021年7月23日に開幕します。

 4度目の緊急事態宣言が発出されている東京で、今、オリンピックを開催することに対して、いろんな意見があるのは知っています。でも――4年に1度しかないこの日のために、すべてをかけて練習して来た選手たちを、同じアスリートのひとりとして、私は心から応援したいと思います。

 前回、ブラジルのリオデジャネイロ大会が開かれたのは2016年でした。「リオ五輪」「感動」「名シーン」をキーワードにしてググると、バドミントン女子ダブルス、マツ・トモペア…高橋礼華選手、松友美佐紀選手の金メダル獲得、卓球男子団体の銀メダル、男子陸上4×100mの銀メダル、体操男子団体の逆転金メダル…と、たくさんのシーンが出て来ます。

 あぁ、そう言えば…思い出した! 興奮したなぁ…人それぞれだと思いますが、5年前のあの感動を、頭の中に思い描ける人がたくさんいるはずです。

 でも…私は何も覚えていなくて。2016年は、私がジョッキーとしてデビューした年…。毎日毎日が精一杯で、頭の中はどうやったら上手くなれるんだろうとか、勝ちたい、勝ちたい! という気持ちでいっぱい。同じ年に開かれたリオ五輪のことは、そう言われると、そんなこともあったような…という、うすぼんやりとした記憶しか残っていません。それどころじゃなかったのも確かですが、メンタル的なことも含めて、トップアスリートの人たちのプレーから学ぶことはたくさんあったはずなのに…ほんと、もったいないことをしたなぁと思います。

 東京オリンピック2020は、できるだけたくさんの競技を観て、勉強したいですね。

 注目しているのは、24日から行われる馬術競技です。競馬とは似て非なるものですが、人馬一体の精神は同じ。馬場馬術、総合馬術、障害馬術と、すべての競技で、男女の区別なく、同じ条件で行われるのも、馬術の魅力です。

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