「私は人の心の本当のところが見たいだけなんです」
とあるインタビューで気がついたら口にしていた。言葉が下唇と少しはみ出た前歯の間の黒い空洞から外気に触れるその瞬間には既に、新たな疑問が喉の奥から込み上げていた。私ほんとうにそんなこと思っていたの? あながち嘘とは言えないけれど、なんだかこれでは、「人の中身が何でできてるか知りたいんです」と言いながら人を殺して解剖し始めるサイコパスの敵キャラみたいで誤解を生みそうな気がする。しかし出てしまった言葉を引っ込めるのはもっと良くない気がするので、そのまま、私は人の心の本当のところを見たいだけの人間として話を続けた。インタビューが終わり帰路に着く車の中、雨の新宿は本当か嘘かわからない光を取り戻し始めていた。緊急事態宣言中は誰もいなくて、あまりにさっぱりとして見えたから危うく好きになるところだったよ。ウゲー、と思っているくらいが丁度いい、そういう街も人もきっとあるもんなんだよなあ、と思う。そうだ私はほんのちょっとだけ、誰かの、ウゲー、となるようなところが見たいのだった。このウゲー、は、相手がそうなっているところを見たいという意味ではなく、目視した私側からの、相手のパーソナリティの一部に捧げるリアクションとしてのウゲー、である。取り繕った表面のきれいさだけを君だと信じたい、という綺麗事としての私と、その皮を剥いだ一枚奥の赤い肉のところを見せておくれよ、と言ってしまいたい私が同梱されているふるさと宅配便がわたしだ。開けないほうがいい。他人と密なコミュニケーションを取る機会を自ら著しく減らしている(そして誰にも気にかけられなくなる、を繰り返している)故にこの欲望を発揮することもしばらくなかった。だからきっと、「私は人の心の本当のところが見たいだけなんです」には、ふわっとそういう意味が込められていたのだと思う。君の中身が何でできてるか知りたいんです。そういってナイフのように言葉を持ってはいるのだけれど、ほんとうにそれを解剖に使うことはあまりない。臆病で、友達が少ないからだ。こういう厨二病くさい例え話を今日だってしているくせに、誰かが自分の性質をアングラ的にカッコよく言い換えているのを見ると飛び上がって喜んでしまう。そう、そう。例え話には君の中身が漏れ出てしまうことがある。普段何色のジュースを飲んで何を食べているのか。どこで何を見て育ったのか。「真っ暗いトンネルの中をずっと歩いているような人生でした」と言っている人を見ると、自分がそういう風に話をしていた頃を思い出しゾワゾワする。ありがとう、わたしはとても性格が悪いから、隙を見てはまるで自分のことを清廉潔白な人間であるかのように勘違いをしそうになるけれど、君の青さで私も青いことを思い出させられた。
遠い昔のことだけれど、まだ自我がふにゃふにゃだった頃、初めて自分で書いた文章が雑誌に載った。
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遠い昔のことだけれど、まだ自我がふにゃふにゃだった頃、初めて自分で書いた文章が雑誌に載った。