【2020年11月号 爆笑問題 連載】『クリスマスプレゼント』『バイバイデ~ン』天下御免の向こう見ず

<文/太田光>
クリスマスプレゼント

 男の子は、部屋で机に向かい思案していた。手紙に何て書こうかな。
 外はすっかり寒い。クリスマスはもうすぐだ。欲しいものを書いてサンタクロースに手紙を出すのが毎年の恒例になっていた。男の子は10歳。何となくサンタとパパの関係もわかってきていた。去年のことを思い出す。男の子が手紙に書き、サンタさんが持って来てくれたのはゲーム機だった。飛び上がって喜んだ。その様子を見てパパもママも笑った。それが嬉しくて男の子も笑った。
 今年は何を書こうかな。いつもはすぐに決まるのに、今年もほしいものはあるけど。
 男の子は文字を書こうとしてはやめ、書こうとしてはやめていた。
 それにしてもサンタはどうやってプレゼントを手に入れるのだろう? 世界中の子供達のプレゼントを全部集めるのって大変だ。ネットで買うんだろうか? お金持ちなのかな? 一晩で世界中を回るのってどうやってるんだろう?
 前に聞いたことがある。本当はパパなの? 「まさか」とパパは言った。
「じゃあ、手紙パパに見せなくてもいい?」
「どういうこと?」
「自分でサンタに出したいから住所教えてよ」
「それは駄目なんだ。子供には教えられない決まりなんだ。パパが手紙を渡すよ」
「パパはサンタと知り合いなの?」
 ママが言った。
「もちろん。パパも子供の頃プレゼントもらってたからね。長い付き合いよ」
「サンタは長生き?」
「そりゃそうだよ。何百年。いや何千年かな?」
「パパはいつ直接話せるようになったの?」
「20歳過ぎてからだよ。それまではパパもおじいちゃんに手紙渡してたんだ」
…そうなのか。
 疑って悪かったな。と男の子は思った。やっぱりサンタはパパじゃない。そういうシステムなんだ。
「ケケケケ」
 突然ヘンテコリンな笑い声が聞こえた。
「誰?」
 見ると部屋の隅に奇っ怪な白い小さな動物がいた。耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
「おまえ、ガキだニャ」
「わ! ネコ?」
「ネコじゃニャイ! おれはウサギだニャ!」
「ウサギ? そうは見えないけどな。ウサギなのに喋るの?」
「ウサギだって喋るニャ! っていうか、ネコニャら喋っても驚かニャイのか?」
「そういうワケじゃないけど」
「それしてもおまえ子供だニャ」
 何を言ってるのかわからなかった。男の子は10歳だから子供といえば子供なんだけど。何でそんなこと改めて言うんだろう?
 ウサギネコはバカにしたようにニヤニヤ笑っている。
「おまえはガキだニャ。その歳でまだサンタを信じてるニャンてニャ。ケケケ! まったくガキだニャぁ…ケケケケ!」
 ウサギネコは大笑いしている。
「サンタはおまえのパパだニャ」
 男の子は少しムッとした。自分もそれを考えて、パパに聞いて説明されて、納得したばっかりだったからだ。
「ケケケ、おまえ、あんニャ話を信じるのかニャ? 見え透いた大人の言い訳だニャ。いい歳してあんニャ話を信じるニャンて、やっぱりガキは純粋だニャぁ。簡単にだまされるニャぁ」
「キミはサンタを信じないの?」
「当たり前だニャ! あんニャの架空にきまってるニャ! そもそも1人で一晩で世界中にプレゼント配るニャンて物理的に不可能だニャ。しかも若いニャらまだしも、あんニャ年寄りがそんニャこと出来るわけニャイニャ。体力的にもたニャイニャ。ケケケケ。おれはそんニャこと2歳ぐらいの時から気づいてたニャ。ケケケケ!」
 ウサギネコは苦しくなるほど笑っている。
 男の子はあきれた。この動物は自分のことはどう思っているんだろう? どちらかといえばこの化け物みたいな動物の方が架空に近いと思うんだけど。
「おれは架空じゃニャイ!」
 ウサギネコは男の子の思ったことがわかるようだった。
「おれはこうしておまえの目の前にいるニャ。これは現実だニャ。見ればわかるニャ。おまえはサンタを見たことがニャイんだろ? だったらそんニャもん、信じられニャイニャ。おれのことは目の前で見てるんだから現実だニャ」
 言われてみればそうだが、なんだかわかったようなわからないような説明だった。
「ところでおまえ、ニャンで早く手紙を書かニャイんだニャ?」
 そうだ。問題はそこだった。男の子は今年のプレゼントを何にするか悩んでいたのだった。
「おまえが今一番ほしいものを書けばいいんだニャ。プレステ5か、Xboxか。ニャンでも書けばいいニャ。そうすればパパがそれを買ってくれるニャ」
「パパじゃなくてサンタね」
「早く書くんだニャ」
「うるさいなぁ」
 ウサギネコはバカにしたようにニヤニヤして男の子を見た。
「何がおかしいの?」
「わかってるニャ。おまえは今自分が一番何がほしいかわからニャイんだニャ。プレステもXboxも鬼滅の刃グッズだって、思い浮かべてもワクワクしニャイんだろ? もらっても心の底から喜べニャイんだろ?」
 ウサギネコの言う通りだった。何でだろう? 今年は何だかいつもと違った。何をもらっても嬉しくないような気がするのだった。何かもっと心の底からほしいものが他にあるような気がするのだった。